日本カー・オブ・ザ・イヤー2025-2026…安東弘樹連載コラム
2025年12月4日に日本カー・オブ・ザ・イヤー2025-2026(以下COTY)が発表されました。
私も選考委員として発表会に参加して、その瞬間に立ち会いました。
このサイトをご覧になっている方はご存じだと思いますが、今回のCOTYは
SUBARUのフォレスターに決まりました。
そして今回も私の選考と実際のCOTY受賞車が一致しませんでしたので、記録更新!
これで8年連続。選考委員になってから1回も一致することなく現在に至っています。
そもそも私が選考委員になったばかりの頃、当時の実行委員長に言っていただいたのが「安東さんには、長く自動車業界に居る他の選考委員とは違う視点での評価を期待しています。」というお言葉でした。
ですので、そういう意味では、これまでの結果は間違っていないのではないか、という自負もあります。
その上で今回のCOTYの最終結果をあらためておさらいしておきましょう。
受賞車をご紹介
COTYがSUBARU フォレスター。
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2025-2026 日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY) スバル・フォレスター
COTYが日本メーカーの車でしたので、輸入車の中で最も獲得ポイントが多かった、インポート・カー・オブ・ザ・イヤー(以下I・COTY)はフォルクスワーゲン ID.BUZZ。
デザイン・カー・オブ・ザ・イヤー(以下D・COTY)は同じくフォルクスワーゲン ID.BUZZ。
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インポート・カー・オブ・ザ・イヤー(I・COTY)とデザイン・カー・オブ・ザ・イヤー(D・COTY)のW受賞 フォルクスワーゲン ID.Buzz
テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤー(以下T・COTY)はポルシェ911カレラGTS
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テクノロジー・カー・オブ・ザ・イヤー ポルシェ 911 カレラ GTS
という結果になりました。
ちなみに、今回T・COTYに選ばれたポルシェのような高級輸入車ブランドがCOTYにノミネートする理由を日本法人の方に伺ったところ、「販売台数以外の評価が分かりにくいので、日本市場にどのように評価されているか知りたい。という要望が本国から来ることが増えた。」というお答えを頂きました。その評価を説明するのに、COTYの受賞が一番分かりやすいそうです。
恐らく、高級車ブランドにとってCOTY受賞の有無は販売には全く影響しないであろうことが想像できますので、疑問に思っていた私が納得したのは言うまでもありません。
それを裏付けるように、ポルシェ・ジャパンの広報の方が受賞の瞬間に、かなり喜んでいらっしゃったのが印象的でした。
今回のポルシェ911GTSのT・COTYの受賞理由は、ポルシェ911として初めてのハイブリッドエンジンによる高出力化と高燃費化の高度な両立、という点を挙げている選考委員の方が多かったようです。
私がT・COTYに選んだのは、10ベストカーには選ばれなかった、キャデラック・リリックというキャデラックブランド初の電気自動車でした。
感心したのがその回生力を変える操作ロジックと機構で、ステアリング左に一つだけ付いているパドルを使って無段階で回生を調整できるという、これまでに無い初めてのもので、実際に走ってみると、まさに自在に加減速と回生量をコントロールできるのです。
もちろん、これも少数意見でしたが…。
D・COTYのID.BUZZは私も投票しましたが、レトロでありながら未来的でもあり、存在感とキュートさの両立が流石と言わざるを得ないというような理由が主流でした。
そして今回のCOTYであるSUBARU・フォレスターはHONDA・プレリュードとの激戦を制し、僅差で勝利をつかみ取った形になります。
実際に、この両車に対するメーカーの執念のようなものを今回は感じました。
投票日が近づいてくると、両車の魅力を列記したメールが選考委員に送られてくることが増え、当該車に対する「愛」が綴られていたのです。
COTY発表会の2週間ほど前に、最年少のCOTY選考委員(28歳!)の方と2人で食事をしたのですが、その方も「今回はフォレスターとプレリュード、2強の戦いになりそうですね」と仰っていて、私は全く予想ができていなかったので驚きました。
その方はまだ若いのですが、ずっと車業界にいる方ですので、選考委員の傾向が分かるそうです。実際にその通りになりましたので、ある意味、私が選考委員でいる理由といいますか、「違う方向の意見」の一翼を担う使命を改めて感じさせていただきました。
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日産・リーフ
今回も悩みに悩みましたが、悩んだ挙げ句、様々な項目を作って(例えば動力性能・燃費/電費・装備・コストパフォーマンス・デザイン・所有する歓び、など)チャート化し、それで最も高得点になったものを選びました。そうすることで、最終的にはすんなり決まったとも言えます。
10ベストカー試乗会であらためて10台全てに乗ったことで、さらに確信したことも付け加えておきます。
試乗した時に印象に残った車や純粋に欲しい、と思ったクルマは他にもあったのですが、それですと、あまりに個人的な嗜好に偏ってしまうので、いつも「脳内で」チャートを使っていましたが、今回は実際に「書いて」みてCOTYを選んでみました。
しかも今回の投票は、10ベストカー全てに配点して、さらに、それぞれの車に評価を書く、という方式でしたので(実は私は今回の投票方式の発案者の1人なのです)、投票の労力は掛かりますが、そのくらいの労力は必要だと思っています。
話は逸れましたが、チャートを書いた結果、リーフを選んだという感じでした。
理由としては、内外装の質感が高い。モーター出力やバッテリー容量のバランスが良く、航続距離が長くなった。パノラマルーフの疑似サンシェードがお洒落で便利。などトータル的に評価できました。
心より頭で考えた結果と言って良いでしょう。
もちろん選考に後悔はありませんので、胸を張って今回のCOTYは日産・リーフです!と言えるのですが…。
実はここだけの話を告白すると…、COTY発表会の後の懇親会で、選考委員、実行委員の方やメーカー、インポーターの方と懇談しているなかで、某インポーター日本法人のドイツ人の社長と「英語で」話をしていた際に、「安東さんは何をCOTYに選んだのですか?」と訊かれ「残念ながら御社の車ではなく…」とここで自分が選んだ「リーフ」の名前がしばらく出てこなかったのです。
英語で話している時の脳の使い方が違うのを「言い訳」にさせていただきますが、あの時、すぐに「リーフ」が思い浮かばなかったのは、自分の「感情」ではなく、「理論」で選んだからではないかと、後で「反省」ではなく「反芻」しました。
選考基準
それにしても、最近のCOTYの選考に悩む理由として日本の経済状況が大きく影響しています。
世界的に原料や資材、流通などの価格が高騰しているため、クルマの価格が上がっている中、日本人の収入は上がらず、多くの方が購入できる新車が少なくなっています。
私がCOTYに選んだ日産のリーフB7も518万円~。先進国の中で「500万円」が高級車価格なのは日本だけ。というのが現状です。
クルマの購入価格の目安と言われている「年収の半額」を日本の平均年収で考えると、今回の10ベストカーで新車を現実的に購入できるのは軽自動車のDAIHATSU・ムーヴだけ、ということになるのです。
30年~40年前ですと平均年収は今とほとんど変わりませんから、今回のCOTYで2位になったHONDAプレリュード(現行車は618万円~)を(当時150万円~200万円)現実的に購入車リストに載せていた、という方もいらっしゃると思います。
こうなると私は今後、価格別にCOTYを選ばなければならなくなると思っています。
DAIHATSUのムーヴは今回、10ベストカーの中では最下位になってしまいましたが(もちろん10ベストカーに選ばれるだけでも素晴らしいのですが)、実際に諸費用も含めると完全に500万円未満で購入できるクルマは10ベストカーの中ではムーヴとヒョンデのインスターだけと言っても良いでしょう。
その中でも車体価格は、ギリギリ400万円台のSUBARUフォレスターが多くの選考委員に評価されたのは納得できます。
私は今回、フォレスターを3位にしました。もちろん、素晴らしいクルマであることは間違いありません。徹底的に使い勝手を考え、デザインもグローバルで評価されるクリーンなものになりました。
そして「これまでのSUBARU車の弱点であった燃費の悪さを、ストロングハイブリッドを採用することで克服した」というのが、多くの選考委員の評価でしたが、私が乗った際の燃費が「特筆すべきほど」ではなかったことが3位にした理由の一つです。
それから、私は子ども達が見たり乗ったりした際に、「わー!」と言わせる何かがある、ということを評価基準の一つにしているのですが、その部分が上位の2車(リーフのパノラマルーフのサンシェードや、ID.BUZZの全体的なデザインなど)と比べると足りなかったのも3位にした理由です。
そして、これは前回のコラムにも書きましたが、今回のCOTYへのノミネート35車中25車が海外メーカーの輸入車で、日本メーカーは全体の3分の一にも満たない10車でした。
しかし、日本企業がまだ元気な頃?例えばCOTY2009-2010ではノミネート39車の内、日本メーカーの車が22車と半分以上だったのです。そして、その前後の年は日本車の方が多い状態が続きますが2015年位から日本車のノミネートが減っていきます。
輸入車のシェアが1割未満という日本市場に於いて、この状況は寂しくもありますが、今の日本メーカーが車種を増やすより、1台のクルマに技術を凝縮させるようになったという考え方もできます。
でも何より、将来の大きな飛躍を前にここ10年、日本メーカーは力を溜めている。と私は信じています。
皆さんは今回のCOTYの結果は、どのように感じられますか?
最近はCOTYを購入車の参考にしている方は少ないとは思いますが、今回の結果に賛否、様々な意見があると思います。
皆さん、それぞれの日本カー・オブ・ザ・イヤーをコメント欄にて教えていただければ幸いです。
さて、2025年も、間もなく終わりますが、今年1年間、私の稚拙なコラムにお付き合いいただき、誠に有難うございました。
皆様は、どんな1年間だったでしょうか?皆様にとって2026年が素晴らしい年になるよう祈念しています。
どうぞ良いお年をお迎えください。
安東弘樹







