センチュリー&シーマ 輸入車に負けない“日本ならではの高級”を提示したプレミアムセダン・・・1980~90年代に輝いた車&カルチャー
多くの若者がクルマに憧れた1980〜90年代。クルマは人や荷物を運ぶ道具としての役割だけでなく、若者たちのカルチャーを牽引する存在でした。そして、ドライブがデートの定番であり、クルマを持っていることがステータスでした。だからこそ当時のクルマは、乗っていた人はもちろん、所有していなかった人、まだ運転免許すら持っていなかった人にも実体験として記憶に刻まれているのではないかと感じます。
そんな1980〜90年代の記憶に残るクルマたちを当時のカルチャーを添えながら振り返っていきましょう。
高級車の概念を変えた、初代セルシオ
日本が空前の好景気に沸いた1980年代。中でも1985年9月のプラザ合意で円高不況に陥った後に株式や土地の価格が高騰し、日本中が浮かれたバブル景気により企業は大きな利益を得ることになりました。
サラリーマンも手取りが増えるとともに、経費で豪遊できた時代。終電がなくなった後は1万円札を振ってタクシーをつかまえていたなど、羽振りのいい逸話がいくつも残っています。筆者は当時まだ社会人になっていなかったので伝聞ですが……。
企業は社員を遊ばせていただけではありません。この時期は魅力ある新たな製品を開発するために潤沢な予算を投じていました。これは自動車メーカーも同じ。そして1980年代後半から90年代前半にかけて、これまでにない新しいクルマが数多く世に送り出されました。
その一つが、プレミアムセダン。トヨタは1989年にアメリカで高級車ブランド“レクサス”の展開をスタートし、キャデラック、リンカーン、メルセデス・ベンツ、BMWといったプレミアムブランドのモデルに匹敵する高級モデルとしてLSを投入します。
高級感があるのにライバルモデルに比べると低価格だったLSは発売と同時にヒットモデルになりました。そしてLSは日本にも投入され、セルシオとして販売されました。
ボリューム感のあるエレガントなボディデザインながら徹底した空力の追求により、圧倒的な静粛性を実現。5層コートの塗装、上質な本革とウッドが使われたインテリア。国産初の自発光式メーターなど、贅を尽くした内外装に仕上げられました。
搭載エンジンは4L V8で、このエンジンも静粛性が絶賛されました。グレードはA仕様、B仕様、C仕様というシンプルな構成。
大きな違いは足回りで、A仕様とB仕様はコイルスプリング式サスペンションで、B仕様にはショックアブソーバーに内蔵されたピエゾセンサーにより路面状況を検知されダンパーの減衰力が変わる「ピエゾTEMS」が世界初搭載されました。
そしてC仕様は電子制御式エアサスペンションを搭載。C仕様には後席の快適性を高めたFパッケージが設定されたのも話題になりました。
デビュー時の新車価格は455万〜620万円。高級車の場合は廉価グレードでも装備が充実しているのでそちらが売れ筋になることも多いものですが、セルシオはエアサス搭載のC仕様、中でもC仕様Fパッケージに人気が集中したのも当時の景気の良さを象徴した現象と言えるでしょう。
世界の高級車ブランドは、大衆車しか作れないと思われていたトヨタがセルシオを世に送り出したことに驚愕。各社がセルシオを購入して徹底的に研究・分析したという逸話も残っています。そんなセルシオは1989-1990日本カー・オブ・ザ・イヤーを受賞しています。
プレミアムセダンが“シーマ現象”と呼ばれるほどのヒットモデルに
初代セルシオがデビューする1年前。日産はこれまでにない高級車、シーマを世に送り出しました。Y31型セドリック/グロリアをベースに開発されたシーマは、デビュー時のネーミングも販売店によりセドリックシーマ、グロリアシーマとなっていました。
低い全高と伸びやかなボディはそれまでの日本車では見たことがないようなデザイン。まるでイギリスのジャガーXJのようなため息の出る美しさでした。
搭載されるエンジンは3L V6と3L V6ターボ。タイプIIとタイプIIリミテッドには電子制御エアサスペンションが搭載されました。
これまでにない高級感が与えられたシーマは、バブル景気に湧く日本で大ヒット。超高級車がブームになるというこれまでにない事態は『シーマ現象』と呼ばれるほどでした。
ちなみに初代シーマは女優の伊藤かずえさんが30年以上乗り続けていたことでも知られています。日産は伊藤さんのシーマをレストアすることを申し出て、半年かけてレストアしたことが話題になりました。
日産は、1989年11月にフラッグシップモデルとなるインフィニティQ45を発売。インフィニティはレクサス同様、日産がアメリカで展開する高級車ブランド。インフィニティQ45は全長5mを超える堂々としたスタイルが特徴的な大型セダンで、日本車では珍しいグリルレスのフロントマスクが話題になりました。そこには七宝焼のインフィニティエンブレムが鎮座します。
インパネは高級車の代名詞である木目ではなく、漆塗りの上にチタン粉を吹き付け、さらに金粉を散りばめるという凝った作りになっています。日産は高級車にジャパニーズモダンをテーマにしたデザインを盛り込むことが多いメーカー。その流れはこの頃からあったのですね。
搭載エンジンは4.5L V8で、最高出力280ps、最大トルク40.8kg-mを発揮しました。セルシオ同様にインフィニティQ45もこだわったのは静粛性。エンジンのアッセンブリーバランス取りやパワートレインの防振対策などで、静粛性を高めていました。
諸事情で輸入車を選べない人たちが飛びついた
セルシオ、シーマ、インフィニティQ45といったプレミアムセダンが相次いで発売されたことで、社用車などにも変化がありました。しかしこれらのモデルが発売されたことを最も喜んだのは、中小企業のオーナーだったように思います。
実は筆者は編集者として初めて配属されたのが、某現場系求人情報誌の編集部でした。取材で建設現場や工場に行くと、社長がセルシオやシーマに乗っているのをよく見かけました。話を聞くと、取引先の手前、メルセデス・ベンツやキャデラックなどの輸入車に乗ることはできないという人がほとんど。
そのため、シーマやセルシオが出る以前はクラウンまたはセドリック/グロリアか、あるいはセンチュリーやプレジデントが選択肢でした。センチュリーやプレジデントは自分で運転して現場に行くのは不向き(そもそもドライバーズカーではありませんからね)。かといってクラウンやセドグロだと満足度は下がってしまう。
目の前に現れたセルシオやシーマはクラウンやセドグロよりはるかにステイタス性があり、高級な内外装は所有欲を満たすのに十分なもの。クルマ好きでもある社長たちを満足させてくれる素晴らしいものでした。
これは想像ですが、接待で飲みに行く店のママなどを誘ってゴルフに行く際のウケもかなりよかったはず。仕事に使えて、走りを楽しめて、大人の女性にモテる。まさにセルシオやシーマは万能モデルだったのです。
セルシオやシーマが中古車市場で比較的手頃な価格で手に入れられるようになると、ローダウン&大径ホイールにエアロパーツでカスタムしたVIPカーがブームになります。おじさんたちのモテ車が時を経て若者のカルチャーになるのは面白いところ。
ただ、派手に改造した中古車が圧倒的に多かったため、現在では状態のいい中古車を探すのが難しいのは残念な部分でもあります。
(文:高橋 満<BRIDGE MAN> 写真:日産自動車)
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