シートベルトの画期的リユース! 山形・酒田の海で海藻を再現
クルマの必須装備・シートベルト。言うまでもなく、ドライバーを始め、同乗者の命を守るもので、走行中の車内では、運転席・助手席はもちろん、後部座席も着用が義務付けられています。そんな人命を守るシートベルトが、なんと北の海で海の生物を守るという第二の人生を迎えています。
循環型の海洋環境を目指した活動
山形県酒田市で活動する「みなと研究会」は、山形県の海岸や港などで、自然と共生する海岸保全、海洋生物の保護などを行うNPO法人。代表の守屋元志さんによると、海洋生物、特にハタハタの保全活動に力を入れているそう。「日本は海に囲まれた島国。海からの資源が必要となります。これからはその資源をただ獲るだけではなく、育てながら獲る、という循環型にしていかなくてはならないとこの活動を始めました」。日本海に面する酒田の海は、遠浅で岩場が少なく砂地。入り江がなく沖に出て何かを育てる、というのは難しい環境であるそうです。しかし日本海の冬の恵み「ハタハタ」が多く遡上し、沿岸の藻場に卵を産み付けることから、このハタハタを始めとした海洋生物の保全を目的に沿岸域に藻場を増やす活動が始められました。
その活動はユニークで、総合学習として子どもたちの自由な発想を募集して、あらゆるものをハタハタの産卵藻場として、海に設置する実験が行われたこともありました。「いやぁ、コウモリ傘の骨やハンガーなど、驚くものが多く集まりましたね。でも実際に設置してみると、コウモリ傘の骨に(ハタハタの)卵がいっぱい産み付けられて驚きでした」(守屋さん)。
「なんとか利用できないか」からはじまったシートベルト海藻
シートベルトがこの海の保全活動で使えないものか、と試行錯誤が始まったのは2014〜15年のこと。きっかけは、「山形県自動車販売店リサイクルセンター」からの打診。車体の多くのパーツがリサイクルされますが、バンパーなどに使われるFRPやエアバック、そしてシートベルトのリサイクルがうまく活用できないという報告があり、なんとかならないか、という相談でした。「シートベルトは命を守るもの。当然材質もとても良く、特に日本製は頑丈です。そこでハタハタの産卵場所として海藻に見立ててはどうか、と考えました」(守屋さん)。それまでバッティングセンターのネットを産卵場所として成功していましたが、2016年、試しに50本ほどのシートベルトを1本ずつ捻ってロープに渡し、海藻に見立て海に設置したところ、産卵が確認されたそうです。
2017年には、200本のシートベルトを1基として、2基設置。すると、なんと岩ガキの稚貝がどのシートベルトにも20個以上自然増殖し、5cm〜6cmまで成長が確認され、また海藻のアカモクも付着していたそうです。
画期的な事例が出たシートベルト海藻。守屋さんは「私たちは海の生き物が何に興味を示すか試行錯誤しながら行なっていること。一つ結果が出たので、この先も続けていきたい」と。
人命を守ってきたシートベルトが、時を経て、今度は海洋生物の生態のサポートに回る。別の形で命の手助けをするタスキに変化する。「不要」となったものに新たな命と役割が生まれる。このシートベルト海藻が、この先もあらゆる海洋生物の住処や産卵場所として活用され、環境保全の推進に寄与することが期待されます。
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