ナンパな男たちを夢中にさせた“デートカー”。ホンダ 3代目プレリュードとスペシャリティカーたち・・・1980~90年代に輝いた車&カルチャー
多くの若者がクルマに憧れた1980〜90年代。クルマは人や荷物を運ぶ道具としての役割だけでなく、若者たちのカルチャーを牽引する存在でした。そして、ドライブがデートの定番であり、クルマを持っていることがステータスでした。
だからこそ当時のクルマは、乗っていた人はもちろん、所有していなかった人、まだ運転免許すら持っていなかった人にも実体験として記憶に刻まれているのではないかと感じます。
そんな1980〜90年代の記憶に残るクルマたちを当時のカルチャーを添えながら振り返っていきましょう。
「モテるクルマに乗りたい!」という声に応えた2代目プレリュード
2023年10月28日から一般公開がスタートした、ジャパンモビリティショー2023。ホンダのブースではあるモデルが展示されて世間を驚かせました。開催前は「『Honda Specialty Sports Concept(スペシャリティ スポーツ コンセプト)』をワールドプレミアする」と予告されていたモデルが、イベント開催時に『プレリュード コンセプト』として登場したのです。
プレリュードという言葉を聞いて、世の50代の男性は懐かしさを感じるとともに、心に何かがたぎったのではないでしょうか。
高度経済成長期から安定成長期に入り、円安ドル高が後押しして日本の輸出産業が驚異的な成長を記録した1980年代前半。若者も豊かな日本の恩恵を受けるようになりました。サーフィンブーム、DCブランドブーム、ディスコブーム、海外旅行ブーム……当時の若者が生み出したブームを上げればきりがありません。
そういえば『DINKS(ダブル・イン・カム・ノー・キッズ)』という言葉が生まれたのもこの頃でした。
1980年代後半のバブル景気に向け、日本中が浮かれていた時期。まさか数十年後には子供が欲しくても持てないどころか、結婚することすらままならない時代がやってくるとは夢にも思わなかったでしょう。
そんな1980年代前半に、クルマの世界でもひとつのブームが到来します。それが1982年に登場した2代目プレリュードに端を発する“デートカー”ブームです。
リトラクタブルヘッドライトという非日常的な装備をまとった流麗な2ドアクーペは、『Hot-Dog PRESS』や『POPEYE』といった大学生をターゲットにしたファッション&カルチャー情報誌(=マニュアル本)でも多く取り上げられ、いつしか“デートカー”と呼ばれるようになりました。
中でもプレリュードはデートカーとして別格の存在感がありました。デビュー時はフェンダーミラーでしたが、1983年にドアミラーが解禁になるとその美しさがますます際立ちました。エンジンを低い位置に設置するとともにフロントサスペンションのスペース効率を高めることで、FF車でありながらボンネットを驚くほど低いデザインにしています。これがプレリュード特有の“美しさ”につながっています。
プレリュードは助手席のリクライニングレバーが運転席側にもついていたため、たとえばデートでキレイな夜景を見に行き、車内がムーディーになった時にわざわざドアの方まで手を伸ばさなくても女性が座る助手席を倒すことができたのです(通称:ス●ベレバー)。
ホンダは稀に若者から「神!」と呼ばれる機能を盛り込むことがあり、たとえば1996年に登場したS-MXはシートをフルフラットにすると(シートに凹凸がほとんどないので本当のベッドのようにできました)、なぜか枕元にティッシュボックスを収納できるスペースが設置されていたりしました。
もちろんメーカーとしては別の使い方を想定してこれらの機能を取り入れているはずですが、デートをスマートに楽しみたいマニュアル君にとってプレリュードは最高のクルマとなったのです。
当時はまだ運転免許を取得できる年齢ではなかった筆者も、マニュアル情報誌でこの機能を知って「プレリュード、けしからんクルマだ!」と考えるようになり、街でプレリュードを見かけるとオーナーはみんなスケベ目的で乗っているに違いないと思いながら、とてもうらやましい気持ちになっていました。
2代目プレリュードのデートカーとしての機能は1987年4月にデビューした3代目にも継承されました。3代目はスタイルが一層流麗になり、FFスペシャリティカーとしての美しさを極めた完成形だったと言えるでしょう。前高はわずか1295mm。ボンネットは2代目よりさらに薄くなり、シャープで流れるようなスタイルに多くの若者が飛びついたのです。
1988年、プレリュードのライバルとなるS13シルビアがデビュー
プレリュードの双璧をなすデートカー。それは間違いなく日産 シルビアでした。シルビアは1965年に世に送り出された初代から、スペシャリティクーペ(当時はまだこの言葉は生まれていませんでしたが)として揺るぎない立ち位置を築いてきました。そして1988年5月に登場した5代目(S13型)が、デートカーとして絶大な支持を得ます。
言うまでもなく理由はデザインにありました。流麗なボディ、低いボンネットと薄いヘッドライト。インテリアもヘッドレスト一体型の丸みのあるシートや曲面で構成されたダッシュボードが斬新でした。
『アート・フォース・シルビア』というキャッチコピーが示すように、デザインにとことんこだわったことで、「シルビアに乗っている人ってカッコいい!」という女性が急増。これにより「シルビアに乗ればモテる!」という神話が生まれました。
走りにデートに人気だった4代目セリカ GT-FOUR
プレリュードやシルビアに比べると人気はやや下がりましたが、80年代のデートカーとして忘れてはならないのが4代目トヨタ セリカGT-FOUR(ST165)です。
映画『私をスキーに連れてって』に原田貴和子さんと高橋ひとみさんの愛車として登場したセリカは、スキーブームで冬の週末は苗場などで過ごす女性の憧れのクルマとなり、セリカに乗る男性もモテましたね。スキーをやらないのであれば、FFのセリカでもデートカーとしての威力は十分ありました。
高校生までもがデートカーに飛びついたバブル時代
80年代中盤以降がすごい時代だったなと思うのは、社会人はもちろん、学生でも普通に新車でデートカーに乗っていたこと。
筆者は高校2年、3年で当時は某ファストフード店でアルバイトをしていました。同じ店で働く大学生の先輩は、ある日真っ赤なBA5プレリュードで現れました。ちなみに筆者の初めての時給が520円だったので、普通に考えればどれだけ必死に働いたって大学生がクルマなんか買えるわけありません。当時は史上空前の好景気だったので、親に買ってもらっていたのですね。筆者が通う高校でも18歳の誕生日にS13シルビアやAE92トレノを買ってもらって、学ランで運転してくるやつらがいました。
女子大生は卒業式に学校の外でプレリュードやシルビアに乗った彼氏が花束を持って待っているのがステイタスだったのですから、すごい時代です……。
プレリュード、シルビア、セリカ……。今回は“デートカー”という切り口で紹介しましたが、どれも見かけだけのナンパなクルマだったわけではありません。
プレリュードはどの世代もホンダの最新技術が盛り込まれた先進性のあるモデルで、2代目は日本初のABS、3代目は4輪操舵(4WS)を搭載したことで知られます。シルビアは5ナンバーサイズのFRモデルとして走り屋から絶大な支持を得ることになりました。セリカはWRCに投入されてタイトルを獲得しています。
卓越した技術力を惜しみなく投入したからこそデザイン面でも性能面でも高く評価され、それが販売面での成功に繋がったのが80年代のデートカーだったのです。
※デートカーとして人気の高かったソアラについては、別の企画にて登場します。
(文:高橋 満<BRIDGE MAN> 写真:本田技研工業、日産自動車、トヨタ自動車、古宮こうき)
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