ルノーの先進性を体感。フランス製中型ファミリーカー、ルノー「16TS」に試乗してみた
日本では比較的小さなモデルに定評があるフランス車。しかし中型以上のモデルにもなかなか侮れないクルマも多いのです。
1964年に第1号がラインオフ。その後80年の間に185万台弱も生産された、中型の5ドアハッチバックサルーン、ルノー16というクルマがあります。めったに見かけることのない1台ですが、かつてはそれなりの台数が国内に持ち込まれました。見た目に圧倒的な華があるタイプではありませんが、飽きのこない実用車として端正なディテールを持っています。
- 非常にルーミーな室内。このスケール感も含めて、その後のモデルにも通じる佇まいがすでに完成している
今回は、そんなルノー16の中でも1968年に追加されたモデル、16TSのステアリングを握ることができましたのでご紹介します。
- 試乗ドライブの目的地は「マロニエ・オートストーリー」。クルマ好きが集う大人のバーベキューミーティングへ向かった
どこか懐かしいエンジン音と共に登場
- 飽きの来ないデザイン。自動車としての完成度が高いかどうかは乗ってみなければわからないものだ
交通量の少ない明け方の道路を、どこか懐かしいエンジン音を響かせつつ、駿足ぶりを披露しながらやってきた16TS。今回はクルマ好きかつ運転好き、プロとしてバスのドライバーもしている筆者の知人の田口氏からクルマをお借りしました。彼のことは、クルマや運転に対する態度に敬意を表しつつ「エンスーすぎる運転手さん」と呼んでいます。
- オーナーの田口さん曰く「上がりの一台」と言わしめる16TS。横顔を見ているだけでもこのクルマの良さ、そしてこのクルマへの想いが伝わってくる
さっそく乗り込むと、とても広い室内に驚かされます。窓が大きく取られているので、日が昇るにつれて、室内がどんどん明るく。まるでお日様と一緒にドライブしているような牧歌的雰囲気があるのです。ルノーのラインナップの中では、ほどほど高級車と言って差し支えない車格だと思いますが、乗るものを圧倒するようなところは希薄。フランス車、特に1960年代までのクルマに共通して感じるところです。
- 使い勝手に関しても妥協がない。このたっぷりと開くドアの開口角ひとつとっても、実用性能の高さに感心させられる
時代を超えた装備、時代を超えた普遍性
- 窓を開けるレギュレーターハンドルが見当たらない。この時代の上位車種でもある16はすでにパワーウィンドウを備えている
さらに感心させられるのは充実した装備です。窓の開閉はパワーウィンドウ、年式を考えるとちょっとびっくりします。旧車のパワーウィンドウですが、実際に使ってみるとその挙動はしっかりしていて、不安にさせるようなことはありません。ワイパーも2段階の速度が選べます。もちろん現代のプレミアムカーの装備と比べたら決して先進的、充実、至れり尽くせり、とは言えません。しかし、いま乗っても十分、と感じさせるほどの充実した装備内容はさすがです。
しばらく助手席に乗っていたのですが、なぜか妙に懐かしく、長時間乗ったことはなかったのに「帰ってきた」というような感覚が生まれます。実は現在、筆者は初代ルノー・ラグナに乗っています。16よりはずっと新しいクルマですが、窓の大きさ、高さ、キャビンの前後長、たっぷりとしたシートの作りといった項目は、とても似ているようです。
- これは筆者が現在アシにしているルノー・ラグナ。先日関西に出かけた際にテクノパンに立ち寄った際の一枚
初めてなのに懐かしい。たちまち馴染む乗り味
- 東北道の途中からステアリングを握らせていただくことに。少なからず緊張する
途中からステアリングを握らせていただくことに。この日は栃木県鹿沼市で開かれたクルマ好きが集うイベント「マロニエ・オートストーリー」へ向かいました。イタリアのクラシックカーレース「ミッレミリア」のような雰囲気の、参加者のみならず地域の人も楽しみにしているイベントです。
昔のクルマですので、90馬力くらいしかありませんが、とても軽やかに、力強く滑り出します。全域でトルクフル。そしてあらゆる場面で車体の姿勢が適切だということを、ステアリングを通じてドライバーに知らせてくれるかのよう。とにかく、運転が楽なのです。
- 左ハンドルのコラムマニュアルシフトは、初体験。けれども乗るとすぐにしっくりとくる。運転はとてもイージーだ
ちなみにこのクルマ、昔はタクシーなどでよく見かけましたが、ステアリングの脇からシフトレバーが出ていて、それを操作するスタイルのコラムシフトです。筆者は、左ハンドルのコラムマニュアルシフトはこれが初めてでしたが、すぐに慣れました。高速道路を降りてからの一般道のドライブもこのクルマにはピッタリ。カントリーロードをさらりと流しました。
今回は都心から地方へ向かいましたが、逆にビルの狭間を半世紀前のクルマで縫うというのも、都内を堪能する方法のひとつかなと感じます。街の中を走っても古臭さがなく、モダンで妙に気を遣わせるところがない、そんなクルマだと感じました。
- ルノー16TSと過ごす一日。ちょっと後を引くようないいクルマだった
このクルマのオーナーでもあり、多くのクルマを所有する田口氏からは「ある種上がりの一台」とまで言わしめるルノー16TS。相当昔から、未来のモダンを実現させていたルノーの先進性に改めて感心させられる体験でした。
(取材・文:中込健太郎 編集:ミノシマタカコ+ノオト)
[ガズー編集部]
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