「南4西3」から「すすきの」へ。交差点の標識を観光地の名前に変える理由とは

2年前、ある交差点名の標識変更が話題となりました。それは「すすきの」。それまで「南4西3」「南4西4」だった交差点名を、有名なスポットである「すすきの」に変更したのです。
いったいどんな事情があったのか、詳細をお聞きしてきました。ご対応いただいたのは、国土交通省 道路局企画課の本田卓さんです。

国土交通省 道路局企画課 本田卓さん
国土交通省 道路局企画課 本田卓さん

――さっそくですが、なぜ住所表記から「すすきの」に変更したのでしょうか?

国土交通省では観光立国や地方創生の実現に向けて、交差点名標識に観光地の名称を表示し、よりわかりやすい道案内となるような改善を推進しています。「すすきの」への変更もその取り組みの一つです。

――「すすきの」だけではなく、全国的な施策なのですね。この取り組みはどういうきっかけで始まったのでしょうか?

最初に実施したのは、鹿児島県の「旧集成館前」という標識です。平成27年に「明治日本の産業革命遺産」として世界文化遺産に登録された中の一つ、旧集成館(鹿児島市)に隣接する交差点の標識を「磯交番前」から変更しました。
この世界遺産は鹿児島だけではなく日本全国に点在しており、統一的なロゴマークを道路標識につけていきましょう、という動きがあったんですね。それと同時に、観光振興のために交差点名標識を変えたいという要望も挙がりました。
一方で、政府としても観光ビジョンを作成する動きがありました。案内標識は道路管理者が主体的に決めることができるので、国土交通省も手助けして地域の活性化につながれば、と平成27年12月から本格的に取り組みを始めました。

「磯交番前」から「旧集成館前」に変更(鹿児島県)
「磯交番前」から「旧集成館前」に変更(鹿児島県)

――簡単にいうと、「もともと住所表記が多かった交差点名標識を、わかりやすい観光地の名称に変えていこう」ということですね。

変更だけではなく、新たに設置することも推進しています。対象とする地点や表示する観光地の名称は、地域のみなさんのご意向をお聞きしつつ、道路管理者、観光関係者、都道府県公安委員会と連携して決定しています。
道路は国道、都道府県道、市町村道とそれぞれ管理者が異なります。しかしドライバーにとってはあまり関係のないことで、案内標識がバラバラになると混乱が生じてしまう可能性もありますよね。交差点標識を変えるためには関係者の間で調整する必要があるので、「道路標識適正化委員会」で協議して決めています。

住所名から東海道五十三次の宿場町「関宿」に変更(三重県)
住所名から東海道五十三次の宿場町「関宿」に変更(三重県)

――写真を見ると、ピクトグラムが入っている標識もありますね。何か基準があるのでしょうか?

著名地点(文化施設や観光地など)をあらわす標識にはピクトグラムを使っていいですよ、というルールがあります。実際につけるかどうかは現地の判断で、温泉マークなどはご覧いただくことも多いと思います。基本的にはJIS規格に定められているものを使いますが、新たなデザインでもOKです。すでにその地域になじみのあるマークがあれば、使っていただいて構いません。

蔵王温泉入口(山形県)には温泉マーク、橋杭岩(和歌山県)には「南紀熊野ジオパーク」のマークが入っている
蔵王温泉入口(山形県)には温泉マーク、橋杭岩(和歌山県)には「南紀熊野ジオパーク」のマークが入っている

――変更後、いちばん反響が大きかった交差点はどこですか?

やはり北海道の「すすきの」ですね。地元の新聞やテレビ、雑誌などでも取り上げられ、かなり反響がありました。
もともと札幌は道路が碁盤の目のような形状で、「南4西3」という住所表記も合理性はあったんです。ただ地元の方は分かっても、外から来る観光客には分かりづらいですよね。「すすきの」は知名度が高いので、「はじめて来る人にも分かりやすくて良い」とおおむね好評のようです。

「南4西3」「南4西4」から「すすきの」へ変更(北海道)
「南4西3」「南4西4」から「すすきの」へ変更(北海道)

あとは温泉地です。「こっちが下呂温泉の南口ですよ」という標識を、分岐する交差点に設置しました。都心だと交差点を間違えても比較的すぐに戻れますが、地方の場合は一つ間違えるとかなり離れてしまい、戻るのに時間がかかってしまうケースもありますよね。
「ここが入り口ですよ」と示しておけば、ドライバーにとっても分かりやすいかと思います。

岐阜県下呂市での変更一覧。太字が改善後の表示名
岐阜県下呂市での変更一覧。太字が改善後の表示名
温泉地にはさまざまな案内標識や看板があるため、交差点標識もそれらと整合性をとる必要がある
温泉地にはさまざまな案内標識や看板があるため、交差点標識もそれらと整合性をとる必要がある

――「交差点の標識名を変えたい」「新たに設置して欲しい」という要望は、地元の住民から挙がってくるのでしょうか?

そういったケースもありますが、まだまだ少ないですね。どちらかというと道路管理者や自治体側からの提案が多い状況です。

ドライバーのみなさんから「ここの交差点名、分かりやすかったよ」とか、「ここに標識を設置したほうがいいんじゃないか」といった声が挙がれば、もっと盛り上がるのではないかと思います。
まずは「交差点名の標識って、変えられるんだ」ということを知ってもらい、意見や要望を挙げていただければ嬉しいですね。

――今後の予定は?

できるところから随時すすめていて、現時点では100カ所を超えています。最近では国道以外にも取り組みが広がってきました。とくに目標値があるわけではありませんが、広くこの取り組みが進んでいくことを期待しています。

「夏海I.C入口」から「大洗サンビーチ入口」に変更(茨城県)
「夏海I.C入口」から「大洗サンビーチ入口」に変更(茨城県)

たしかに、外から来るドライバーにとっては観光地名称のほうが分かりやすいですよね。「ここの交差点標識も変えたほうがいいんじゃないか」「新たに設置してほしい」といった要望があれば、道路管理者や地方整備局に問い合わせてみてください。

(取材協力:国土交通省 道路局 企画課)

(取材・文・写真:村中貴士 編集:ミノシマタカコ+ノオト)

[ガズー編集部]

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