ドラマや映画に出てくる「劇用車」はどうやって手配されている? 劇用車レンタル会社に聞いてみた

テレビや映画を見ていると、刑事モノならパトカーや救急車、昔の映画なら旧車と、実にいろいろなクルマが登場しますよね。では、こうした劇中車は、いったいどのように手配されているのでしょうか?

実はメディアに出演するクルマを専門に扱う「劇用車」のレンタル業者が存在します。しかも、ただ車両を貸し出すだけではないらしい。そこで、劇用車レンタル会社「スペース・ウィン」の大柴さんにお話をうかがいました。

パトカーに強い会社、旧車に強い会社

劇用車といえば、パトカーや旧車などちょっと特殊な車両を思い浮かべる方も多いかもしれません。しかし、大柴さんいわく「タイヤとエンジンがついていれば全部劇用車」とのこと。パトカーなどの特殊車両はもちろんのこと、ごく一般的な乗用車もあれば、二輪車や農作業車、タンクローリーなどを扱うこともあるのだと言います。

「劇用車を貸し出す会社には、自社所有している会社とコーディネートを専門にしている会社が存在します。さらに自社所有している会社の中にも、『パトカーに強い』『旧車に強い』などそれぞれ特色があります。ドラマ撮影の際は、『品川ナンバーのパトカーが◯台』『一般車両が◯台』と使用される車種が多岐にわたり、また台数も多いため、一社が全部を請け負うことは少なく、何社かの協力をへて実現するのが一般的となっています」

台数が多いのは納得ですが、ナンバープレートについては撮影用にナンバープレートを用意すれば済みそうな気がします。しかし、実際のところはそう簡単な話ではないようです。

「ナンバープレートの付け替えは、撮影時にその場所を封鎖していればOKですが、撮影許可だけがおりた状態で公道を使って撮影するとなると、付け替えでの走行はNGです。最近は公道の撮影許可も厳しいため、実際の希望ナンバーを所有する自動車を探すことの方が多いですね」

具体的な車種の指定がある場合は該当車両を探し出すだけですが、ときにはドラマの設定から使用車両を提案することも多いと言います。

「たとえば“大金持ちの社長が乗るクルマ”という設定なら最新の高級車でいいですが、“ヴィンテージモノが好きでこだわりが強い性格”という設定が加わるなら、プレミアがついている旧車の方がそれっぽいですよね。そういうときは、制作スタッフの方と相談して『こういった車種ならどうでしょう?』と弊社から提案することもよくあります」

ドラマや映画にドラマに出てくるクルマが違和感なく見られるのは、大柴さんのような陰の立役者がいてこそなのですね。

真冬の北海道に缶詰になったことも……

劇用車レンタルという業種が非常に特殊であること、また企画段階から重要な役割を担っていることはよくわかりました。しかし、クルマを「探して貸す」だけが劇用車レンタル会社の仕事ではありません。

「貸し出し車両を手配し、現地まで運び、さらに撮影中に配置を変えたり撮影時のフォローを行ったりするところまでが業務範囲です。1台の車両に複数人が関わっていることが多く、走行中の映像を撮る場合はカーアクション会社さんが、事故や爆発などをさせる場合はクルマを爆発させる専門の会社さんが関わっていきます」

ちなみに過去に辛かったエピソードをうかがうと、某タイヤメーカーのCM撮影のため、真冬の北海道に1週間、缶詰になったことを教えてくれました。

「グリップ力の高さを見せるためのCMだったため、ABSを切って氷の張った湖上で撮影しました。予定では車両の貸し出しで終了するはずが、ABSを切っていたためエンジンやメーターなどの不具合が出る可能性もあり、結局1週間、車両に張り付きでしたね」

「マイカーをテレビに出したい!」と思ったら?

劇用車レンタル会社の仕事についてお話を聞いていると、芸能人のマネージャーさながらの細やかさが必要とされるようですが、実際に業者にとって劇用車はモデルや俳優と同じような存在なのだそう。そうなると当然欠かせないのが、日ごろのスカウト活動です。

大柴さんの会社では普段、時間があれば自動車イベントにも参加して「いいな」と思ったクルマのオーナーさんに声をかけることもあれば、街中で追いかけて声をかけることもあるんだそう。

「よく『どんなクルマならテレビに出られますか?』と聞かれるのですが、ピカピカの希少車であればいいわけではありません。ドラマやCMでは作品ごとにニーズがまったく違うので、意外と10年ぐらい前の大衆車が手薄だったりします」

手配に困るクルマに共通する点を教えていただくと、一般的なレンタカー業者が扱わない少し古い年式、かつオーナーズクラブがないようなごく一般的な乗用車だそう。傷の有無については撮影ニーズによって異なるため、「気にしなくていい」とのこと。「自分のクルマがドラマや映画に出るチャンスは、誰にでもあります」と大柴さんは教えてくれました。

実際にスペース・ウィンで1番人気の劇用車両は、たまたま大柴さんが洗車中に見かけたクルマなのだとか。スカウトがキッカケで人気者になるなんて、まさに芸能界と同じ。知られざる劇用車の世界を知ると、今日からテレビを見る目が変わりそうです。

(取材・文:おおしまりえ 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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