北海道のタクシーに4輪駆動車が少ないのはなぜ?
お客様を乗せて、どんなにすべる坂道も、雪深い路地も走らなければならない北海道のタクシー。それなのに現在稼働しているタクシー車両は、雪のない地方と変わらないFR車がほとんどです。なぜ4WDやFFのクルマを導入しないの? 一般社団法人北海道ハイヤー協会 専務理事 照井幸一さんに疑問をぶつけました。
「ないものは仕方がない」が実のところ
――北海道のタクシーは、ほとんどがFR車であると聞きました。4WDのクルマではないのがとても不思議なのですが。
「FRのLPG車である、トヨタのCOMFORT(コンフォート)がほとんどですね。個人タクシーでは4WDのガソリン車を取り入れているところもありますし、プリウスも一時導入されたことがあり、現在走っているクルマもありますが、全体台数の割合としては少ないです」
――それはなぜでしょうか。
「これは、コストの問題なんです。1リットル当たりLPGは80円台、ガソリンは130円台(札幌市12月現在)と価格の差は明らかです。タクシーは1日平均300㎞くらい走りますから、1リットル当たり1円でも違うと支出がぐんと上がります。コスト削減を優先して、LPG車を選んでいる……そして、LPG車にはFRのクルマしかないということで、選択肢が限られてしまうわけです。4WDのLPG車がないから仕方なくということなのです。
プリウスはガソリンのハイブリッドということで、ガソリンが高くてもトータルの燃費で補えるかと導入してみたところもありました。しかし、自家用車としての場合とタクシーとしての走り方は違うので、3割くらい燃費が落ちてしまう。また、車体が低いのでタクシーとしては少し圧迫感があったこともあり、それほど導入されませんでした」
――今後も同じ傾向が続くのでしょうか。
「LPGのハイブリッドであるジャパンタクシーは、燃費的に期待しています。見た目は小さく感じますが、車内は広いんですね。運転手さんもお客さんもゆったり乗れるかなと思います。
現在北海道で導入されているのは50台くらいで全体の1%あるかないかくらいでしょうか。ただ、雪の時期に走るのはこれからなので、どんな感じかなと様子を見ています」
FR車で見事に冬を越すタクシーはどんな工夫をしている?
――タクシーはFR車両でこれまで冬を乗り切っているわけですが、タイヤ交換のタイミングは?
「大きな基準は『峠に雪が降りだしたら』ですね。札幌市内の盤渓(ばんけい)峠や札幌近郊の中山峠等で雪が積もると……というのが一番のタイミングです。
平地でも朝から雪が降りだすと、多少出動を遅らせてもタイヤ交換を行います。朝の7時ごろに勤務の切り替えの点呼をやりますが、その時点で天候の状況をしっかりみて判断してという感じです。
あまり早く換えてもタイヤの溝が減ってしまい、また換えなければならなくなりますし。いずれにしても『安全のために手を抜くな』ということが大事ですから」
――チェーンの装着をすることはありますか?
「チェーンは積んではいますが、装着することは現在ほとんどないかと思います。チェーンをつけるのは、よほどの深い雪道や急な峠を上がる時です。最近は札幌から釧路へなどの長距離利用で大きな峠を越えて……ということもなく、各市町村内近郊での利用が主なので、スタッドレスタイヤでなんとかなっています。また、今は砂(滑り止め材)を積んでいるタクシーは多いです。小樽市内は急な坂道がたくさんありますし、札幌市でも予算の関係でロードヒーティングの入った道路を減らしてきているのですよね。そこで、砂を何万袋ともらって全事業者に配布しています。坂道を登れない時は砂をまいて対処しているんです」
自家用車とは違う! タクシー特有の注意のくばり方
――タクシーならではの雪道対策などはありますか?
「実際に運転してきて、見てきたことというのは大事です。運転手が戻ってきて、終業点呼というのをやるのですが、その時に、どこのトンネルの前が滑って危なかったとか、どこそこで事故を起こしていてこんな状況だったという情報を運行管理者に報告します。そして、次に出動する人たちに知らせて注意喚起をします。
それでも予期しないことは結構あって、雪道とは関係ないかもしれませんが、お酒を飲んで道路で人が寝込んでいるなんてこともあります。遠くまで見通せるように、自分のクルマの前や対向車がいない時は、こまめに遠目(ハイビーム)にするようにしています。遠目にするとまぶしいと嫌がられることもありますが、タクシーの場合は、走行中に反対車線側の歩道でお客さんが手を挙げるのが見えたら、くるっと転回する等、自家用車とは違う走り方をしますから、安全のために少しでも見通しよくすることを優先しています」
――雪が車内に入らないようにする裏ワザがあったら教えてください。
「お客さんのコートや靴に雪がついてくることがあっても、さすがに『雪はらってから乗ってください』というわけにはいかないですのでね(笑)。車内は寒くないようにしっかり暖めていますから、まあ、ほどなく溶けて乾燥します。吹雪の時なんかは、もうどうしようもないしょ? だから、パッとドアを開けて、パッと乗ってもらって『たいへんだねー』って言って、お互いホッとして出発すると。そんな感じですかね」
FR車両で雪の坂道も、ものともせず走ってくれる北海道のタクシーは、しっかりした安全管理・情報共有と技術の上に成り立っているのでした。今後、より快適で燃費もよいタクシー用車両が開発されていくことにも期待したいところです。
(取材・文:わたなべひろみ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)
[ガズー編集部]
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