「クマ渋滞」に「ロードキル」……動物との共存について考える「野生生物と交通」研究発表会

道路への動物の飛び出しや鳥類の飛行機への衝突などによる事故……人間の生活、特に交通に関わる部分での野生生物との問題はここしばらく増える一方です。それらの問題についての情報交換の場が2002年より継続して札幌で開かれています。今回、18回目を迎えた「野生生物と交通」研究発表会についてレポートします。

環境分野と土木分野の接点をつくる

第18回「野生生物と交通」研究発表会は2月19日、札幌市民交流プラザクリエイティブスタジオにて行われました。2000年前後から問題視され始めた野生動物と交通の関わりについての研究・知識・情報交換の場として2002年からスタートしました。この問題は環境、土木と多くの分野に渡るものでありながら、なかなか関わりを持つことが少なかったため、それらの分野の接点をつくり、さらに広く一般に知らせたいという目的で始まりました。

これまでも、エゾシカやツシマヤマネコ、シマフクロウなどの動物の交通事故であるロードキル、自動車道路の緑化対策、サンショウウオの生育環境を守るための取り組みについてなど、広範囲に渡り、自然環境と人間側の交通との共存、安全を守るための研究発表が行われてきました。

特別講演では観光客を要因とするクマ渋滞の悩みが

研究発表に先立ち行われたのは、公益財団法人知床財団の石名坂豪さんによる特別講演「~Bear JamからMaaSへ~知床におけるクマ渋滞とその解決に向けた取り組み、そして将来展望」です。

世界遺産である知床半島に訪れる人たちが、道路近くに出てきた野生のクマを見るために路上駐車し、クルマを降りてしまうことで起きる渋滞、Bear Jam=クマ渋滞。クマに襲われる危険と隣り合わせのクマ渋滞を解消するための取り組みの様子について語られました。

「サファリパークでクルマを降りる人はいないのに」という言葉に、苦労の実感がにじみでていました。

10の団体による各地での研究と取り組み

メインの発表は「ロードキル」、「ロードキル対策」、「保全・緑化」の3つの分科会に分けて行われました。

第1分科会「ロードキル」 積雪とロードキルに関係が……!?

ここ数年の観光客の激増と、動物たちがいることを意識していない運転により、石垣島で多発しているシロハラクイナ、ヤエヤマイシガメ、サキシママダラなどのロードキルとその対策についてや、富士山の環境保全活動団体「富士山アウトドアミュージアム」による、周辺住民を巻き込んだ富士山麓でのロードキルの被害状況の5年間の収集のほか、北海道での春期のエゾシカロードキルと積雪との関係が取り上げられていました。

エゾシカによる事故は、生息地の大移動が行われる春と秋に多くなるとのこと。特に春は積雪の状況により移動する時期に影響が出ると考えられるのだそうです。各地で、どのくらいの雪の量で、いつから雪融けが始まるかのデータとロードキルの発生状況を照らし合わせて、積雪と事故の関連性を考察していました。

第2分科会「ロードキル対策」

こちらの分科会では、ロードキルの対策について考察していました。数種の超音波や枯れ草を踏む音を、超指向性スピーカーでクルマから発生させることで、エゾシカを止まらせ、事故を防ぐことに繋げるための実験や、新しく開通した新東名高速道路静岡県区間においての動物侵入防止対策の内容についてなど、専門的かつ緻密な努力が感じられる対策が話し合われていました。

第3分科会「保全・緑化」

ロードキルなどで動物が亡くなると、そのまま処分されるのかと思いきや、きちんと解剖も行われているようです。「自治体庁舎前路上および橋梁直下放牧場等の死体剖検事例」では、酪農学園大学野生動物医学センターに持ち込まれた野生動物の死体剖検3事例をもとに、日本では立ち遅れている獣法医学(法医学、獣医学、病理学などの融合した分野)の早急な仕組みづくりを訴えていました。

そのほかにも、道路脇の斜めの土地(のり面)の緑化植物のエゾシカによる食害が深刻となっているといった問題に対する方策についてや、恵山つつじ公園で発生しているツツジ類へのエゾシカによる食害などについても発表されていました。動物と道路の緑化に関わりがあるとは、普段気づかないポイントです。

ロードキル対策は地球全体の課題

また、一般社団法人 北海道開発技術センターの野呂美紗子さんより、2018年9月にオランダで行われたInfra Eco Network Europe(以下、IENE)国際会議の参加報告も行われました。

IENEは交通と自然の調和を目指す世界的な専門家のネットワークです。2年に一度世界会議が開催され、今回は38ヶ国、323人が参加、日本からは4人が参加されたとのこと。4日間に渡り、各国の取り組みの発表や、実際にオランダとベルギーの国境付近にある巨大な動物たちの通り道であるエコダクトの視察などが行われたそうです。

「野生生物と交通」研究発表会に参加し、野生生物と人間の生活との間の問題は、日本全国のみならず、世界中の課題であるというのを改めて認識しました。また、今回特に印象に残ったのは、オーバーツーリズムの問題です。地域としては、多くの観光客に足を運んでほしいというのは切実な思いでしょう。しかし、無謀な運転やルール違反によって、失われる命が増えたり、人間も危険な目に遭ってしまうのは不本意なことです。人間側としても、ルールに従って、自分自身はもちろん、動物たちや自然も守ることを意識できるといいのではないでしょうか。

(取材・文・写真:わたなべひろみ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)

<取材協力>
▼「野生生物と交通」研究発表会 事務局
URL:http://www.wildlife-traffic.jp/

<参考>
▼IENE2018
URL:https://www.iene2018.info/

[ガズー編集部]

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