自動運転の課題が浮き彫りに?自動車安全運転シンポジウム2016

11月7日(月)、自動車安全運転センター主催による「自動車安全運転シンポジウム2016」が開催された。テーマは「高度な安全運転支援システムと共存する交通社会に向けて」。講演とともにパネルディスカッションも行われた。今回はその模様をダイジェストでお送りする。(以下、敬称略)

まずは登壇者が自身の研究やビジョンを紹介

菅沼直樹(金沢大学准教授)
「市街地走行可能な自動運転車の開発とその高齢過疎地域への展開」

金沢大学では1998年ごろから「自立型自動運転車両」の研究を開始した。車両には20個以上のセンサーが搭載されており、真っ暗な環境でも色を読み取ることができるセンサーもある。

自動運転技術が果たす問題解決のひとつとして、「公共交通が不足している高齢過疎地域」が挙げられる。そこで、石川県珠洲市において公道実証実験を行ってきた。

技術的な課題は徐々に解決していくだろう。しかし、事故を0に近づけるためには、技術的な面だけでなく社会受容性や法律面など、まだまだ解決しなければならない課題があると考えている。

葛巻清吾(トヨタ自動車 SIPプログラムディレクター)
「自動運転実現に向けた政府の取組み」

政府は、府省や分野の枠を超えた横断的プログラムとして、SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)を推進している。

自動走行システムには、高度な「自己位置推定」「周辺環境認知」が重要となる。また、情報セキュリティーの確保や国際的な連携も必要だ。

全交通死亡事故の約半数は「クルマ対歩行者」「クルマ対自転車」の事故である。それらの事故を減らすため、クルマ同士の「車車間通信」だけでなく、歩行者側の端末からも位置情報を得る「歩車間通信」技術の開発も検討している。2017年から公道での大規模実証実験を実施する予定である。

土井美和子(情報通信研究機構監事)
「ソーシャル・アクタとしての自動運転の未来像」

自動走行システムは、下記の図のようにレベル1~4と分類されている。

「官民ITS構想・ロードマップ2016」より抜粋

いずれ、レベル1から4までのクルマが混在する状況になるだろう。その際、歩行者は「外見だけでは、どのレベルのクルマであるか分からない」という問題がでてくる。例えば、自動運転車はライトをハートマークにして「歩行者に優しいクルマですよ」と教えてあげるといった、「どの程度、自動化されているクルマなのか」を見せてあげる必要も出てくるのではないか。

大嶋菜摘(公益財団法人交通事故総合分析センター)
「高齢運転者事故、自転車事故の状況分析」

自動運転・安全運転支援技術によって、どのような事故が防止できるかを検討した。法令違反別に見ると、「信号無視等」「運転操作不適」については事故を防止できる可能性が高いが、「安全不確認」については自動運転のレベルや安全運転支援技術の性能により異なる。

そこで、平成25~27年に東京都で発生した自動車対自転車の死亡事故について、自動運転により防止できる可能性があるかどうか、を検証した。

(事例1)大型貨物車の左折時に、後方から進行する自転車を巻き込んだケース

この場合は、センサーによる後方・側方の自動認知があれば防止可能である、と判断した。

(事例2)普通乗用車と自転車の出会い頭衝突

「自転車が急に飛び出してきた」といった自転車側に法令違反がある場合は、事故を防止する可能性は低いのではないかと判断した。結果として、自動車対自転車の死亡事故の約6割が防止可能性大と判定した。しかし、「あらゆる事故を防げるわけではない」という認識をもつことも必要である。

森澤三郎(株式会社審調社)
「ドライブレコーダーを活用した高齢運転者の安全運転診断技術の開発」

高齢運転者による事故が増加している一方、「運転免許証を保有し続けたい」と思っている高齢者も多い。そこで、ドライブレコーダーを活用し、高齢運転者の安全運転を診断する技術を開発した。

パネルディスカッション「“無くせる事故を無くす”ための高度運転支援技術への期待」

最後に、これまでの登壇者5名によるパネルディスカッションが行われた。コーディネーターは、モータージャーナリストの岩貞るみこ氏。

岩貞:自動走行システムについて、IT系企業と自動車メーカーとの開発の違いは?

葛巻:例えばgoogleは「人がミスするのだから、人はなくしたほうがいい」という考え方。したがって、無人のクルマを開発して世に出すべきである、としている。一方、自動車メーカーはレベル1、2、3と高度化させながら、かつ効果を確認しながら、人が運転するクルマと自動運転車とを協調させていくという考え方だ。

岩貞:いままでの自動運転による走行実験で、苦情を受けたり事故が起こりそうになったり、といったケースは?

菅沼:現時点ではほとんどない。一方で、一番問題なのは制限速度だ。端的に言うと、一般のドライバーが制限速度を守っていないという問題がある。自動運転のクルマが制限速度をキッチリ守って走行していると、逆に渋滞が起きてしまうといったケースもあるだろう。また、高速道路の合流前は制限速度40km/h(本線直前は60km/h)で、それを守ったまま本線に入ると後ろから追突される可能性もある。つまり、きちんと制限速度を守ることが100%安全かというと、また別の問題が起きてしまう。

土井:新興国で考えるとまた話は変わってくる。ベトナムやインドでは、クルマが走っていても歩行者はどんどん横切っていく。ドライバーもそれに対応して運転している。もし自動運転車が人だと認知して止まったら、逆に事故がおきてしまう可能性もある。それぞれの国や文化による違いという点では、まだまだ課題が多い。

岩貞:自動運転は社会にどのように受け入れられていくのか?

土井:日本人の国民性として、やるとなったら受け入れるが、100%安全性が保障されないと受け入れがたいというのもある。他の国では、例えばベンチャー企業が事故(失敗)をしても「それを乗り越えていくことで新しいものができる」という受容性がある。しかし日本では、もし大企業が事故を起こせば非常に叩かれることになる。メディア側も、もう少しやさしく見守るという姿勢があっていいのではないだろうか?

岩貞:現在の道交法には、自動運転車が円滑に走れるよう見直すべきところもある。その一方で、「子供が急に飛び出してきた」といった防ぎようのない事故であっても、「自動運転車が事故を起こした」とメディアは叩くだろう。そうなると、開発に対して逆風が吹くということは目に見えている。これから自動運転車が走り始めるまでの間に、ドライバーもそれ以外の歩行者や自転車なども、交通ルールを守る教育を徹底していく必要がある。

自動運転システムについては技術も進み、いずれ一般道で走るクルマも出てくるだろう。一方で、私たちがそれを受け入れる「心の準備」もまた必要になってくるのではないだろうか。技術面だけではない、さまざまな課題が浮き彫りとなったシンポジウムだった。

(村中貴士+ノオト)

[ガズー編集部]