レーサーが主催! おやじと大学生がカートで対決

レーシングドライバー松田秀士氏の呼びかけに48人のクルマ好きが参加

本夏真っ盛りの2016年7月31日(日)。陽射しの強さに負けないほどの熱い戦いが、東京都足立区にある東京シティカートにて繰り広げられました。それが「おやじvs現役大学生 MATSUDA HIDESHI CUP」です。

このイベントは、レーシングドライバーでありモータージャーナリストでもある松田秀士さんの発案で、名称のとおり、おやじと大学生がレーシングカートでバトルをするというもの。レポーターである私(鈴木/モータージャーナリスト)もおやじチームの一員として参加してみました。

「僕は常にスローエイジングを提案しています。人生の最後の瞬間まで、元気にクルマの運転をできるようにありたい。クルマの運転ができるってことは、基本的人権である移動の自由を意味しています。公共交通もあるけれど、それらは駅から駅。つまり点から点への移動。でも、クルマなら思うように、いつでもどこにでもいけるんです」と松田さん。

「学生さんたちと話すのはおもしろいね。最近の若いクルマ好きは純粋だね。僕らのころはもっと不純だったかも(笑)。そこが心配でもあり、尊敬するところかも」と松田さん

スローエイジング=歳をとっても元気であり続けたいという考えですね。

「ネット社会に於いて、最近は特に、若者と高齢者との触れあいが大事だと感じていました。若者は高齢者から学ぶことが多く、高齢者は若者から元気とやる気をもらえる。クルマを軸にした交流の場をずっと作りたいと思っていました。レーシングカートは高齢者にとっても刺激的。今回の参加で脳が活性化されて、やる気になったおやじが何人か出てきています」。松田さんのイベント開催の狙いは明確だ。

会場は都23区で本格レーシングカートを楽しめる唯一の施設である「シティカート」です。集合は朝の7時半。続々と参加者が集まってきます。その数計48人。48人をおやじ2チーム、大学生OBチーム&おやじ混成2チーム、大学生2チームの6つにチーム分け。学生は工学院大学自動車部を中心に東京農大の自動車部員や、その友人など。おやじの方は、僕のようなモータージャーナリストや元自動車メーカーのエンジニア、カーショップオーナーなど、モータースポーツの経験豊富な面々が揃いました。顔ぶれは多彩ですけれど、おやじも学生も、実のところ「クルマ好き」という共通項があるのが特徴でしょう。

学生とOB、おやじが48名も参加。午後に雨がぱらつくものの走行中は晴天であった

学生さんの速さに、おやじの面々は青ざめるばかり

マシンは4ストローク200ccのエンジンで最高出力は7馬力。とはいえツイスティなシティカートのコースであればパワーは十分。予選をかねた練習を一人5分ずつ走ってみると、おやじから「ステアリングが重い。やばい5分でも体力的に辛かった」という悲鳴が続出します。エンジンを使うとはいえ、モータースポーツは立派に“スポーツ”であることを実感するばかりです。

タイムは速い人が1周35秒前後で、遅い人が40秒台。レーシングカートがまったくの初めてという人もいましたが、8割方は経験あり。特に大学生たちは、前の週に練習走行も行っており準備万端。体力的にきついだけでなく、学生たちが意外に速いこともあり、おやじたちの顔からは焦りが見え隠れします。さらに「君たちの体重はいくつ?」と学生にたずねては、「え! そんなに軽いの」と絶叫するおやじたち。小さなレーシングカートはドライバーの体重がタイムに大きな影響を与えます。20kgも30kgも体重が重いと、数秒単位の差になることも。おやじたちの顔色は青ざめるばかり。結局、レーシングドライバーである松田秀士さんをもっても予選タイムは3位がやっと。

本戦は80分耐久。各チームのドライバーは8名ですから、一人あたりのノルマは10分。「5分でもきついのに10分も……」という声が漏れ聞こえます。


10時30分。参加者が見守る中、シグナルのカウントダウンでスタート。3位のポジションからスタートした1号車の松田秀士さんがスルスルスルと順位をあげて、あっという間に1位に。さすがプロ、うまい。そこから第2走者まで、松田秀士さんのおやじチームが首位を守りましたが、スタートから30分ほどで5号車の大学生OB&おやじ混成チームがパッシング。みるみる差を広げて独走状態に。1号車も懸命に追いかけるものの、その差は縮まりません。経験豊富なおやじチームですが、若者の腕前もなかなかのもの。

学生チームのメンバーの多くは練習をこなしており、あなどれない速さを見せたのだ

ちなみに私も第4ドライバーで出走。前を走る学生チームを追いかけてみましたが、最初は徐々に差は詰まるものの、後半は体力が切れてタイムダウン。追い抜くどころか、後からくる学生チームにつつかれる体たらく。悔しいです。

膠着状態のまま、レースは最終局面へ。独走する5号車OB&おやじ混成チームの優勝で誰もが「これで決まりだね」と思った残り3分。そこでドラマが発生します。なんと、トップを走っていた5号車がメカトラブルでストップしてしまったのです。その横を悠々と2位の1号車が追い抜き、そのままチェッカー。なんともドラマチックな逆転劇となったのです。

最後のぎりぎりまでトップを独走するも、ラスト3分でメカトラブルに泣いた5号車。最後はチームみんなで押してゴール

レースの後は、最寄りのレストラン「アダッキオ(AD‘ACCHIO)」へ移動して昼食兼懇親会へ。立食スタイルということもあり、すぐにあちこちで大学生とおやじによるクルマ談義が盛り上がります。「ジムカーナのコツは?」「どんなクルマが好きなの?」「カート速いね」「何に乗っているの?」など“クルマ好き”という共通項があるから年齢の壁もすぐに飛び越えられたようですね。

懇親会はピッツァとイタリア料理の名店「アダッキオ」。ブッフェスタイルでざっくばらんな雰囲気となった

参加した学生さんたちからは「今日は年輩の方だけでなく、他の学校の学生と会えるのも楽しみだった」「カートコースを借り切ってのイベントは学生だけだと難しい」「おやじさんたちが参加費を多めに負担してくれたので助かった」「カートは楽しい」という感想を聞くことができました。また、おやじ側では「今までの自分のクルマに関する経験を伝えることができてよかった」「若い人にもクルマ好きが多くてビックリしたよ」という声。もちろん学生さんもおやじも、「今日は楽しかった」という部分では、まったく同じ。さっそく第2回開催の予定も組まれているようですよ。

「どのモータースポーツよりもハードルが低いのがカート。ゴルフと同じ金額で、ジムカーナよりも楽しい。初めて会う人とも同じ汗をかくことで仲良くなれる。今日のイベントはよい企画だと思うよ」とモータージャーナリストである岡崎五朗さん
「モノづくりが廃れつつある今、志のある若者と会えるのは嬉しいですね。学生さんが自動車に興味を広げてくれればいいなと思います。大人と若者ですが、同じクルマという共通の話題があるのがいいと思います」とは、タイヤのエンジニアとして長年F1で戦ってきた浜島裕英さん
「今日は楽しかったです。OBやみなさんの走りを見ることもできました。みんな上手だなあと」とは工学院大学自動車部の紅一点である小野茉奈美さん
「久しぶりのカート。いつもはジムカーナなんですよ。今日はレーシングドライバーの方と一緒に走れて、どこが違うのか教えてもらえて嬉しかったですね」と東京農業大の湯浅雄太さん(右)と、「違う大学の生徒とチームが組めたのが楽しかったです」と小林愛夢さん(左)
学生チームの中心となったのが工学院大学自動車部の面々。今年は珍しく1年生が20人も入部した
日産自動車のエンジニアとしてR32~34スカイラインの開発に携わった吉川正敏さん(左)と、「昨日、R32のスカイラインを買いました!」「僕はR34スカイラインに乗っています」という学生さんたち。当然、話題の中心はスカイライン開発秘話でした

写真:大森総一、鈴木ケンイチ/取材協力:MATSUDA HIDESHI CUP事務局

(鈴木ケンイチ/モータージャーナリスト+ノオト)

[ガズー編集部]

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