クルマは「仮設部屋」! モバイル避難所という考え
災害時、避難所生活が長期に渡るとしたら……。大勢の知らない人と狭い場所にいることに苦痛を感じることも増えてくることでしょう。そんな時、クルマをモバイル避難所として利用する方法もあります。モバイル避難所の可能性と災害時に向けての備えなどを、防災士であり、北海道防災マスターでもある大浦宏照さんに伺いました。
地震、洪水、大雪……災害が起きたらどこへ?
――どうしてクルマをモバイル避難所とする考え方が出てきたのですか?
自治体ごとに災害が起きた際の避難所の計画は立てられています。ただ、居住空間として割り当てられている面積は、1人あたりおよそ2~3㎡くらい。シングルベッドのひと回り小さいくらいの広さです。手を伸ばせば隣の人に届いてしまうくらい、とても狭いのです。また、このような計画はその地域に住んでいる人を基準に想定しているので、例えば、札幌市など観光客が多く訪れる都市で災害が起きた場合、想定以上の人が避難所に押し寄せることも考えられます。このように窮屈な環境の辛さを少しでも緩和する方法として、クルマをモバイル避難所として利用することが考え出されました。
これは、もともと、トヨタレンタリース札幌さんが考案した企画です。今のクルマには電源コンセントが装備されているものも多く、避難所あるいは防災拠点として使用できるのでは? という発想から始まっています。
――実際にはどんな形で使うのでしょう。
- プライバシーの確保のため、日光を遮るため、しっかり窓をふさぐ
クルマを避難所として使う場合、必要なのは、プライバシーを保つために開口部、窓をふさぐことと、車内の凸凹を修正してできるだけ平らにしていくこと。そのために、特別なものを用意するのではなくて、普段から家にあるものを利用することをすすめています。窓をふさぐためには、タオルケットなどをガムテープで貼りつける。凸凹を埋めるためには段ボールを使う。これだけでも、クルマの中はある程度、寝泊りできる空間になります。
- 車内の凹凸をなくして身体を伸ばしやすく
避難所のサブ空間としてのクルマ
――モバイル避難所としてのクルマはどのように活用するとよいですか?
内部を調節したとしても、やはり、クルマは居住空間として設計されてはいませんので、長期間滞在するには窮屈です。そこで、おすすめしているのは、避難所のそばにクルマを置いて「仮設部屋」として使用する方法です。避難所にはさまざまな情報が集まりますし、行政サービスを受けることもできます。ですから、基本は避難所に滞在して、家族が交代でクルマに泊まる。避難所内では仕切りがないので、着替えに使用する。また、ペットを同行した場合もクルマがあれば、他の人への気遣いが減ります。モバイル避難所といっても、そこにずっと滞在し続けるのではなく、適宜利用していくのがいいと思います。
エコノミークラス症候群は、車中泊をすることで発症しやすくなるというわけではありません。避難所にいても、狭い場所でじっとしていたら、かかってしまいます。避難所では、配布される物資を受け取りに行ったり、掃除を手伝ったり、あるいは、避難所内でのラジオ体操を積極的にすすめるなど、自然と動くことが多くなるため、エコノミークラス症候群にかかりにくくなるわけです。クルマに滞在する場合、車内だけで生活を完結しようとするため、動くことが少なくなり、結果、エコノミークラス症候群にかかりやすくなってしまいます。ですから、その点からも、避難所のサブ空間としてクルマを使用することをおすすめします。
――その他、有効な利用方式はありますか?
避難生活が長期にわたる場合、大勢の人と生活を共にすることで、精神的に辛くなることもありますよね。例えば、クルマを所有していなくても、避難が長期化した場合は可能であれば被害のなかった地域からレンタカーを借りて、避難所から一時的に離れてみるのも1つの方法です。多くの場合、被災から1週間ほどで一定の交通インフラは回復してきますので、クルマを持っている人にお願いして移動するなどして借りに行ってはどうでしょう。また、風邪やインフルエンザなどにかかってしまった時、他の人に迷惑をかけないようにレンタカーをモバイル別室として利用してみるというのもよいでしょう。
自分の地域を知ることが災害に備える第一歩
――モバイル避難所としてのクルマの活用も含め、災害に備えるために大切なことは何でしょう
まずは、自分の住んでいる地域の特性を知ることです。どんな災害が起きる危険性があって、その時どんな状況が起きてくるか。クルマのことでいうと、自治体によっては、クルマでの避難を禁止しているところもあれば、反対に、津波の侵入範囲が数㎞に及ぶためクルマでなければ避難できないという地域もあります。
そのうえで、日常生活の延長として、災害に強い暮らし方や考え方を情報や知識として少しずつ取り入れていくことが大切だと思います。家族の暮らしの形は年々変化していきます。なので、決まったパッケージとして防災の備えをするよりも、変化に応じて対応していけるような知恵を増やしていくほうがよい。災害時には、視野が狭くなったり、慌ててしまうのは当たり前のこと。そんな時、繰り返し積み重ねた小さな知識が役立つことと思います。
――ありがとうございました。
防災の備えはこうあらねばならない。クルマをモバイル避難所とするなら、ずっとそこに居続けなければいけない……。そんな固定観念にとらわれず、臨機応変に考えることが大事であることを教えていただきました。いざという時に、気負わず知恵を出し合っていけるよう心がけたいものです。
(取材・文・写真:わたなべひろみ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)
[ガズー編集部]
取材協力
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