サーキット産まれ、サーキット育ちの『TRD』が魅せる、各種アイテムやコンプリートカーにユーザーが歓喜

自動車メーカーには「メーカー直系」のカスタマイズブランドが存在する。その自動車の性能を試す場、性能を引き上げる場としてモータースポーツへの参戦を支えるブランドもあれば、メーカーのクオリティを生かした純正カスタマイズパーツの製造を行うブランドもある。

この連載コラムでは、そんな各自動車メーカーのメーカー直系ブランドの成り立ちや歴史を振り返っていこう。
第1回目となる今回は、トヨタのモータースポーツブランド「TRD」をお届けする。

TRDのルーツは中古車整備会社に設立されたモータースポーツ部門

  • トヨタ2000GT スピードトライアル(1966年) レプリカ

    トヨタ2000GT スピードトライアル(1966年) レプリカ

TRDのルーツは1954年に創立された『トヨペット整備株式会社』まで遡る。個人所有の機運が高まる中、新車の需要に対し供給が不足していた当時、中古車の再生事業を行う企業として設立されたトヨペット整備は、1956年の朝日新聞社による「ロンドン・東京5万キロ・ドライブ」や、1957年の走行全距離約1万マイルという豪州一周ラリーで使用されたトヨペット・クラウンの改造なども手掛けた。

1964年には『トヨペットサービスセンター』へと社名変更され、翌1965年にTRDの前身となる“特殊開発部”が設立された。それと同時に、芝浦工場に“スポーツコーナー”も設置され、来たるべくモータースポーツのムーブメントへ体制を整えることになった。

この当時のトピックとしては、茨城県筑波郡谷田部町(現:つくば市)にある“日本自動車研究所”で、1966年10月1日~4日にかけてFIAとJAFの公認で開催された、超高速耐久トライアル、通称『スピードトライアル』へのチャレンジだろう。

トヨタ・2000GTをベースとした車両で、72時間連続走行の平均車速『206.02km/h』をマークし、他にも1万5000kmでの平均車速『206.04km/h』、1万マイルでの平均車速『206.18km/h』、といった3つの世界記録を樹立。その他、13もの国際新記録をマークするなど、企画段階からスピードトライルに参加していた特殊開発部の力をいかんなく発揮。日本で初めてのFIA公認記録となった。

また1968年には、モンテカルロラリー南アチーム(トヨタ1600GT)に帯同。トヨタモータースポーツの本格サポートを開始する。

70年代に入ると、B to Cの展開にもより力を入れることになる。1972年にはセリカ用のスポーツパーツの販売を開始し、1974年にはモータースポーツ部品の商標となる『TOSCO(トヨタ・スポーツ・コーナー)』を立上げ、アルミホイールなどのオリジナルアイテムも販売。1976年には商標を『TOSCO』から『TRD(トヨタ・レーシング・ディベロップメント)』へと変更した。

1980年代以降は国内、世界のモータースポーツで活躍

1980~90年代は、国内外のモータースポーツ人気は活況となり、TRDも国内はもとより、世界を舞台にしたレースにも尽力することに。
1981年にはモータースポーツの本場、アメリカで開催されるIMSA GT選手権のGTUクラスにセリカ(RA40型)を投入。1983年には後継となるTA60型で活躍の幅を広げるなど、その名を世界に知らしめた。1994年のル・マン24時間耐久レースでは『トヨタ94C-V』が総合2位という成績で表彰台に上がるなど、世界に通ずる華々しい戦歴を飾る。

特にこの時代、夢のレーシングカーである『Cカー』の人気は、過熱の一途を辿った。国内ではトヨタ初のグループCとして、“全日本スポ-ツプロトタイプカー選手権(JSPC)”で『トヨタ83C』がデビュー。エンジンはTRDが開発した4T-GTエンジンを搭載。翌年の1984年に後継である『トヨタ84C』が初優勝を成し遂げる。
90年代に入ると、Cカーの人気も最高潮に。1990年には『トヨタ90C-V』が、全日本プロトタイプカー選手権(JSPC)でデビューウィンを飾るなどトヨタ、そしてTRDの技術力が実証され続けた。

一方、国内のツーリングカーレースでは、1981年に日本初のワンメイクレースとなる、スターレット(KP61型)で競われる『トヨタスターレットノ-マルカップ(SNC)』と、『トヨタスターレットグランドカップ(SGC)』を開催。

1985年にはAE86のN2/GrA車両によるワンメイクレース『カローラ/スプリンターグランドカップレース(C/SGC)』、『カローラ/スプリンターグループAカップレース(C/SAC)』が開催され、モータースポーツを見るだけではなく、参加するユーザーも多く創出していった。

  • 全日本ツーリングカー選手権で年間メーカーチャンピオンを獲得したカローラレビン(AE86)

    全日本ツーリングカー選手権で年間メーカーチャンピオンを獲得したカローラレビン(AE86)

1985年の全日本ツーリングカー選手権(JTC)では、カローラレビン(AE86型)が年間メーカーチャンピオンを獲得。1987年には同レースでスープラ(MA70型)でデビューウィンを飾るなど、トヨタ車ファンは歓喜。以降、JTCCやJGTC等のツーリングカー最高峰カテゴリーでの躍進が続いた。
このように、レースカー開発をはじめ、ラリーやワンメイクレースの運営まで実施するトヨタのレース活動に、TRDの存在は欠かせないものとなっていった。

モータースポーツの隆盛を背景に高い人気を誇ったTRDのパーツ

  • TRDクイックシフト

    TRDクイックシフト

TRDから発売される製品は、華々しい戦歴とブランディングによって、モータースポーツ好きの自動車愛好家にとって、垂涎のチューニング&カスタマイズパーツとなっていく。

1985年、一般市販車にも使える用品として、『TRDクイックシフト』を発売。これを装着すると、ギヤチェンジの際のシフト操作移動距離が短くなり、小気味良いシフト操作が可能になるというもので、“運転が上手くなったのか?”と錯覚するほど良好な操作感が得られた。
また、1993年に発売されたローハイトスプリングも、信頼と実績のメーカー直系ブランドという安心感と、絶妙な味付けによって高い走行安定性能を実現させ、ヒット商品となっていった。

『自分のクルマにTRD製のパーツが付いている』。これだけでもステイタス性を感じ、走る度にレーシングシーンの思いにふけりながらドライビングを嗜む。
そんな、数多くのラインアップがあるTRD製のパーツ群。特にモータースポーツ好きにとっては、かつて、これ程までに所有する満足度を満たしてくれたアイテムは存在しただろうか? そう思えるくらいの至宝品として今現在もその人気は普遍的である。

クルマ好きをうならせるコンプリートカーを続々開発

1990年には社名を『トヨタテクノクラフト株式会社』へと変更。レース活動やパーツ販売などの勢いはそのままに、『コンプリートカー』や『限定車』といった、プレミアムカーの開発、販売でも注目を浴びることに。

1994年には、1.6リッターのカローラ(AE101型)をベースに、2リッターの3S-Gエンジンを搭載した『TRD2000』を発売。また、スープラ(JZA80型)をベースに、JGTC(全日本GT選手権)参戦のGTスープラの外装を装着した『TRD3000GT』を登場させ注目を集めた。
その後も『カレンTRD Sport(1995年)』や『チェイサーTRD Sport(1997年)』、MR2(SW20型)ベースの『TRD2000GT(1998年)』、MR-S(ZZW30型)ベースの『VM180 TRD(2000年)』等々、数多くのコンプリートカーでクルマ好きを唸らせた。

  • TRD Griffon Concept

    TRD Griffon Concept

そして、2014年。話題のFR車である86(ZN6型)をベースに、そのポテンシャルを最大限まで引き出した研究開発車両、『TRD Griffon Concept』が、筑波サーキットで58秒407をマークした。

その研究の成果は市販モデルへと落とし込まれ、100台限定という形で『14R-60』が販売された。当時の消費税8%込みで、630万円というプライスに驚いたが、その内容をじっくり見ていくと決して高くはない、誰もが認める羨望のコンプリートカーとなった。

よりクルマ好きの裾野を広げていくために

  • アジアクロスカントリーラリーに参戦したラリー仕様のハイラックス

    アジアクロスカントリーラリーに参戦したラリー仕様のハイラックス

2018年4月。ジェータックス、トヨタモデリスタインターナショナル、トヨタテクノクラフトの3社が統合し、「株式会社トヨタカスタマイジング&ディベロップメント」となり、更なる躍進へと歩みを進めることになった。

昨今では、スポーツカーのみならずコンパクトカーやミニバン、SUV用など、日常領域で運転をより楽しむための『GR PARTS』を手掛けるいっぽうで、『アジアクロスカントリーラリー』への参戦から生まれたハイラックス用のパーツなど、各種実力アイテムなども台頭し、市場を賑わせている。
また、参加型レースとして高い人気を誇る86/BRZ CupやYaris Cupのベース車両の架装やパーツ選定、運営などを行うことで、モータースポーツの裾野を広げる活動も積極的に行っている。

『トヨペット整備』の時から数え、60有余年の歴史を誇る『TRD』。その製品の魅力は、常にモータリゼーションの牽引役となり、スポーツ走行を楽しむために実戦で得たノウハウと、技術力を切磋琢磨して切り開いてきた信頼の証ではないだろうか。

(写真:トヨタ/トヨタカスタマイジング&ディベロップメント)