“プレミアムスポーティ”をブランドコンセプトに掲げる『AUTECH』が紡ぐクラフトマンシップ

  • スカイラインGTSオーテックバージョン(1988年)

    スカイラインGTSオーテックバージョン(1988年)


1986年10月に営業を開始したオーテックジャパン(以下:オーテック)。初代社長は、プリンス自動車工業に在籍していた時代に、初代スカイラインの開発に携わり、2代目(S50型)の途中から開発責任者(主管)となり、以降7代目(R31型)が発売される前年まで主管を務めあげた生粋のエンジニア、櫻井眞一郎氏であった。

氏が目指したクルマ造りのテーマは、
「扱いやすさを重視した動力性能のチューニング」
「ロングドライブの快適性を重視した車造り」
「上質な素材と匠の技で仕立てたインテリア」
というもの。これは、高度なエンジニアリングを兼ね備えたカロッツェリアでないと実現できないものだが、真のクルマ好きが集まったオーテックは、それを可能とする猛者が集まったチームであった。

特装車の開発からスポーティなコンプリートカーまで手掛けるオーテック

  • オーテックが手掛ける福祉車両
  • オーテックが手掛ける特装車両
  • オーテックが手掛ける福祉車両
  • オーテックが手掛ける特装車両

オーテックの事業は、主に『カスタムカー』、『福祉車両』、『商用特装車』など、日産自動車の本体では対応が困難な小ロット生産のクルマ。それを、日産クオリティで提供しているという業態だ。

特にカスタムカーに関しては、特装車の製造で培われたノウハウを投入し、量産方式とは異なったアプローチでの製作を実現。チューニング&カスタムされたクルマを、ノーマルと同等の品質や保証で提供するなど、『ファクトリーカスタム』を生産するに相応しい体制が整えられた。

  • オーテックのコンプリートカーのイメージ

「クルマ好きのオーナーがドライブすることを楽しめるクルマ。それは、ドライバーの操作にいち早く応えるパワートレインのチューニングであったり、乗り心地を犠牲にしないスポーティな足回りのセッティング、そして素材にこだわった上質なインテリアです」

この、創業以来のクルマ造りの精神は今も受け継がれ、「AUTECH」ブランドのコンセプトである『プレミアムスポーティ』へと繋がっている。その源流となったクルマ造りは、創造と挑戦の歴史でもあった。

ここでは、そんなオーテックの作品の中でも一般的に馴染みの深い、歴代の『カスタムカー』をフィーチャーさせて頂こう。

【セドリック ロイヤルリムジン(PAY31改型)】(1987年)

  • セドリック ロイヤルリムジン(PAY31改型)(1987年)

セドリック セダンブロアムVIP(Y31型)をベースに、60cmものボディストレッチを施して、全長5460mm(ホイールベース:3335mm)という威風堂々たる出立ちのロイヤルリムジン。

『日本のトップ・エグゼクティブを象徴する最高級リムジンです』という、力の入ったキャッチコピーを掲示する、オーテック渾身の処女作で、一般のユーザーでも購入することができる国産リムジンの先駆けとなった。
グレードは『ロイヤルセレクションⅠ~Ⅲ』(998万~1498万円)が設定され、当時、メルセデス・ベンツの最高峰モデルであった『560SEL』と肩を並べるプライスが掲げられた。

【オーテック・ザガート・ステルビオ(AZ1型)】(1989年)

  • オーテック・ザガート・ステルビオ(AZ1型)(1989年)

イタリアの名門カロッツェリア、“ザガート”と共同開発。2代目レパード(F31型)のシャーシをベースに、アルミ製ボディやカーボン製ボンネット、本革のインテリアを採用するなど贅が尽くされた。

特徴的となるサイドミラーは、ドア部からフェンダー部へと移設。それをボディの一部となるようにフルカバードデザインするなど、その造型のインパクトは絶大だった。元々ドアミラーだった場所には三角窓が装着され、リヤクオーターガラス後端から、ハイデッキ化されたトランクへと繋がる造形など、非常に手の込んだ造りとなっている。

【セフィーロ オーテックバージョン(CA31改型)】(1990年)

  • セフィーロ オーテックバージョン(CA31改型)(1990年)
  • セフィーロ オーテックバージョン(CA31改型)(1990年)
  • セフィーロ オーテックバージョン(CA31改型)(1990年)
  • セフィーロ オーテックバージョン(CA31改型)(1990年)

このセフィーロで、特にこだわったのは「インテリア」であった。英国王室や欧州の高級自動車メーカーも採用する、コノリー社製の最高級牛革をシートとドアトリムに採用し、ラグジュアリーなインテリアを構築した。

動力性能の向上にも抜かりはなく、エンジン出力は純正比20psアップの225psを実現し、併せてサスペンションもチューニング。軽やかな走りと、高速域での操安性、そして乗り心地を高次元で融合させた。「上質な素材と匠の技」で仕立てたインテリアは、オーテック創業時からの魂なのである。

【スカイライン オーテックバージョン(HNR32型)】(1992年)

  • スカイライン オーテックバージョン(HNR32型)(1992年)

“桜井眞一郎氏が理想とするGTカー”を目指して造られたのがこちらのスカイラインオーテック バージョン。
スカイラインGT-R(BNR32型)に搭載されていたターボエンジン、RB26DETTをノンターボ化し、ベースであるスカイライン(HNR32型)に搭載。低回転から高回転までスムーズに吹け上がる、NAエンジンならではの特性が与えられた。(最高出力220ps/6800rpm、最大トルク25.0kgm/5200rpm)
ミッションは4速オートマチックのみの設定で、滑らかなシフトチェンジでロングドライブも快適にこなせるように仕立てられた。併せてサスペンションは、路面に吸い付く安定感と、マイルドな乗り心地を実現させた。

カタログには「スポーツカーを卒業した大人のために」というフレーズがあるように、走行性能と乗り心地を追求した究極のグランドツーリングカーというに相応しいだろう。

【ラルゴ ハイウェイスター(W30型)】(1995年)

  • ラルゴ ハイウェイスター(W30型)(1995年)

まだ商用車の面影を残すミニバンが多かった平成初期。専用のエアロパーツなどでスポーティな印象を与え、メーカー純正カスタマイズのミニバンということもあって、幅広い年代のユーザーが注目。結果、当時のオーテック史上最高の年間販売台数を記録。その功績はカスタマイズカーの域を超え、後に日産・ラルゴの上級グレードに昇格。以降、様々な車種に『ハイウェイスター』のグレードが設定されるに至った。

【ステージア オーテックバージョン 260RS(WGNC34型)】(1997年)

  • ステージア オーテックバージョン 260RS(WGNC34型)(1997年)

「プレステージ・ツーリングワゴン」として、快適&スポーティな走りを実現したステージアをベースに、『オーテックバージョン 260RS』を製作。エンジンはスカイラインGT-R(BCNR33型)と同じ、RB26DETTに換装され、車体やシャーシにも大幅な補強を施工。その他装備もGT-Rに対して遜色のないパッケージで、日産史上最速のツーリングワゴンを完成させた。

1997年に、ルネッサから始まった『アクシス』シリーズ。目指したものは“正真正銘の上質感”で、「純正のままでは物足りないが、派手にはしたいくない」といったユーザー層の趣向にはまり、その後、ステージアやセレナなど多くの車種が登場。特にインテリアに関してはクラスを超越した作り込みが評価された。

翌1998年には『ライダー』シリーズが登場。90年代後半に流行した「アメリカンビレット」のスタイルが取り入れられた。特徴的なメッキグリルが一世風靡し、若者を中心に多くのファンを獲得。上質に仕立てられたインテリアと相まって大ヒット。ライダーシリーズも多くの車種に設定された。

個人やカーショップでは、なかなか手が出せないカスタム。それがモノコックボディを切断してのオープン化ではないだろうか。それをハイクオリティで実現できるのもオーテックの強みである。
S13は4速ATのK’sのグレードがベースで、エンジンは175psを発揮するCA18DET(ターボ)を搭載。S15は165psのSR20DE(NA)エンジン搭載モデルで、こちらは5速MTも用意された。いずれも4名乗車で製作されているので、仲間や家族とのドライブでも、至福の時間を提供してくれた名車である。

【オーラ オーテック スポーツ スペック(FE13型)】(2025年)

  • オーラ オーテック スポーツ スペック(FE13型)(2025年)

執筆時点での最新作となるのが、2025年2月に登場したノートオーラ『AUTECH SPORTS SPEC』だ。

オーテックは、2017年に複数あったコンプリートカーのサブブランドを「AUTECH」に集約した。このAUTECHはスポーティでありながら高級感をもあわせ持つ、これまで蓄積してきたクラフトマンシップを継承したサブブランドだという。2018年のセレナAUTECHを皮切りに、ノート、エルグランド、キックス、エクストレイル、キャランバンなどのAUTECHも開発している。

そのAUTECHをさらに進化させた「AUTECH SPORTS SPEC」は、ハンドリングや加速感がチューニングされ、車体への入力を効果的に減衰させるパフォーマンスダンパーや大型ルーフスポイラーなどの採用を軸に、車両姿勢やサスペンションの仕様、パワーステアリング特性を最適化し、爽快で質感の高い乗り味を実現。オーテックが目指す「プレミアムスポーティ」というコンセプトに相応しい一台としてノートオーラを昇華させている。

ここでは紹介しきれないほど国内外で多数のコンプリートカーやグレードモデルを手掛けてきたオーテックだが、オーナーやファンを大切にしているのもおもしろい。
年に一度、「AOG湘南里帰りミーティング」というオーナーミーティングを開催しているが、その開催回数は20回を数える。
事前エントリーで招待状が届いた方のみ参加できるという特別感のあるイベントで、オーテックが企画、製造する愛車たちにとってはオーテック誕生の地への“里帰り”に、オーナーにとっては年に1度の同窓会として人気のイベントとなっている。

オーテックとニスモが協業から統合へ

  • SUPER GT GT500 23号車MOTUL AUTECH Z

    SUPER GT GT500 23号車MOTUL AUTECH Z

日産車の様々なカスタムカーを創造し続けるオーテックだが、実は「NISMO」を冠する車両の製作も行っている。
2007年に発売したフェアレディZ バージョンニスモが最初で、ニッサン・モータースポーツ・インターナショナル(ニスモ)がSUPER GTやスーパー耐久で培った技術を生かし企画、オーテックが車両の開発、製作を担当している。

その後、先述の2017年にサブブランドがAUTECHに集約されるのと同じくして、それまで日産、オーテック、ニスモがそれぞれ企画していたニスモのコンプリートカーが、企画から開発、販売までオーテックジャパンで一貫して行われるようになった。

そして、2022年4月には「オーテック」と「ニスモ」が統合し、『日産モータースポーツ&カスタマイズ』となった。代表取締役社長兼最高経営責任者の片桐隆夫CEOは、この新会社への想いを「この2社が受け継いだ創業の精神とDNAを、融合によるシナジー効果により更に発展させ、『モータースポーツ』と『カスタマイズ』の2領域を通じて、お客さまに今まで以上のワクワク、感動と付加価値をお届けし、日産車と日産ブランドの価値増大をして参る所存です」と語っている。

両ブランドを統合することで、国内では日産の旗印の下で日産ファンの結束をより強め、新たな日産ファンの創出を目指すベースが整ったのではないか。そして積極的な海外展開により、「NISMO」と「AUTECH」のブランドの知名度が世界でも向上していくに違いない。

(写真:日産モータースポーツ&カスタマイズ)

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