快適装備は安全装備 -- 電気自動車(BEV)は暖房が苦手? 【安全安心のおさらい 第6回】
これまでの連載では、アダプティブ・クルーズ・コントロール(ACC)や衝突被害軽減ブレーキ(AEB)、先進運転支援システム(ADAS)、緊急通報サービスといった安全装備を紹介してきました。でも、高度な安全技術が備わっているクルマも、運転するのは人間です。寒さや暑さによって集中力や判断力が鈍ることは多く、快適性を保つことは“安全運転の土台づくり”でもあるといえます。
今回は、その快適装備に注目してみたいと思います。エアコンやシートヒーター、ステアリングヒーターなど、普段はあまり気に留めない装備が、どう安全につながっているのか。そして「BEVは暖房が苦手」といわれる理由と、その上手な解決策までを紹介します。
エアコンは「空気を整える装置」へ
クルマのエアコンは、今や単に「冷やす」「暖める」という存在ではありません。温度調整だけでなく、花粉やPM2.5の除去、におい対策まで自動で行います。特にフルオートエアコンは、設定温度さえ決めれば、風量や吹き出し方向、内気・外気の切り替えまで最適化してくれる機種もあります。細かい操作が不要になり、運転への集中力が途切れにくくなるメリットがあります。
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レクサスLCの空調イメージ
エアコンによって車内環境が安定していると、余計なストレスが減ります。それ以上に重要なのは「暑い・寒い」に気を取られて視線がそれることも減るため、安全運転にもつながります。さらに、エアコンはガラスの曇り取り性能も高く、ワイパーでは対処できない内側の曇りを素早くクリアにしてくれます。前方視界がすぐに確保できることは、雨や雪の日の安全性にも直結します。
体に直接触れる快適装備たち
冬のドライブで真っ先に活躍するのがシートヒーターです。座面や背もたれから体を温めてくれるため、エアコンが車内全体を暖めるより先に身体の冷えを取り除いてくれます。寒い車内では肩や手がこわばって操作がぎこちなくなることがありますが、温かい状態であればスムーズな運転操作が可能です。
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シートヒーターイメージ
夏場にはシートベンチレーションが頼りになります。背中の蒸れを吸い出したり風を通したりすることで、不快感を軽減してくれます。イライラや集中力の低下を防いでくれるため、実は長距離ドライブなどでも大きな差を生む装備です。
ステアリングヒーターは特に冬の朝に嬉しい装備のひとつです。冷たいハンドルを握って手がかじかむと、細やかな操作がしづらくなりますし、集中力も低下します。ステアリングヒーターがあれば、発進直後から手のひらが暖まり、自然な操作ができます。
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ステアリングヒーターイメージ
シートヒーターやステアリングヒーターは、エアコンの風が苦手な人や、体が冷えやすい子ども・高齢者にもありがたい装備です。車内全体の温度をあまり上げなくても体を直接温められるので、同乗者それぞれの「ちょうどいい温度」に近づけやすくなるのもメリットと言えるでしょう。
新発想の暖房技術:ヒーター付きシートベルト
最近注目されているのが、シートベルトそのものに発熱機能を持たせる技術です。海外のサプライヤーは、ベルトの織布に細い発熱体を組み込み、胸やお腹のあたりを温める製品を発表しています。
同様のアイデアを、特許出願している自動車メーカーもあります。シートベルト内部に電熱素子や温度センサーを組み込み、車両側のコントロール装置で温度を調整する仕組みが検討されています。衝突時の強度や巻き取り機構など、安全性を損なわずに発熱機能を追加する工夫が検討されています。
現時点では市販車での採用例は確認されていませんが、電気自動車(EV)のように暖房のエネルギー効率が課題となるクルマでは、将来の重要な省エネ暖房技術として期待されます。常に身体に触れているシートベルトを温めるという発想は、“ピンポイントで効率よく快適さを得る”ための新提案と言えます。
BEVが暖房を苦手とする理由
「BEVは暖房が苦手」といわれる最大の理由は、エンジンの“余熱”を利用できないからです。車内を暖めるための熱は、すべてバッテリーの電力を使って生み出す必要があります。このため、冬に暖房を強めると航続距離が短くなりやすいのです。
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ヒートポンプシステムイメージ
最近は家庭用エアコンのように、ヒートポンプを採用して効率よく熱を生み出すBEVも増えてきました。ヒーターのように電気だけで熱を作るのではなく、外気の熱をくみ上げて車内に運ぶ仕組みで、消費電力を抑えられるのが特徴です。気温が低いと効きが弱くなる場合はありますが、多くのBEVで採用が進んでいます。
それでも暖房にはバッテリーに蓄えたエネルギー(電気)が必要です。「どう暖めるか」の工夫が、BEVの快適性と航続距離を左右する時代になってきています。
BEVでできる、暖房の上手な使い方
BEVで冬を快適に走るためには、ちょっとしたポイントを押さえるのがお勧めです:
- 出発前:自宅で充電中に車内を暖めておくと、走り始めてからの電力消費を減らせます。
- 体を直接温める装備を活用する:シートヒーターやステアリングヒーターは少ない電力でも体がしっかり温まるため、エアコンの温度設定を低めにしても快適です。
- 暖める場所と量を絞る:暖房は「車内全体」より「必要なところだけ」暖めるほうが効率的。たとえば、後席に誰も乗っていないときは後ろの吹き出し口を閉じたり、後席用エアコンをオフにしたりすれば暖める“量”を減らすことができます。ゾーンエアコン付きのクルマなら、運転席と助手席側の設定温度を変える工夫も有効です。
こうしたポイントを押さえると、車内の快適性と航続距離のバランスが良くなるケースは多いでしょう。
とはいえ、寒さを我慢しすぎると体調を崩したり、集中力が落ちてしまったりして本末転倒です。装備を上手に使いながら、服装の工夫やブランケットなども組み合わせ、無理のない「ちょうどいい暖かさ」を探してみてください。また、BEVの場合は季節ごとに電費や航続距離の変化を意識して体感しておくと、「このくらい暖房を使うとどれくらい走れるか」がつかめて、長距離ドライブの計画も立てやすくなります。
快適性も安全につながる
空調などの快適装備は、ただの“贅沢機能”ではありません。車内が寒かったり暑かったり、背中が蒸れて不快だったりすると、集中力は落ちイライラが募ります。安全運転に大切なのは、ドライバーが落ち着いて、安定した状態で運転に臨むことです。その意味では、「快適装備は安全装備」でもあると言っていいでしょう。
これからの季節、クルマに乗り込むときは快適装備を少し意識してみてください。ちょっとした工夫で、冬のドライブがもっとラクに、そしてもっと安全になります。
(文:石川 徹 写真:Skoda、Lexus、Subaru、ZF、Mercedes-Benz、Nissan)
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