六連星に宿る青きスピリットと「人へのやさしさ」に磨きをかける『STI(スバルテクニカインターナショナル)』の真髄

  • 1995年のWRCで555スバル・ワールドラリーチームのカルロス・サインツがドライブしたインプレッサ555

    1995年のWRCで555スバル・ワールドラリーチームのカルロス・サインツがドライブしたインプレッサ555

自身の乗る自動車メーカーのファンの方はもちろん、新車を購入する際のオプション選びや、愛車をカスタマイズする際に気になるのが“自動車メーカー直系の”用品、カスタマイズブランド。メーカー品質で作られるそのハイクオリティな用品やパーツは、愛車への愛着をより高めてくれるものばかりだ。
そんなメーカー直系ブランドを紹介するコラム。今回はスバル車のハイパフォーマンスブランドとして、そしてスバルのモータースポーツ活動の中核を担う、スバルテクニカインターナショナル(以下:STI)をお届けする。

1988年の設立から“スバル魂”を体現するSTI

  • SUPER GTのGT300クラスに参戦するSUBARU BRZ R&D SPORTのピットストップの様子

日本のモータースポーツ史と市販スポーツカーの歴史を語るうえで、STIの活躍は欠かせない存在である。
水平対向エンジンとシンメトリカルAWDという、独自の機構を持つスバル車において、その性能と信頼性の極限を追い求め“スバル魂”を体現してきたのがSTIだ。まずは、STI設立からの歩みやサーキットでの活躍に至るまで、その軌跡を辿ろう。

1988年4月、富士重工業(現・株式会社SUBARU)100%出資の子会社として誕生したSTI。当初の設立目的は明確で、スバル車によるモータースポーツ活動を通じ、SUBARUブランドを世界で高めるという使命である。モータースポーツ部門の強化・統括は当然として、市販車開発へのフィードバックも求められた。

  • 1990年のサファリラリーに合計6台(グループA仕様5台、グループN仕様1台)が投入されたレガシィ

    1990年のサファリラリーに合計6台(グループA仕様5台、グループN仕様1台)が投入されたレガシィ

STIの設立当時、日本のレースシーンは“グループA”を中心としたツーリングカーレースや、ラリー&ダートトライアル、ジムカーナといった、多くのモータースポーツで活況を迎えていた。トヨタであればTRD(1976年に誕生)、日産ならばNISMO(1984に誕生)といった、メーカー直系のモータースポーツ部門がその存在感をより強めており、そんな中、スバルも遅れを取るまいと、その専門組織として『STI』が創設されたという経緯である。

社名に『テクニカ』とあるように、STIはあらゆる技術や技法、そして最新テクノロジーといったイノベーションを担う企業としての使命も背負っていた。

WRCのマニュファクチャラーズタイトル3連覇という偉業がスバル、STIブランドの礎に

  • 1997年のWRC第13戦ラリーオーストラリアでコリン・マクレーがドライブしたインプレッサ

    1997年のWRC第13戦となるラリーオーストラリア。コリン・マクレー選手が最終戦を待たずにスバルのマニファクチャラーズタイトル3連覇を決めた

モータースポーツに於いては、STIの名を一躍世界に知らしめたのが、1990年代のWRC(世界ラリー選手権)であろう。
STIは、英国に拠点を構えるプロドライブ社と連携して、スバル・レガシィRSをベースにしたラリーカーを開発。1990年から本格的にWRCに参戦する。1991年には早速の初表彰台を獲得、1993年には名手コリン・マクレーによりWRC初勝利を挙げた。まさにそれは、レガシィが出走する最後のレースという劇的な勝利ともなった。

そして、1992年までマニュファクチャラーズタイトルで6連覇を果たしていたランチア・デルタや、1993年にはドライバーズとマニュファクチャラーズ両タイトルを獲得することになるトヨタ・セリカの牙城を崩すべく、1993年の後半戦にインプレッサWRXを投入。これがSTIにとって大きな転機となった。

デビュー戦となる1993年の1000湖ラリーではいきなり2位表彰台を獲得。1994年にはコリン・マクレーとカルロス・サインツという強力な布陣となり、この年サインツが両タイトルで2位を獲得し、大きな期待を抱かせる。
そして1995年には、マクレーがインプレッサWRXでドライバーズタイトルを獲得。同年、スバルは初のマニュファクチャラーズチャンピオンにも輝いた。以降96年、97年と、3年連続でマニュファクチャラーズタイトルを獲得し、スバル=ラリーという図式を世界中に決定づけた。

入手困難なほどの人気を誇るSTI謹製のコンプリートカー

WRCでの活躍は競技という枠を超え、市販車への技術のフィードバックにも繋がった。
そんな中でも、STIが手掛ける市販車としての『コンプリートカー』は、その象徴的な存在と言えるだろう。
実戦で鍛えられたシャーシ技術や各部の強化、そして卓越したAWDシステムなど、ステージを選ばず走る悦びを感じることができるパッケージングを、市販モデルへと反映させたのである。

  • IMPREZA 22B STI version

    IMPREZA 22B STI version

STI謹製のコンプリートカーは、そのモデルが発売された時点での“技術の集大成”となるスペシャル仕立て。その先陣を切ったのは、1998年に400台限定で発売された『IMPREZA 22B STI version』であった。
22BはWRCのWRカー・カテゴリーで3連覇を達成した『Impreza World Rally Car 97』をイメージしたモデルで、大きく張り出した前後ブリスターフェンダーや、サイドスカート、大型リヤスポイラー等を装備。搭載されたエンジンはEJ20がベースで、1994ccから2212ccまでボアアップされた“EJ22改”。最高出力は敢えて280psに抑えられているものの、実用回転域から5200rpmまでフラットに出力される高トルクによって、ワイドボディ&ロードユースに相応しいポテンシャルが与えられた。

その他、サスペンションはWRカー同様に専用チューニングが施されたビルシュタイン製ショックアブソーバーと、アイバッハ製スプリングを採用。BBS製鍛造アルミホイールには235/40/17タイヤが組み合わされた。また、ステアリングギヤレシオは13:1というクイックなギヤボックスが装備されるなど、WRカーのロードモデルと呼ぶに相応しいモデルである。

そしてSTIのコンプリートカーの代表作となるのは2000年から登場した『Sシリーズ』であろう。インプレッサ及びWRXがベースとなった、限定コンプリートカーとしてS201~S210(205のみ“R205”)が存在し、全方位でSTIの伝統とこだわりを凝縮したスペシャル仕様。これら全てのモデルが発売と同時に即完売となる大人気のシリーズなので、購入を希望しても競争倍率が高く、入手するのが難しいほどである。

Sシリーズ以外にも、『STI Sport♯』、『tS (tuned by STI)』等の名称が付与された特別モデルは、フォレスターやレガシィ、エクシーガ、BRZなどにも設定され、多くのスバル車乗りがSTIならではのスポーツ性能を享受している。

スバル車オーナーを満足させる多様なカスタムパーツ群

  • WRX STI(VA)用のバンパーカナード、バンパーサイドベゼル、スカートリップが装着されたフロント部。決して飾りではなく、実走行での空力を味方に付ける。

STIの事業は、モータースポーツやコンプリートカー販売だけでは留まらない。スバル標準車のパフォーマンスアップを図る『STI製パーツ』も、スバル車ユーザーの注目を集め続けている。

「走行性能と快適性を両立した『強靭でしなやかな走り』を実現するカスタマイズパーツ」として、エアロパーツやタワーバー、マフラーにサスペンションなど、多岐にわたるカスタマイズパーツは、見た目だけではなく、性能と信頼性を徹底的に追求したものばかり。それらパーツを装着することは、ユーザーにとってもステイタスであり、所有している愛車の満足度をさらに高めてくれるファクターとなった。

耐久レースで鍛える「人へのやさしさ」と、探求し続ける使命

  • SUBARU WRX NBR CHALLENGE 2025

    2025年のニュルブルクリンク24時間レースでは、クラッシュによるマシン修復に4時間45分を擁したSUBARU WRX NBR CHALLENGE 2025。その後は順調に走行を重ね、総合76位(136台出走)、SP4Tクラス2位でフィニッシュ

STIのステージはラリーフィールドだけではなく、サーキットレースにおいても、その技術力を世界に証明し続けている。
2008年からは、ドイツ・ニュルブルクリンク24時間レースに『SUBARUインプレッサWRX STI(GRB型)』で挑戦を開始。世界屈指となる過酷な耐久レースとして知られるこの大会で、STIは幾度もクラス優勝を果たしているのである。

この耐久レースへの参戦で得られた膨大な走行データは、極限状況下での車体やエンジン、サスペンションの挙動分析を行い、市販車開発へとフィードバックされ、質実剛健な商品へと反映される。言い換えれば、STIのコンプリートカーやSTIのパーツは、ニュルで鍛え抜かれたその結晶とも言えるのだ。

そして、この極限のレースで鍛えられるのは信頼性や速さのみならず、「人へのやさしさ」だという。複数のドライバーが交代で走ることは、誰が運転しても自在に操れるクルマづくりをする必要がある。その成果をスバル車に乗るすべてのオーナーに還元すること、それもSTIの重要なミッションの一つなのだ。

新たなる挑戦もSTIの使命

  • 東京オートサロン2022で発表されたSTI E-RA CONCEPT

    東京オートサロン2022で発表されたEVコンセプト『STI E-RA CONCEPT』

時代は変化を続け、昨今では、自動車業界全体が内燃機関から電動化へとシフトするような流れが散見される。そんな中、STIも変革へのステップを確実に歩んでいる。「東京オートサロン2022」では、その処女作とも言えるSTIが手掛けたEVコンセプト『STI E-RA CONCEPT』が発表された。

E-RAは「Electric-Record Attempt」の略で、近未来モータースポーツスタディプロジェクトとして、EVレーシングカーによる記録への挑戦を意図したプロトタイプである。
このコンセプトカーには、1088psという驚愕のハイパワーモーターが搭載されるが、そのパワーを余すことなく、さらに安全に運用していかなくてはならない。当然、そこでもスバル車らしい安心、安定のドライバビリティを実現させるため、探究の手を緩めることはない。こういった新たなるチャレンジもまた、STIの新たな使命と言えるのかもしれない。

  • BRZを駆って、SUPER GTのGT 300クラスでも躍進を続けるSTI。常に最前線で戦うからこそ、得られる技術力は大きなものとなる

2025年現在、創業から37年目となるSTI。スバル車の本質となる技術的な理想を追求し、それを情熱と共にユーザーへと届けるという“匠のラボラトリー”といった姿勢を一貫している。
これから先のクルマ業界は、電動化やコネクテッド、カーボンニュートラルといった新たなシステムや価値観が、よりドラスティックに求められる時代に向かっていくだろう。そんな中で、STIがどのように『スポーツ』というフィルターを通し、技術革新と向き合っていくのかは非常に興味深いところである。

ただ、世界がどう動こうと、STIには決して変わらない矜持がある。
それは、STIのホームページでも語られる「1000km先でさえ、近くに感じる走りを」というフレーズの通り、サーキットでも一般公道でも共通する、ドライバーに寄り添う“人へのやさしさ”であり、それは「そのやさしさはサーキットから生まれる」というSTIの根底にある想いが生き続けているからだろう。

  • ニュルブルクリンク24時間でマシンの状態をチェックするメカニックたち

(写真:スバルテクニカインターナショナル/SUBARU)

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