平成時代の「日本カー・オブ・ザ・イヤー」受賞車を振り返る

日本のモータリゼーションの発展とコンシューマー(一般消費者)への最新モデルおよび最新技術の周知を目的として、1980年に創設された「日本カー・オブ・ザ・イヤー」。

受賞車(イヤーカー)は、その年を代表するモデルであり、同時にその時代を写す鏡であるとも言えます。そこで平成最後となる第39回のイヤーカーが発表された今、平成時代(第10回~38回)のイヤーカーの中から、特に象徴的なクルマをピックアップし、クルマと文化の変遷をたどってみました。

第10回(1989-90年)~第15回(1994-95年)

平成最初の日本カー・オブ・ザ・イヤーは、1989-90年の第10回。この時代は、ちょうどバブル経済の絶頂期で、高級車や高性能なスポーツカーが各メーカーから続々と発表された年でした。第10回のイヤーカーに選ばれたのは、それを象徴する「トヨタ・セルシオ」。

第10回のノミネート車を見ると「日産・フェアレディZ」、「トヨタ・MR2」、「ユーノス・ロードスター」と、今では考えられないほどスポーツカーの注目が高かったことがわかります。スポーツカーといえばモータースポーツも盛んで、「全日本ツーリングカー選手権」や「世界ラリー選手権」など、国内外で国産車が大活躍していました。

また第12回の特別賞に「三菱・パジェロ」、第13回の特別賞に「いすゞ・ビッグホーン」がそれぞれ選出されており、RV車(レクリエーショナル・ビークル、今で言うSUV)の人気が高かったことも伺えます。

【第10~15回のイヤーカー/特別賞/インポート・カー・オブ・ザ・イヤー】
・第10回 トヨタ・セルシオ
・第11回 三菱・ディアマンテ/トヨタ・エスティマ
・第12回 ホンダ・シビック、シビック・フェリオ/三菱・パジェロ
・第13回 日産・マーチ/いすゞ・ビッグホーン
・第14回 ホンダ・アコード/トヨタ・スープラ
・第15回 三菱・FTO/ホンダ・オデッセイ/メルセデス・ベンツCクラス

【この間に起こった日本の出来事】
・消費税法施行(1989年4月、当時は3%)
・F1日本グランプリで鈴木亜久里が日本人初の3位入賞(1990年10月)
・広島カープが5年ぶりのセ・リーグ優勝(1991年10月)
・初代「プレイステーション」発売(1994年12月)

第16回(1995-96年)~第20回(1999-2000年)

第18回(1997-98年)では、初代「トヨタ・プリウス」が受賞しました。今でこそ当たり前となった「エンジン+電気モーター」で走るハイブリッド車は、1997年に登場した初代プリウスが量産車として世界初。走行性能と経済性を両立した画期的なクルマとして、高い評価を受けました。

この時の特別賞には「いすゞ・ビークロス」が選ばれました。プリウスと対極にあるような趣味性の高いRV車です。このころから、スバル・フォレスターやホンダCR-VといったSUVのノミネートが増え、「実用性とアクティビティと両立したクルマ」が求められるようになったことがわかります。

【第16~20回のイヤーカー/特別賞/インポート・カー・オブ・ザ・イヤー】
・第16回 ホンダ・シビック、シビック・フェリオ/日産・テラノ/ローバー・MGF
・第17回 三菱・ギャラン レグナム/マツダ・デミオ/メルセデス・ベンツSLK
・第18回 トヨタ・プリウス/いすゞ・ビークロス/ルノー・メガーヌ
・第19回 トヨタ・アルテッツァ/ホンダ・Z/メルセデス・ベンツAクラス
・第20回 トヨタ・ヴィッツ プラッツ ファンカーゴ/ホンダ・S2000/ローバー・75

【この間に起こった日本の出来事】
・Windows95が発売(95年11月)
・「ポケットモンスター赤・緑」が発売(96年2月)
・アップル、初代iMac発売(98年8月)

第21回(2000-01年)~第25回(2004-05年)

この5年間は、第24回(2003-04年)の「スバル・レガシィ」をのぞいて、すべてホンダ車(第21回:シビック、第22回:フィット、第23回:アコード)が、カー・オブ・ザ・イヤーを受賞しています。ちなみに第21回のイヤーカーに選ばれたシビックは、4回目の獲得。同一車名での最多受賞です。

第25回のカー・オブ・ザ・イヤーを受賞した「ホンダ・レジェンド」は、4輪の駆動力を自在に配分できる「SH-AWD」を搭載。その技術が高く評価されて「特別賞-モスト・アドバンスド・テクノロジー」とのダブル受賞となりました。余談ですが、このホンダ・レジェンドは、この年に事実上解除された「280PS自主規制」を最初にオーバーした国産車です。

この時期のノミネート車を見ると、「トヨタ・セルシオ(第21回)」、「日産シーマ(第22回)」、「ジャガーXJ(第24回)」といったバブル期のようなプレミアムカーが登場しており、「快適かつ速く」という要件を満たしたクルマが人気だったようです。

【第21~25回のイヤーカー/特別賞/インポート・カー・オブ・ザ・イヤー】
・第21回 シビック シビック・フェリオ ストリーム/スバル・インプレッサ/メルセデス・ベンツCクラス
・第22回 ホンダ・フィット/トヨタ・エスティマハイブリッド/アルファ・147
・第23回 ホンダ・アコード アコードワゴン/日産・フェアレディZ、BMW 7シリーズ

【この間に起こった日本の出来事】
・アップル、初代iPod発表(2001年10月)
・地デジ放送が東京、大阪、名古屋で開始(2003年12月)
・佐藤琢磨選手が日本人として14年ぶりにF1で3位表彰台を獲得(2004年6月)

第26回(2005-06年)~第30回(2009-10年)

いよいよこのころから、環境性能の高いクルマが目立つようになってきます。第30回目は3代目プリウスが受賞、次点で「ホンダ・インサイト」、4位は「三菱 i-MiEV」でした。街中ではプリウスが爆発的に増えて「国民車」のようなイメージに。

一方で特別賞は、「日産GT-R(第29回)」、「ランサーエボリューションX(第28回)」と、高性能モデルが受賞しています。時代のニーズに合わせたクルマ作りする一方で、マンネリ化を打ち破るような、メーカーがもてる技術を結集したクルマが誕生した時期です。毎年、細かな改良が行なわれているとはいえ、日産GT-Rが今年で11年目という事実に、メーカーのたゆまぬ努力が見え隠れします。

【第26~30回のイヤーカー/特別賞/インポート・カー・オブ・ザ・イヤー】
・第26回 マツダ・ロードスター/スズキ・スイフト、シビック シビック・ハイブリッド/BMW・3シリーズ
・第27回 レクサスLS460/TTクーペ(Most Fun)、三菱・i、ホンダ・ストリーム/シトロエン・C6
・第28回 ホンダ・フィット/三菱・ランサーエボリューションX、フォルクスワーゲン・ゴルフGT TSIゴルフトゥーラン ゴルフヴァリアント、ダイハツ・ミラ/メルセデス・ベンツ Cクラスセダン
・第29回 トヨタ・iQ/日産・GT-R、スバル・エクシーガ、ホンダ・フリード/シトロエン・C5
・第30回 トヨタ・プリウス/三菱・i-MiEV、日産・フェアレディZ、スバル・レガシィ、ホンダ・フィット/フォルクスワーゲン・ゴルフ

【この間に起こった日本の出来事】
・愛知万博「愛・地球博」開幕(2005年3月~9月)
・「初音ミク」が発売開始(2007年8月)
・「iPhone 3G」が日本発売開始(2008年7月)

第31回(2010-11年)~第35回(2014-15年)

まだ記憶に新しい2010年代前半は、第32回(2011-12年)に初めてEV(電気自動車)の「日産リーフ」が、第34回には初めて輸入車の「フォルクスワーゲン・ゴルフ」がカー・オブ・ザ・イヤーを受賞しています。

輸入車の評価の高さは年々上がっており、日本車にはない所有欲を満たすようなプレミアム感と経済性を両立しているのが高評価の要因。第35回は、欧州に開発拠点をもつマツダのコンパクトカー「デミオ」が輸入車の定番である「メルセデス・ベンツ Cクラスセダン」を抑えて受賞しました。

【第31~35回のイヤーカー/特別賞など】
・第31回 ホンダ・CR-Z/プジョー・RCZ/フォルクスワーゲン・ポロ
・第32回 日産・リーフ/マツダ・デミオスカイアクティブ/メルセデス・ベンツCクラス
・第33回 マツダ・CX-5/トヨタ・86 スバル・BRZ/BMW・3シリーズ
・第34回 フォルクスワーゲン・ゴルフ/三菱・アウトランダーPHEV(イノベーション部門賞)/マツダ・アテンザ(エモーショナル部門賞)/スズキ・スペーシア、マツダ・フレアワゴン(スモールモビリティ部門賞)/ダイハツ・ムーヴ フロントリフト福祉車両(特別賞)
・第35回 マツダ・デミオ/メルセデス・ベンツCクラス(インポート・カー・オブ・ザ・イヤー)/BMW・i3(イノベーション部門賞)/ホンダ・N-WGN(スモールモビリティ部門賞)/トヨタの燃料電池車への取り組み(特別賞)

【この間に起こった日本の出来事】
・小惑星探査機「はやぶさ」が地球に帰還(2010年6月)
・東日本大震災(2011年3月)
・消費税が5%→8%に増税(2014年4月)

第36回(2015-16年)~第38回(2017-18年)

第36回には久々のスポーツカー「マツダ・ロードスター」が「作り手の情熱を感じ、初代からドライビングの楽しさを追求し続け、真のクルマ文化を根付かせたいと努力してきたマツダの企業姿勢を高く評価する」という理由で受賞しました。また、世界で初めて一般販売された燃料電池車「トヨタMIRAI」が特別賞を獲得しています。

第37回の特別賞は、「ホンダNSX」が受賞しました。日本車も、欧州車に負けずに明確な意志を持ったクルマがどんどん登場しています。おそらく開発現場の世代交代が、まさに今始まっているのでしょう。

【第36~38回のイヤーカー/特別賞など】
・第36回 マツダ・ロードスター/BMW2シリーズ アクティブツアラー グランツアラー(インポート・カー・オブ・ザ・イヤー)/テスラ モデルS P85D(イノベーション部門賞)/スズキ・アルト アルト ターボRS アルト ラパン(スモールモビリティ部門賞)/株式会社ヤナセ「日本の輸入車市場の発展に貢献」(特別賞)/トヨタ MIRAI(特別賞)
・第37回 スバル・インプレッサスポーツ G4/アウディ A4シリーズ(インポート・カー・オブ・ザ・イヤー)/日産・セレナ(イノベーション部門賞)/BMW M2クーペ(エモーショナル部門賞)/ダイハツ・ムーヴ キャンバス(スモールモビリティ部門賞)/ホンダ・NSX(特別賞)
・第38回 ボルボ・XC60/トヨタ・プリウスPHV(イノベーション部門賞)/レクサス・LC(エモーショナル部門賞)/ホンダ N-BOX(スモールモビリティ部門賞)/トヨタ ハイブリッド車の世界累計販売が1000万台突破(特別賞)/佐藤 琢磨(特別賞)

【この間に起こった日本の出来事】
・スターバックスが鳥取県に第1号店をオープン(2015年5月)
・広島カープ、25年ぶりのセ・リーグ優勝(2016年。現在3連覇中)
・将棋棋士の羽生善治が史上初の永世七冠を達成(2017年12月)

カー・オブ・ザ・イヤー受賞車を振り返ってみると、それぞれがそのときを象徴している存在であることがわかりますね。また、ひとくちに“平成”といっても30年、クルマだけを見ても、その間の世の中の変化は大きかったと言えそうです。次の30年は、一体どんなクルマが生まれてくるのでしょうか。

▼日本カー・オブ・ザ・イヤー公式サイト
http://www.jcoty.org/

(文:クリハラジュン 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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