なぜトンネルの中はオレンジ色? 道路照明に隠された工夫とは
夜間にクルマを運転するときに欠かせないもの、それは道路照明です。かつては水銀灯が広く使われていましたが、現在はLEDが主流となっています。
そういえばトンネル内の照明って、なぜオレンジ色なのでしょうか? 今回は、普段あまり意識しない道路照明の意外な特性について調べてみました。
質問に答えていただいたのは、岩崎電気株式会社の国内事業企画推進部、坂田信之さんと加藤嘉宏さんです。
- 岩崎電気株式会社 国内事業企画推進部 坂田信之さん(左)、加藤嘉宏さん(右)
――道路照明にはどのような種類があるのでしょうか?
道路照明は下記の3つに分けられます。それぞれ明るさや光の均一性などの基準があり、道路管理者(国、都道府県、NEXCOなど)が設置しています。
・連続照明……高速道路やバイパスなど、交通量の多いところに一定間隔に設置
・局部照明……交差点、橋、歩道、インターチェンジ、休憩施設などに設置
・トンネル照明……昼間の急激な明るさの変化を緩和し安全に通行するための特別な照明
――道路照明の歴史について教えてください
昭和30~40年代はほとんどが水銀灯でしたが、昭和50年ごろから消費電力の低い高圧ナトリウムランプが使われるようになりました。きっかけは昭和48年のオイルショックで、当時は節電のため高速道路の照明も一部消灯されたようです。
その後、平成10年ごろからセラミックメタルハライドランプが使われるようになり、さらに平成23年ごろからLEDが一気に普及しました。水銀灯と比較すると消費電力は20%、寿命は5倍と、性能が格段に上がりました。
- 道路照明の変遷
――トンネルの照明も同じような変遷なのでしょうか?
トンネル照明が本格的に設置され始めたのは昭和40年代からです。当初は低圧ナトリウムランプが使われており、その後、高圧ナトリウムランプ、蛍光灯、セラミックメタルハライドランプを経てLEDに変わっていきました。
トンネル照明は1日じゅう点灯するため、昔は毎年ランプを交換する必要がありました。それがLEDになったおかげで、10年間交換する必要がなくなったのです。これは大きな進歩といえますね。
- トンネル照明の変遷
――「トンネル=オレンジ色」という印象が強いのですが、なぜ白ではなかったのでしょうか?
昔は排ガス規制がそれほど厳しくなかったので、トンネルの中は煙が充満していました。そのため、煙の中でも見えやすいオレンジ色で、かつ効率が良いナトリウムランプが使われていたのです。
その後は排ガス規制によって煙の量が減り見通しも良くなったことと、効率の良い光源が開発されたことで、自然に見える白いランプが普及し始めました。まだナトリウムランプが使われているところもありますが、新しいトンネルについてはほぼLEDに切り替わっています。
- ナトリウムランプ(左)と白色LED(右)
――「トンネルは特別な照明が必要」とのことですが、具体的には?
トンネルを運転する際はさまざまな目の順応現象が起きます。たとえばトンネルに接近したとき、入口が黒い穴のように見えてしまい、内部が識別できなくなることがありますよね。これを「ブラックホール現象」といいます。
逆に出口では、暗いトンネル内に順応したあと急にまぶしくなるので、前面が真っ白になり外の様子が識別できなくなります。これを「ホワイトホール現象」といいます。
ほかにもトンネル内の視覚条件は一般道と異なるため、特に入口と出口は照明を増やす構成になっています。簡単にいうと、なるべくトンネル内と外の明るさに差が出ないようにして、スムーズに運転ができる仕組みになっているということですね。
- トンネル照明の構成
照明の当て方にも工夫があります。一般的な「対称照明方式」とともに、最近では先行車をより見えやすくして衝突を回避する「プロビーム照明方式」を採用するトンネルも増えています。
- 対称照明方式(上)とプロビーム照明方式(下)
――トンネル照明にはそんな工夫があったのですね。道路照明もLED になり、明るい昼白色が増えましたが、今でもオレンジ色が好まれるケースがあると聞きました
「雪が降っているときは白よりも見えやすい」という理由から、雪国では電球色(オレンジ色)のLEDを要望されることがあります。また、環境への配慮で使われる場合もあります。
というのも、光は生物の生態系や農作物に影響を与えます。光害と書いて「ひかりがい」と読むのですが、近くに自然環境が存在する場合は、明るさの影響が少ない照明設計にする必要があるのです。
たとえば、光には虫が集まりますよね。それを「誘虫性」というのですが、電球色のLEDであれば誘虫性をより低減できるという特徴があります。
- 誘虫性を比較した図
――先日、道路脇の低い位置から照らす照明を見かけたのですが、何か理由があるのでしょうか?
それは、1m程度の高さから路面を照らす「低位置照明」ですね。高い位置から照らす「ポール照明」の場合、どうしても光が道路の外に漏れてしまいます。低い位置に設置すれば路面だけを照らすことになり、道路外へ光が落ちません。
都市部にある高速道路の料金所付近では、すぐ近くに住宅があるといった理由で低位置照明が使われているところが多く、これも光害対策の一つです。また、点検や維持管理、落下の危険性などを考慮して採用している場合もあります。
- 低位置照明のイメージ図
――今後、道路照明はどのように進化すると思われますか?
照明ポールが照明用途以外の社会インフラへと進化するかもしれません。
具体的には、自動運転の普及にむけたインフラ設備の一端を道路照明が担えないか、と考えています。例えば地理情報を得るポイントとして、自動運転車がスムーズに走れるような機能を持たせるといった利用方法ですね。LEDによって省電力化が進んでいるので、余った電力を活用する手法はいろいろあると思います。
道路照明には意外といろんな工夫が施されているのですね。
照明が進化して見えやすくなったとはいえ、夜間やトンネル内の走行は危険が伴います。ドライバーのみなさん、くれぐれも安全運転を心がけましょう。
(取材・文・写真:村中貴士 編集:ミノシマタカコ+ノオト)
[ガズー編集部]
取材協力
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