はじめてのPHEV…安東弘樹連載コラム
私は、これまでディーゼルエンジンのSUVに10年間以上、乗ってきました。
往復1000km~2000kmの長距離走行が少なくない私にはディーゼルエンジンが向いていると思っていたからです。
実際に高速道路を100km/h~120km/hで連続走行する、というシチュエーションでは、ハイブリッド車より圧倒的に燃費が良い上に、燃料の軽油が、ここ日本では、ガソリンより、かなり安い為、ランニングコストを抑えられる事もあり、ディーゼルエンジンを選んできました。更に低回転からトルクが湧き上がりアクセルレスポンスに優れているディーゼルの特性も気に入っていたのです。
そんな私が、最近のPHEVに興味を持ったのは、駆動バッテリーの総電力量(以下バッテリー容量)が上がってきて、エンジンを使わずモーターだけで走れる距離が伸びてきたからでした。
ディーゼルエンジンの欠点は、その騒音と振動です。最近のディーゼルエンジンは、その両方とも、かなり抑えられていますが、去年からBEV(純電気自動車)に乗り始め、乗る頻度がBEVの方が高くなった事もあり、それ以降、かなり気になってきていました。
走行自体に支障は無いですし、燃費も相変わらず良いのですが、ビルトインガレージでクルマを出し入れする時に、かなりクリーンになっているとは言え、その排ガスも気になってきたのです。
そこで、少なくともクルマの始動時やガレージにクルマを入れる時にはエンジンが止まるハイブリッドのクルマが気になってきたのですが、私の様に高速道路80%の道のりで100kmの距離の走行が、ほぼ毎日、というドライバーにとって、通常のハイブリッド車では、その強みを発揮出来ない事は実証済みでした。
実は、数年前までのPHEVでも、その欠点は、あまり変わらず、PHEVを選択する理由は見当たらなかったのです。
しかし、2021年に発売となった、三菱アウトランダーPHEVのバッテリー容量が20kwhと知り、俄然、食指がPHEVに動いてきました。この容量はBEVの日産サクラや三菱ekクロスEVと同じなのです。
実際に、三菱アウトランダーPHEVを私は、日本カー・オブ・ザ・イヤーに選んだことがあるのですが(実際は他のクルマが受賞)、カタログ値には及ばないまでも、実際に60km程度はモーターだけで走れ、本当に使えるPHEVかもしれないと初めて思えたのです。
しかも普通充電だけではなくグローバルではPHEVとしては珍しい急速充電に対応している点も高く評価した理由です。
ちなみに高速道路も含めた300kmほどを走行した後、満タン法で燃費を計算した所、15km/Lの燃費を記録しました。
ミドルサイズのSUVで2.1tの重量、という事を考えたら上々の燃費です。
しかし、シートサイズが小柄な私でさえ小さく感じたのと、日本の夏場に必須のシートベンチレーターの設定が無かった事で購入を断念、という過去?がありました。
それ以降、頭の片隅に「PHEV」の存在は有ったものの、BEVに乗る前はディーゼルエンジンに満足しており、少しの間、自分のクルマとして購入する、という感覚は忘れていたのです。
しかし2023年。メルセデス・ベンツのコンパクトSUV(日本ではコンパクトではありませんが)GLCにPHEVモデル350eが登場し、そのバッテリー容量は31.2kwh!との事。これは、完全に使えるPHEVではないか、と私は興奮を抑えきれませんでした。
カタログ値のEV走行距離は118kmという事ですが、私はカタログ値を信用していませんので、実際に試乗した結果、少なくとも60kmまではエンジンが掛からないまま走行出来た事は確認できました。しかし、試乗時間が足りず、それ以上の検証は叶わなかったのです。
実際に所有して、日々検証しなければ、実際の使い勝手や、普段の充電状況など、分からない事が多い為、GLCを試乗して以降、「これは実際にPHEVを所有してみよう」という気持ちが強くなっていきました。
しかしGLCは本国では設定があるものの、何故か日本ではアウトランダーと同じくシートベンチレーターの設定が無く、私が好きな明るいタンやベージュといったシート色も選べないなどからGLCは断念。そこで他のPHEVを探した結果、BMW X5 xDrive 50e(
以下X5 50e)というクルマに当たりました。
自分のスタイルに合うPHEV
バッテリー容量は29.5kwh。GLCより少し小さいですが、誤差範囲でしょう。それより重量がGLCより200kgほど重い影響か(何と2500kg)、カタログ上のEV走行距離は110km。これも信用出来ませんが、一応、普段、私が自宅と都心の仕事場の往復、100km弱はEVとしてエンジンに頼らず走行出来る事になります。
これまでの経験上、私の使い方だと(高速道路中心)日本メーカーのカタログ値燃費と実際の燃費の解離より輸入車の方が解離は少ない傾向がありますので、実際の結果が楽しみでした。
しかもシートのベンチレーターは排熱だけでなく、冷気も吹き込む、アクティブ式!これは!と思い、販売店に駆け込みました。
正直、X5 50eは完全に予算オーバーの価格でしたが、前愛車が、思いの外、高く売れた上に珍しくローンも完済しておりましたので、それに少しの金額を上乗せして頭金にし、またしても私のクルマローン生活が続きます(37年目、金利が低いのも助かりました 笑)。
実は契約から納車まで7ヶ月ほど掛かりましたが、前のクルマとの別れが辛いという感覚もありましたので、苦痛?ではありませんでした。
さあ、いよいよ検証の時です。
1000kmは走って検証したい。その上PHEVの実力の検証をする為には宿泊する宿に普通充電器が設置してある必要がありますので、片道約530kmの距離の奈良県に所在する、あるホテルまでの往復をする事にしました。
スケジュールに限りがあるので観光は、ほぼ無しの予定です。
納車の2日後の某日、11時頃に千葉の自宅を出発。勿論、満充電。ガソリンも満タン。メーターのバッテリー残量表示には走行可能距離が出るだけでSOC(%)表示はありません。
これには少し不満ですが、バッテリーによるモーターでの走行可能距離は88kmと表示されています。
ちなみに燃料を合わせた走行可能距離は841kmとの表示。
あれ?やはりカタログ値EV走行110kmというのはアテにならないか。など呟きながら、それでも当然の様にモーターだけで走り出しました。
X5 50eのエンジンは直6のガソリンターボ。単体で313ps 450Nm。モーターと合わせたシステム出力は489ps 700Nmという、一昔前のスーパーカー並のスペックを持っています。
0-100km/h加速も4.8秒、という、これは2世代前のポルシェ911と、ほぼ同じ数値です。
その事からも燃費や環境性能には懐疑的ではありました。
だからこそ、ハイブリッド系のクルマには不利とされる、高速道路の連続走行のリアルな燃費や走行感を知りたかったのです。
しかしX5 50eは、それを見事に裏切ってくれます。
走行モードは基本的には「スポーツ」「ハイブリッド」「エレクトリック」の3つ。
まずはEV走行を優先する「エレクトリック」で走り始めます。
しかしこれまで私が乗ってきたPHEVは当初の表示から想定より、かなり早く走行可能距離が短くなる傾向があったのですが、X5 50eは88kmからの距離の減りが遅く、結局106km程走るまでエンジンは掛かりませんでした。これには驚きました。
実際に、ほぼカタログ値と同じくらい走った事になります。しかも高速道路は制限速度と同じスピードで走り、前を走るトラックが遅い時は追い越し車線を使って追い越しなどもしながらで、この状況だったのです。
ただ、モーター出力も高い事からアクセルを、ほんの少しだけ踏み足すだけで想像よりも一段上の加速をしてくれた為、アクセルを踏む量は少なかったのは確か。
そして駆動用のバッテリーを使い果たしたので、ハイブリッドモードに切り替え、いよいよこれから燃費が、ドンドン悪くなっていくのを予想しながら走り続けました。
勿論、106kmまでは燃料を1滴も使っていないので、表示上は99.5km/Lになっています。
そこから、確かに燃費は悪くなっていくのですが、予想を上回る高燃費を維持しながらの、緩やかな悪化となりました。
それに、再び驚いたのが、直6エンジンそのものが滑らかで、モーターと区別がつかない位、静かで振動が少ないことです。流石「シルキー6」と呼ばれるだけのことはあります。
結局、奈良のホテルに着いた時の総合燃費は18km/L以上で到着。しかも途中の東名阪国道で発生したばかりの事故渋滞に巻き込まれ、25分ほど、完全に止まったままになりながらの到着でしたので、かなり不利な状況での数値です。この時点でPHEV、素晴らしい!という感想を持ったのは言うまでもありません。
ちなみに燃料は半分以上残っています。69Lと、このサイズのSUVとしては小さい燃料タンクですが、恐らく530km以上を走って30Lほどしか使っていないでしょう。
高速道路メインで106kmをEVで走ったという事は、普段、私が通勤で使う分には、ほぼエンジンを使わず仕事の往復が出来る、という事です。
しかも何かあったときも充電器を探さなくても良いという安心感があります。
往路と同じ行程で自宅に着いた時の、総走行距離が1085km。結局、途中の給油無しで奈良の往復を走り切り、今回の総合燃費は17.05km/Lという結果になりました。
長距離走行でも、このバッテリー容量があれば、PHEVはディーゼルエンジンと同等の燃費、すなわち環境負荷も同じくらいに抑えられる、という事が分かって、少し安堵しました。
制限速度が、もう少し低い自動車専用道路程度がメインの使い方であれば、EV走行距離も伸びると思いますし、ましてや一般道中心の使い方で、自宅に200Vの充電器があれば鬼に金棒です。恐らくガソリンスタンドに行く事は滅多になくなるでしょう。
ただ、現状、30kwh前後の容量をもつPHEVは輸入車に限られるのですが、私の様に普段から高速道路を使うのでなければ、10kwh~20kwhのバッテリー容量のPHEVでも十分、環境負荷は抑えられると思います。
ちなみに、この夏の猛暑で、自宅ガレージのソーラー発電器はフルで発電し、かなりの売電価格になりました。当然、BEVの運用にランニングコストは掛かっていません。
ただ、経済的メリットだけ、を考えれば、イニシャルコストを考慮するとPHEVを手放しでは勧められませんが、燃料価格が今後、極端に下がるとは考えられませんし、何より自分のクルマの環境負荷を減らしたい、という方でしたら、あらためてPHEVという選択も「有り」なのではないでしょうか。
今回の検証で、私は完全なゼロ・エミッションのクルマに変わるまでの橋渡し?としてPHEVは「有り」だと感じました。
安東弘樹
安東弘樹連載コラム
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