最新の輸入電気自動車を一気に5車種試乗してきました …安東弘樹連載コラム


毎年1月下旬から2月上旬にかけて日本自動車輸入組合(以下JAIA)主催の試乗会が、ジャーナリストや自動車メディアを対象に行われます。
私、今年も2月上旬に参加させて頂きました。

輸入車の特徴として、最近は電気自動車(完全電気自動車 BEVやプラグイン・ハイブリッド)が増えてきているのですが、今年もその傾向は変わりません。
ヨーロッパでは一時期のBEV一辺倒という流れは少し変わってきましたが、全体的にBEVが増えているのはこれまでと同様です。

何しろ今回、私が試乗した5台全てがBEVになってしまった事が証左かもしれません。

この試乗会、ほぼ全てのインポーターが参加している事から、現状、日本国内で購入出来る新しい輸入車が勢揃いします。その中から招待されたジャーナリストや媒体は事前に試乗したい車を申請し、申請が集中した車は抽選になりますが、1人最大5台(1台につき試乗時間は80分)は試乗できる、という仕組みになっています。

私が申請したクルマの中で5台中4台は申請通りに試乗できましたが、1台は外れました。

その1台はガソリンのスポーツカーでしたが、他の4台と補欠?に選んだ1台が、たまたまBEVでしたので、結果、私がこの日に乗った新しい輸入車が全てBEVになってしまったという訳です。

BEVだから、という理由で選んだクルマは無く、これまで乗った事がない、自分で購入するつもりは無くても、このクルマには乗っておかなければ、というクルマを選んだら全てBEV…。

あらためて輸入車のBEV率の高さに驚きました。

私が試乗した車は乗った順番で
1.MINI エースマン
2.ロータス・エレトレR
3.メルセデス・ベンツ G580 with EQテクノロジー
4.ポルシェ・マカン4
5.ボルボ・EX40 ウルトラ ツインモーター
この5台です。

1台ずつ印象をお伝えしますと…。

MINI エースマン

  • MINI エースマン SE

まずMINIですが、見た目よりコンパクトな(全長は4080 mm)サイズで航続距離の目安になるバッテリー容量(総電力量)は、今回乗った上位グレードで54.2 kWhと最近のBEVの中では割と控えめな容量のバッテリーです。
しかし、モーターの出力は218 PS/330 N・mと、このサイズのBEVの中では強力と言って良いでしょう。

車重も1740 kgと軽量な方ですので、十分な加速力を見せてくれました。
今回私が選んだ試乗ルートは全車、大磯ロングビーチの駐車場から西湘バイパスに乗って箱根方面に向かい、箱根新道を登り、途中でUターンして戻ってくるというコースに決めました。同じコースで、それぞれのクルマの特性を感じてみようという訳です。

その場合、駐車場から西湘バイパスに進入する際、一時停止し、殆ど「無い」と言って良い合流車線から瞬時に制限速度、または、それ以上の速度で本線を走っているクルマの流れに乗らなければなりません。そう、スムーズに合流するには停止状態からの加速力が重要になるのです。
その点、BEVは本当に楽に加速してくれます。最高出力や最大トルクだけではなく、アクセル操作に対して瞬時に加速してくれるBEVの特性には助けられました。

今回の5台の中で最もモーターのスペックが低いMINIでも同様で、素早く合流した後は制限速度70 km/hで巡航します。しかし、多少荒れている路面の西湘バイパスで、MINIのサスペンションはかなり固く感じて、終始身体が上下に動くのです。隣に座っていたWEBメディアの記者の方も、「随分固い足ですね」と驚いていました。

MINIの「ゴーカートフィーリング」というキャッチコピーにはピッタリですが、SUVという立ち位置で見た時には、好みは分かれるかもしれません。唯、その後の箱根新道は登りのワインディングロード。すると、この足が「シャキッと」している様に感じて、静かに力強く仕事をするモーターと相まって、快適に思えてくるから不思議です。

しかし、箱根新道を登っているとスタート時バッテリー残量80%で238 kmだった航続距離は、みるみる減っていきます。10 kmほど走った段階で航続距離は200 kmを切りました。

正に、これがBEVの特徴です。走行状況が良い時は、バッテリー容量が激減する事はありませんが、低温時や高負荷になると、減り方が一気に変わってくるのです。私自身、普段からBEV(プジョーe-208)に乗っているので、これは想定内ですが、箱根新道を選んだのも、この様な高負荷時のバッテリー残量の減り方を確認したかった、というのが理由の一つでした。

MINIは自分のe-208より高負荷時のバッテリーの減りが少し穏やかだと感じました。バッテリー容量はほぼ同じですが、クルマ自体が新しいのと当日は快晴で気温もあまり低くなかった(風が強かったので体感温度は低かったのですが)のが要因かもしれません。

箱根新道の下りはMINIも当然、減速時の回生が効いて航続距離は増えていくのですが、回生量は2段階しか選べません。それでも十分に回生しながら下っていくのですが、回生無しだとフットブレーキを踏まないと十分な減速ができず、回生を強くすると減速しすぎるので、やはりもう少し細かく回生量を選べると嬉しい、と思ったのは確かです。

全体的には、その個性的なエクステリアやコンパクトなボディーの割にはe-208より広く感じる室内空間、そしてメーター類やシートの素材やデザイン、モーター音(走行音)の遊び心など、次のBEV候補になった事をお伝えしておきましょう。価格は試乗したSEグレードで556万円…。仕事を更に頑張ります。

ロータス・エレトレR

続いてロータス・エレトレR

  • ロータス・エレトレR

これは、正にモンスターでした。スペックはバッテリー容量112 kWhで最高出力918 PS!最大トルクは985 N・m!0-100 km/h加速は2.95秒!!

サイズも全長5.1m 全幅2.02m全高1.63mという日本での使用は完全に無視されている大きさです。車重は2.7t

一言で申し上げると、恐ろしく速く、大きく、重い「ロータス」です。私が所有していたロータス・エリーゼとは正に対極のクルマと言って良いでしょう。それだけに「新生ロータス」には必ず乗ってみたかったのです。

こんなスペック、日本では必要無いと思っていましたが、西湘バイパスが試乗コースだったのがエレトレRには良かったのでしょう。
合流では本線を走っているトラックとトラックの間に車間が空いていたので、後方のトラックの迷惑にならないように少し強めにアクセルを踏んでみたら、4輪にモンスタースペックのモーターの力が瞬時に加わり、正にワープの様な加速で後続のトラックは一瞬で遙か後方に居ました…。前を走っていたトラックに近づき過ぎない様に気を付けて巡航します。
後ろから来たトラックのドライバーさんは、巨体のエレトレが一瞬で加速する様子を見てどう思ったのでしょうか?感想を訊いてみたい位でした。あらためて、加速力も安全に寄与する、というのを実感します。

その後の箱根新道の登りでは勾配を全く感じません。平地と同じように登っていきます。
バッテリー残量は減っていくものの、容量が大きいのでパーセンテージの減りはMINIより穏やかでした。
そして何より楽しいのは下りの時です。回生量をステアリング・パドルで4段階選べる為、フットブレーキを殆ど踏む事無く、減速を自在にコントロールできて、バッテリー残量が増えていくのを確認しながら降りてきました。

エレトレの特徴は、運転していると、その大きさや重さを感じない事です。まるで一回り小さいクルマを運転している様でした。これがインポーター広報の方が「安東さん、このクルマ、安東さんのエリーゼと同じフィロソフィーを感じて頂けるはずです」と言っていた意味なのか、と妙に納得しかけましたが、価格は2324万円、、、やはりエリーゼとは違うクルマです(笑)。

でもハンドリングは確かに軽快でしたので、その事はお伝えしておきます。

メルセデス・ベンツG580 with EQテクノロジー

次はメルセデスG580 EQ

  • メルセデス・ベンツG580 with EQテクノロジー

これもモンスター。最初にモータースペックをご紹介。587 PS/1164 N・m!!
オフロード車らしく、エレトレと比べて出力とトルクのバランスの違いにまず驚きます。
恐らく、これまで私が運転したことのある車の中で最もトルク値が高いクルマでしょう。

このクルマも西湘バイパスの合流など簡単です。重さ3120 kgのクルマが瞬時に制限速度の70 km/hに到達します。後ろから走ってくるクルマを一瞬も苛立たせる事なく流れに乗る事が出来ました。

そしてこのクルマ、とにかく乗り心地が良いのです。エンジンのGクラスと比べると重いバッテリーがフロアに敷き詰められている為、重いエンジンがボンネットに収まっているエンジン車と比べて重心が低く、ロール感が圧倒的に少ないのが理由だと思われます。

更に、このクルマ「だけ」の特徴として、4輪全てにモーターが付いているので4輪を各々制御出来ることでしょう。その産物としてクルマの中心を軸に駒のように廻れる「Gターン」が可能になっているのです。実はこの機能、オフロードを走る際には大きな武器になるのが、ジムニーで林道を走っている経験上、理解はできます。想像はできませんが(笑)

バッテリー容量は116 kWhで航続距離はカタログ上、530 km。今回の試乗では計算上、400kmほど走れる印象です。唯、これまでのGクラスは都内で見かけると、オフロード性能が勿体ない上に燃費も悪いし環境負荷も大きいだろうな…。なんて思ってしまいますが、もし私がこのG580をガレージに納めた場合、ソーラー発電による電気を充電して走るのであれば、環境負荷を抑えながら、走らせることができるかも、等と妄想してしまいましたが、価格は2635万円…。エレトレを超えてきました。妄想だけで終らせましょう。

この2台に続けて乗ったところで「お腹イッパイ」になりましたが、まだまだ残っています。

ポルシェ・マカン4

次が新しい「BEVの」ポルシェ・マカン4です。

  • ポルシェ・マカン4

エレトレ、G580の後なのでスペック表を見ると、安心?します。
408 PS/650 N・m。バッテリー容量は100 kWh
内装の雰囲気や装備も、「全部入り」だった前述の2台と比べると、とてもシンプルに見えます。人間の感覚とは恐ろしいもので、天下のポルシェがサイズも含めて「身近」に感じました。

4784×1938×1622 mm。日本車を基準に考えると十分に大きいサイズですが、実際に乗っても本当にコンパクトに感じたのが正直なところです。

BEVのマカンの中では4つあるグレードの下から2番目となるスペックのマカン4ですが、勿論、西湘バイパス合流は難なくこなし巡航。MINIよりしなやかと感じた足ですが、やはりそこはポルシェ。箱根新道のワインディングを盤石のスタビリティーで登っていきます。

しかし、下りで残念だったのが、回生量を走行しながら調整する事ができないのです。勿論、ステアリングにパドルも付いていません。これは同じくBEVのタイカンもそうなのですが、特別なモデル以外はポルシェは回生量をドライバーが任意で変えることができません。ポルシェのエンジニア曰く、クルマが最適な回生をするのでドライバーはクルマに任せれば良い。ということなのですが、これは私個人的には納得出来ません。「嘘でも良いから」ドライバーに選択権を与えて欲しいと思ってしまいます。

価格はオプションも含めて1440万円でしたが、装備も極めて「普通」(シートもヒーターのみでベンチレーターは無し)でしたので感想は以上です(笑)。

ボルボ・EX40 ウルトラ ツインモーター

さて、最後はボルボEX40。

  • ボルボ・EX40 ウルトラ ツインモーター

このクルマは実質、以前のXC40リチャージのマイナーチェンジモデル。
唯、大きく違うのは4WDモデルのウルトラ ツインモーターが加わった事です。

サイズは4440×1875×1650 mmでモーターのスペックは、フロントとリアのモーター毎の出力は発表されていますが、合わせたシステムスペックは公表されていません。それぞれを足してみると、出力が400 PSほどでトルクは600 N・mほどになりなすので十分強力。ちなみに試乗車の航続距離はカタログ上、560 kmとなっていました。
バッテリー容量は78 kWhで価格は試乗車が821万円。

そして、このクルマの特徴は、回生を使って完全停止までする、ワンペダルドライブモードがあることでしょう。

リサイクル素材のトリムやシート素材、シンプルなデザインなど、刺さる人には刺さるクルマですが、フロント・リアのシートヒーターは付いていますがベンチレーターは装備無しなど、私個人としては、そのコンセプトには惹かれますが、強い魅力を感じる、というところまでは行きませんでした。

かつてのボルボは装備満載でコスパが高い、というイメージで私も所有したことがあるのですが、最近のボルボは進む方向は間違っていないのは理解しつつも、人間の根源的な要望(欲)に応えるのをやめてしまった様な印象を受けます。

サスティナビリティを満たしながらも、800万円のクルマにシートベンチレーターを装備する事は可能だと思うのは私が欲深いからでしょうか?

走りは「安定」の一言。過不足ない加速や、足回りのセッティング。穏やかに移動出来ることは保証します。それから、ボルボのGoogle システムは音声コマンドが完璧です。ナビの設定だけでなく、多くの疑問にも答えてくれます。

今回は、いつもより字数がかなり増えてしまいましたが、それぞれのクルマについて多少は御理解頂けたでしょうか?

もしかしたら、GAZOO読者の皆様の中には、BEVにあまり興味が無い方もいらっしゃるかもしれませんが、輸入電気自動車の現場をお伝えしました。

少しでも参考になれば幸甚です。

安東弘樹

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