ADASから自動運転(AD)へ--技術が導く「新しい運転」のかたち【安全安心のおさらい 第3回】
アクセルを踏まず、ブレーキも踏まず、ハンドルに軽く手を添えるだけ。
自動車の世界では、「人が運転する」から「人とクルマが協調して走る」時代への進化が進んでいます。これまで紹介してきたACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)やAEB(衝突被害軽減ブレーキ)は、この未来へ向かうための基礎技術です。
今回のテーマは、それらをつなぐキーワード--「ADAS」と「自動運転(AD)」。いま、クルマはどこまで“自分で考える”ようになっているのでしょうか。
ADASとは?クルマが「見て」「考えて」「支える」技術
ADAS(Advanced Driver-Assistance Systems)は、ドライバーを支援して安全性や利便性を高める先進運転支援システムの総称です。代表的な機能には、
- 前走車との距離を一定に保つACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)
- 衝突の危険を察知してブレーキを作動するAEB(衝突被害軽減ブレーキ)
- 車線からのはみ出しを防ぐレーンキーピングアシスト(LKA)
- 後方からの車両接近を警告するブラインドスポットモニター(BSM)
などがあります。
これらが連携することで、クルマ自身が“もうひとりの運転者”のように、常に周囲を見守り、危険を未然に防ごうとします。ADASは、人間の注意と判断を補う知能といえるでしょう。
自動運転とは?「支援」から「判断」へ進化するクルマたち
「自動運転」と聞くと、ハンドルのない未来のクルマを思い浮かべる人も多いでしょう。でも、実際の進化は段階的に進められています。国際的な基準では、自動運転のレベルは0から5まで定義されています。
| レベル | 概要 | 主な特徴 |
|---|---|---|
| 0 | 運転支援なし | すべてをドライバーが操作 |
| 1 | 部分支援 | アクセルまたはステアリング操作のどちらかを支援(例:ACC) |
| 2 | 複合支援 | 加減速と操舵を支援(例:ACC+LKA) 渋滞時には手放し運転が可能 |
| 3 | 条件付き自動運転 | 高速道路など特定の条件下で車が主体的に運転 (自動運転中のドライバー介入は緊急時のみ) |
| 4 | 特定エリア内における完全な自動運転 | 限定エリア内では人の介入が不要な自律走行を行う |
| 5 | 完全自動運転 | すべての環境下で人の操作が不要 |
現在、市販車で実用化されているのはレベル2(部分的な自動運転)が中心です。トヨタの「アドバンストドライブ」やホンダ「トラフィックジャムパイロット」は、高速道路や自動車専用道路での渋滞時に、ハンドル操作・加減速・停止と再発進をシステムが支援します。
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レベル3対応の世界初の市販車・ホンダ レジェンド
一部、メルセデス・ベンツSクラスなど、レベル3のシステムを搭載したモデルも商品化され始めました。海外では、さらに先行する事例も現れています。アメリカでは、Google の親会社 であるAlphabet傘下の Waymo(ウェイモ)が、アリゾナ州フェニックスやカリフォルニア州サンフランシスコおよびロサンゼルスなどで運転手がいない自動運転タクシーを運行しています。トヨタはこのWaymoと戦略的パートナーシップを結んでおり、次世代の自動運転プラットフォーム開発における協業をめざしています。
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Waymoの自動運転タクシー
クルマはどうやって周囲を理解しているのか
自動運転を支えるのは、クルマが持つ“感覚器官”と“頭脳”です。前回ご紹介したAEBと同様にメーカーや車種によってハードウェアの構成は異なりますが、カメラやミリ波レーダー、LiDAR※(ライダー)、超音波センサー、GPSなどを駆使して、周囲360度をリアルタイムで把握しています。
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メルセデス・ベンツSクラスが搭載するセンサー類
カメラは「見た目」を捉え、レーダーは「距離と速度」を計測、LiDARは「立体的な空間構造」をスキャン。それらの情報をコンピューターが統合し、「車線を維持すべきか」「歩行者が横断するか」などを瞬時に判断します。つまりクルマは、“見る”から“考える”存在へと進化しているのです。
※LiDAR: Light Detection And Ranging、つまり「光による検知と測距」を意味する。レーザー光を使用して対象物までの距離や形状を計測する。コストはかかるが、非常に高い精度で把握することができる技術。
自動運転の課題──技術の進化に合わせた法と信頼のバランス
技術は日々進化を続けていますが、自動運転のレベルが上がるほど議論されるのが責任の所在です。レベル2まではドライバーが運転責任を負いますが、レベル3以上になるとシステムが主体的に運転を担うことになります。その結果、「事故が起きた場合の責任は誰にあるのか?」という問題が生じます。
ドライバーなのか、自動車や部品メーカーなのか、あるいはソフトウェアや地図データの提供者なのか--。
この“責任の線引き”は、国や地域によっても考え方が異なり、世界的な課題となっています。日本では2020年の道路交通法改正によって、一定の条件下でレベル3自動運転車の公道走行が認められました。システムの作動条件や記録装置の搭載義務、緊急時のドライバー介入などを定めた法整備が進んでいます。
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日産が開発するレベル4想定の自動運転モビリティサービス
制度が整っても、さらに課題は残ります。天候や通信トラブル、想定外の挙動などコンピューターが苦手とするシーンは依然として存在します。また、走行データの扱いやサイバーセキュリティといった新しい法的・技術的な問題も浮上してきます。
どれほど高性能なシステムでも、技術を過信せず、正しく理解して使う姿勢が欠かせません。技術が進んでも「クルマ任せにしすぎないこと」――それが、これからの安全運転に必要な意識です。
まとめ:クルマは“支える機械”から“共に考えるパートナー”へ
自動運転の目的は、運転の楽しみを人から奪うことではありません。クルマと人がそれぞれの強みを活かし、必要に応じて補い合う関係を築くことにあります。AIやセンサー技術の進化によって、クルマは人の目や判断を支え、危険を予測し、事故を未然に防ぐ力を得られるようになっていきます。それは、AEBやACCなどのADAS関連システムが積み重ねてきた成果の延長線上にあります。
これから日本社会は高齢化が進みます。年齢と共に、集中力や判断力の低下は避けられません。だからこそ、クルマが「支援する力」をもつことは、あらゆる世代の安心につながります。AEBをはじめとしたADASの性能や機能レベルは、今や車種選びの重要な要素と言えるでしょう。
クルマが「運転する道具」から、「共に考えるパートナー」へ。それが、これからの自動運転が描く未来です。
(文:石川 徹 / 画像:Mercedes-Benz、本田技研工業、Waymo、日産自動車)
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