まじでつぶれる5日前! 経営難に陥った「道の駅」が打つ起死回生の一手とは?

MT5……。念のため断っておくと、5段変速のマニュアルトランスミッションのことではない。今年初め、自然豊かな高原地にある兵庫県美方郡香美町村岡区長瀬の道の駅「あゆの里 矢田川」から発信された、経営難に苦しんだ末の「まじでつぶれる5日前」というSOSメッセージの略称だ。

あたり一面には昭和へとタイムスリップできるかのような田園風景が広がる
あたり一面には昭和へとタイムスリップできるかのような田園風景が広がる

強烈なインパクトを残すタイトルとともに公式サイト上で綴られたのは、「駅長の月給を10万円にしても、店を潰してしまうか。今のままでは、春を迎えることすらままならない」という赤裸々な思い。悲痛なメッセージに、SNSなどで多くの反響が寄せられた。

道の駅といえば、ドライバーにとってはおなじみの憩いの場所でもある。しかし、なぜ先のようなメッセージを発信したのか。そして、道の駅がなぜ経営難へと陥ったのか。その背景を探るべく、道の駅「あゆの里 矢田川」の駅長・アセダイスケさんにお話を伺った。

ここ10年ほどで経営が悪化。かつての“輝き”が失われた

1999年に開業して以来、20年近く続く道の駅「あゆの里 矢田川」。県道4号村岡香住線沿いの風光明媚な場所にあり、周辺には世界最大の木製大仏「丹波大佛」や、天平17年に建立されたと言われる「大乗寺」などの由緒ある観光スポットも点在する。

道の駅「あゆの里 矢田川」で駅長を務めるアセダイスケさん
道の駅「あゆの里 矢田川」で駅長を務めるアセダイスケさん

開業当時は「駅が輝いていた」と語ってくれたアセさんは、道の駅が元気だったころは「珍しさもあり順調に売上げも伸びていて、春先には地元の方へ仕出し弁当を提供するなど、細々としながらも営業が続けられる仕組みができていました」と振り返る。

しかし、ここ10年ほどで経営状況は悪化。最盛期には5名以上のスタッフがいたと言うが、現在はアセさんともう1人の2名体制で営業を続けている。

近隣の道路が区画整理されて人の流れが変わったこともあるが、根本的には「もっと大きな衰退の理由があるのではないかと薄々感じています」とこぼすアセさん。今はもう「駅そのものが輝きを失っているようで、元気がなくなるにつれてお客さんからの信頼も失われてしまった気がします」と素直な思いを伝えていた。

悲痛なメッセージによりたくさんの人たちの心が動かされた

サイト上から発信された「まじでつぶれる5日前」というSOSメッセージ。今年の春先までは、行政からの補助金が入ってくる期限に合わせて「せめて計画的に営業しようと決めていました」と、アセさんは振り返る。しかし、「それどころではない状況になったから」と、2018年1月にSOSを発信した。

いろりを囲みながら名物のそばやうどん、季節に合わせた豊富なメニューに舌つづみを打てる
いろりを囲みながら名物のそばやうどん、季節に合わせた豊富なメニューに舌つづみを打てる

実際、サイト上の文章では「12月には残金15万、年末年始で20万円を売上、1月の払いだけで1万円だけが残る。資金のショートは寸前」と赤裸々な実情が明かされていた。しかし、アセさんは「誰かの金はあてにしたくない。道の駅が努力して、真正面から乗り越えたい。超低空飛行の自転車操業で」と訴えた。

悲痛な思いはたくさんの人たちの心を動かし、やがて、新聞やニュースサイトの記事としても拡散された。その経験から「どこも経営は大変だという声を耳にしますが、当初は近隣の人たちへ伝わっていない印象もあったんです。でも、素直に訴えることで内外へとよく伝わると確信しました」とアセさんは話す。

SNS上の声や記事を頼りに訪れる人たちもいて、現時点では「上を向いているのかなと思います。2月は売り上げが落ちる傾向にあったのですが、数字を見ると上向き。前年同期比で150%にまで上昇したので、ある程度の成果にはつながっている」というが、実際の反響はやはりあったようだ。

輝きを取り戻すために塗り替える。その先に見るのは地域への貢献

国土交通省のホームページによれば、2017年11月17日までに全国で1,134もの道の駅が登録されている。ドライバーとしては、2000年代に入り各地で増加したような印象もあるが、アセさんは「田舎独特の文化を残しながら、経営の視点を取り入れていくこと」が運営する上での難しさだと話す。

一角にある「情報コーナー」。アセさんは「ただ自分たちだけが儲かるのではなく、地域の観光にもつなげていきたい」と話す
一角にある「情報コーナー」。アセさんは「ただ自分たちだけが儲かるのではなく、地域の観光にもつなげていきたい」と話す

ひとつずつのサービスが衰退してしまった今、それぞれを「もう一度、塗り替えていくのが自分の仕事」だと言うが、「観光協会の広報を担当していることから駅長になった縁もあり、効果的な情報発信や交流の方法を広めて、同じようにやればみんなもきっと儲かるということを知ってもらい、貢献していきたい」と、その先の目標もあるそうだ。

勇気あるメッセージをきっかけに、知れ渡ることになったひとつの道の駅の実情。その裏にひそむ思いは「あゆの里 矢田川」だけではなく、衰退が叫ばれるあらゆる業種に通じるようにも映る。

▼道の駅「あゆの里 矢田川」
住所:兵庫県美方郡香美町村岡区長瀬933-1
電話:0796-95-1369
営業時間:9:00~18:00(冬季は17:00迄)
定休日:火曜日・年末年始(トイレ・駐車場は無休)
Webサイト:http://www.ayunosato.kamicho.jp

(取材・文:カネコシュウヘイ 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]