クルマの中から故人とお別れ。車上焼香システムの導入と今
2017年の年末、長野県上田市に「車上焼香システム」を導入した葬儀場が開館し、大きな話題となりました。読んで字の如く、故人とのお別れをクルマの中から行う、という画期的なシステム。当時もメディアやネットで多くの意見が飛び交い、かなりインパクトのあるニュースだったと記憶する人も多いでしょう。導入から一年を経て、利用状況や利用者の反応はどういったものだったのでしょうか。
故人とのお別れに壁を作らないために
導入したのは、長野県上田市を中心に冠婚葬祭業を営む「レクスト・アイ」。2017年12月17日に市内に新しく竣工した「上田南愛昇殿」に設けました。
導入に至った経緯は、当時の社長・荻原政雄さんが長年問題視していた葬儀参列の「障壁」でした。それはお年寄りや身体の不自由な人が、葬儀に参列した場合、時間も労力もかかってしまうことで、周囲にも気を遣わせてしまうため、結果、参列自体を諦めてしまう人がとても多いという事実。この事実を踏まえ、萩原社長は関係者と何度も協議を重ね、この車上焼香システムを導入しました。誰だって、親しい人が亡くなったら、ちゃんとお別れしたいと思うもの。このシステムとは、「立ち上がったり、座ったりといった動きが思うようにならない」といった自分の状態と、「お世話になった故人にちゃんとお別れを言いたい」という胸の内に折り合いをつけ、見送る人の心に寄り添った設備なのです。
車上焼香システムのおさらい
では、「車上焼香システム」とはどのような流れで行われるのでしょうか。これがとてもシステマチックなのです。
1.施設内の専用レーンに進む。
2.祭壇の遺影が見える位置に置かれた受付台(カウンター)で停車。
3.タブレット端末や帳簿に記帳。香典を渡し、返礼品の授受。
4.電熱式の香炉にて焼香。この時、式場内の親族や参列者には誰が来たかモニターでわかる仕組み。
「喪服を着用しなければ……」という、慣例に縛られることもなく、純粋な気持ちで故人とお別れすることができるのです。これは、これから超高齢化社会を迎える日本にとって、とても理にかなった会葬のスタイルなのかもしれません。
導入から1年、利用状況も順調
上田南愛昇殿では、2018年の一年間でおよそ80件の葬儀が執り行われ、そのうち車上焼香システムを利用したクルマは30台ほど。「不謹慎」といった声がご遺族から上がることもなく、皆さん、車上焼香でも会葬に来てくださったことに感謝し、施設側に対しても好意的なコメントを寄せているのだそうです。レクスト・アイでは、今後新規に会館を建てる際には、積極的に車上焼香システムを導入していく、とのこと。このシステムを利用することで、高齢者などだけでなく、子育て中のママも周囲を気にすることなく、子連れでの参列も可能に。多忙のため参列の準備に十分な時間を取れないビジネスマンも、ビジネススーツのままで故人にお別れができます。「最後のお別れに来られないことは心残りになりますし、亡くなられた方やご遺族にとっては、葬儀に来てもらえることが一番の供養になると思います」とレクスト・アイ担当者。
慣例や形にこだわるのではなく、純粋に故人を見送りたいという気持ちを反映したシステム。何にしろ、今までにない新しい取り組みというのは、驚きや反発が生まれるのも世の常。車上焼香システムは、これからの時代に見合った形として、地方都市を中心に全国に広がっていく予感です。
<取材協力>
▼レクスト・アイ
URL:http://lext-ai.com/
(取材・文:別役ちひろ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)
[ガズー編集部]
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