生産台数10台。親子2代で26年間所有する1994年式 トヨタ TRD2000(AE101改型)

車検証に記載される「改」。

自動車メーカーによって生産された市販車を改造し、諸条件を満たしたクルマに与えられる文字だ。

オーナーがプロショップなどに愛車の改造を依頼して、その結果「改」になったというケースが一般的だろう。

しかし、今回はそうではない。「TRD(Toyota Racing Development の頭文字)が造りあげたコンプリートカー」だということだ。しかも、JTCC(全日本ツーリングカー選手権)にエントリーしていたレーシングカーのロードゴーイングバージョンともいうべき成り立ちの貴重なモデルなのだ!

今回、オーナーのご厚意で超がつくほどレアなモデルの取材が実現した。この場を借りて心よりお礼を申し上げたい。

「このクルマは、1994年式 トヨタ TRD2000(AE101改 型。以下、TRD2000)です。父が新車で手に入れてから26年、現在のオドメーターの走行距離は約11万8千キロです。数年前、運転免許を返納した父から受け継ぎ、現在は私が所有しています。いま、私は50歳ですが、これまでの愛車遍歴は、トヨタ MR2 Gリミテッド(SW20/3型)と、このクルマのみです」

「TRD2000」と聞いてピンとくる方はかなりのマニアかもしれない。当初、限定99台の予定で企画されたが、実際に販売されたのは10台のみ。しかも、購入するにあたってさまざまな条件が課せられた。販売されたのは、関東エリアの一都三県限定・25歳以上・車両価格全額(335万円)を前払い・新車保証なし…。さまざまな要因をクリアしないと購入できなかったクルマなのだ。そのため、実際には「欲しくてもすべての条件を満たすことができず、買えなかった人」が多かったようだ。実は、当時のオーナーもその一人であったという。

ベースとなった「カローラGT(AE101型)」をベースに、TRDによってエンジンが換装され、S54トランスアクスル&ドライブシャフトをはじめ、TRD製の専用エキゾースト(ハイレスポンスマフラー)・ショックアブソーバー・コイルスプリング・ストラットタワーバー・ブレーキパッド・クイックシフトなど、外観よりもメカニカルな部分の改造に重きを置いたクルマといえる。外装で見分けがつくとしたら、TRD2000専用のフロントグリル・サイドステッカー・リアエンブレムが挙げられるが、これはよほどのマニアでなければ難しいかもしれない。

TRD2000のボディサイズは、全長×全幅×全高:4275x1685x1380mm。「3S-GE型」と呼ばれる排気量1980cc、直列4気筒DOHCエンジンが搭載され、最高出力は180馬力を誇る。本来であれば、排気量1598ccの 4A-GE型が搭載されるところを、JTCCに参戦していたレーシングバージョンと同様に、2リッタークラスのクルマに採用されていたエンジンが積まれていたことが特徴である。なお、このクルマはカローラの車名を冠しておらず、「TRD2000」が正式名称である。

さて、TRD2000が発売されたのは1994年10月。つまり、この時代にはまだインターネットが普及していない。オーナーがこのレアなクルマの存在を知ったきっかけは何だったのだろうか?

「自動車関連の会社に勤めていた関係でTRD2000の存在を知りました。“やたらいい音がするカローラだな”と思った記憶がありますね。欲しいと思いましたが、ちょうどMR2(SW20型)を購入したばかりでした。それに加え、当時、私は20代前半。年齢制限をはじめ、TRD2000を買える条件を満たしていませんでした。ちょうどその頃、父親のクルマが車検の時期だったこともあり、TRD2000を薦めてみたんです」

TRD2000の車両本体価格は335万円。ベース車両であるカローラGTの車両本体価格172万6千円に、標準改造費用162万4千円が加算されており、正直いって一般ユーザー向けのクルマではない。しかも、購入するにあたってさまざまな条件が課せられていただけに、説得は容易ではなかったと思われるが…。

「父はこの種のクルマが好きだったこともあり、結果としてTRD2000を購入することになりました。結婚・子どもが産まれたことを機に泣く泣くMR2を手放したあとは、父のTRD2000を借りることもありました」

持つべきものは、クルマ好きかつスペシャルなモデルにも理解がある父親ということだろうか。クルマ好きの父親は珍しくないかもしれないが、この種のクルマに理解がある(しかも、購入しようと思うような)方は少ないかもしれない。結果として、極めてレアなモデルのステアリングを握る機会に恵まれたオーナー。TRD2000の印象を伺ってみた。

「ベース車両であるカローラGTにも乗ったことがあるんですが、4A-GE型よりも大きい3S-GE型のエンジンを搭載したことで、フロントヘビーな印象を持ちましたね。とはいえ、排気量が2リッターになったおかげで、トルクがあって乗りやすいし、発進も楽なんです。また、可変吸気システムの恩恵で、5400回転前後で吸気音が変わる点も好きですね。カローラよりも、同型のエンジンを積んだセリカに近いイメージです。注文時にメーカーオプションだったTRD製機械式LSDを組み込んだこともあり、燃費は街乗りでリッター10km/L前後でしょうか。高速道路は80〜90km/h巡航で、左車線をゆっくり流していますよ」

TRD2000というクルマが、オーナーや父親の琴線に触れたことは確かだ。そうなると、この種のクルマに興味を持つようになった過程も気になるところだ。

「私自身、幼少期に父親から買ってもらった本がきっかけでクルマが好きになりました。中学生の頃、友人がクルマのディーラーに行ってカタログをもらってきていたんですね。当時のカタログって、いまよりもエンジンや足回りなどメカニカルな部分にもページを割いていた印象があります。その解説文に魅了されましたね。このことが、大人になってクルマの世界に足を踏み入れることになるきっかけになったと思います」

今回、オーナーが大切に保管している当時のカタログを持参していただいた。オーナーの愛車と見比べてみると、いくつか当時の姿と異なる点があるようだ。そこで、モディファイしている箇所についても伺ってみた。

「ブレーキはTRD製レビン&トレノ用ハイパフォーマンスブレーキキットを組み込んであります。足元の見た目も変わりますし、制動力も向上しました。ホイールは何度か交換しましたが、ネットオークションでENKEI製のNT-03(17インチ)の新品を手に入れることができました。ゆくゆくはBBS製のホイールに交換しようと思っていますが、サイズが合わず、OZ製“Formula HLT 4H”を考えています。

それと、カーボンボンネットはオフ会を通じて知り合った仲間たちと造りました。なかにはインターネット黎明期から付き合いのある人もいます。重心が高い位置の部品を軽量品に交換したことで、コーナリング時にノーズが“スッと入る”ようになったんです。もちろんオリジナルは大切に保管してありますよ。その他、ホイールとフロントグリルの赤いラインはDIYで行いました。リアのエンブレムは、当時JTCCでも活躍したコロナ EXiV の後期モデルのものを流用してあります。

シートはMR2時代から愛用していたRECARO製SR-2を移植。シートベルトは、JTCCマシンでも使われていたWILLANS製をチョイスしています。ステアリングは、父親がかつて所有していたカローラ(AE82型)の時代につけていたMOMO製のギブリ4を移植しました。インパネ周りのパネルはカローラワゴンの純正品を流用しています」

…こうしてモディファイ箇所を挙げていただくと、実は細部に渡って手が加わえられていることが分かる。しかし、あくまでもその主張は控えめだ。と同時に、それらすべてが絶妙なバランスで見事に調和していることに気づいた。これもオーナーのこだわりであり、美学なのだろうか?

「美学というほどではありませんが、必要でない部品は交換しないようにしています。あくまでも純正ライクに、後付け感がない雰囲気を心掛けていますね。“分かる人にだけ分かるくらいのさじ加減”を狙っています(笑)。このTRD2000自体、イベントに参加すると気づいてもらえることもありますが、街中で注目されることはありません。『ボンネットが黒いカローラだ』という視線を感じるくらいですね」

TRD2000という存在が“分かる人には分かる”モデルであることは確かだ。そんな奥ゆかしさすら感じさせるキャラクターを崩すことなく、より精悍な印象を周囲(違いが分かる人)に与えるオーナーのセンスに脱帽だ。

いわゆる「通好み」なTRD2000、親子で26年間所有してみた結果、驚いていることがあるという。

「とにかく壊れないんです。父と私で26年間所有していますから、ラジエーターホースをはじめ、消耗品は交換していますが、これはどんなクルマでも起こりうることですから。改造車って、時間の経過とともに故障やトラブルが起こりがちですが、TRD2000はそんな心配も皆無です。このクルマの完成度の高さ、ベースとなるトヨタ車のタフさに驚いています」

最後に、現在の愛車と今後どのように接していきたいか伺ってみた。

「父がそうであったように、私も運転免許を返納するまで乗り続けるでしょうね。いまだにTRD2000を超えるクルマがないんです。あとで知ったことですが、TRD2000って、JTCCマシンを制作していた工場、そして職人さんの手で造られていたんだそうです。つまり、純粋にJTCCカーの“ロードゴーイングカー”なんですよね。そんなクルマはなかなかありませんし、これからも大切に乗り続けますよ!」

撮影の際、オーナーにお願いをしてドアやボンネットの開閉をはじめ、クルマを移動していただいたり…と、愛車との接し方を垣間見る瞬間がある。オーナーは、ひとつひとつの動作がていねいで「ふんわり」としており、普段から愛車を労っていることが瞬時に感じ取れた。このTRD2000に限らず、生来、モノを大切にする方なのだろう。

この世に10台しか存在しないというTRD2000。ベースとなる101型のカローラ/スプリンターの多くが姿を消してしまったが、「歴代モデルのなかでも特に高い質感を持つクルマ」としていまも高い評価を受けているモデルのコンプリートカーであり、同時にJTCCマシンのロードゴーイングカーでもある。この貴重なクルマが、1日でも長く、できれば永遠に存在することを願うばかりだ。

(編集: vehiclenaviMAGAZINE編集部 / 撮影: 古宮こうき)

[ガズー編集部]

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