三重県の南部自動車学校。人気の“ほめて伸ばす”教習の背景とは?
ドライバーならば誰もが通ったことのある自動車教習所が、近年は減少傾向にあるという。警察発表の「運転免許統計」をさかのぼると、平成4(1992)年に1535箇所あった指定自動車教習所は、平成30(2018)年の時点で1321箇所まで減少。ピーク時はちょうどスバル・インプレッサなどが登場した時期で、おそらく多くの人たちがクルマの“楽しさ”を一日でも早く味わいたいと、足繁く教習所へ通っていたのかもしれない。
さらに統計をみると、同期間での教習所からの卒業者数も255万485人から152万9334人と大幅に減少しており、背景には少子高齢化などがあると考えられる。しかし、経営難もささやかれる中、人気を博している教習所がある。三重県伊勢市にある、南部自動車学校だ。
- 三重県伊勢市の南部自動車学校。「ほめちぎる教習所」として人気を集めている
教官に叱りつけられて怖い……。南部自動車学校は、そんな教習所のイメージを覆し“ほめちぎる”教育方針で注目されている。なぜ、今の時代に従来の指導を見直したのか。代表の加藤光一さんに、お話を伺った。
時代の変化とともに就職や資格のために免許を取る人たちが増えた
南部自動車学校が“ほめちぎる”指導を始めたのは、平成25(2013)年2月1日。背景には、教習所に対するニーズの変化があったと加藤さんは話す。
「大きかったのはやはり『若者のクルマ離れ』でした。かつては運転自体を楽しむ若者が多かった印象でしたが、入校のきっかけをみると、時代が変わるにつれて『就職のため』『資格のため』という声が目立つようになっていったんです。それに伴い教習生のモチベーション低下もあったのか、指導員からも『教えづらくなっている』という意見が上がってくるようになり、方針の転換を図りました」(加藤さん)
- 南部自動車学校の代表・加藤光一さん。著書『「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方』(KADOKAWA)やセミナーなどを通して“ほめて伸ばす”教育のメソッドを広く伝えている
今年で57歳を迎える加藤さんは「自分が若い頃は『早く運転したくて仕方がない』という仲間がたくさんいた」という。しかし、時代が変わるのも必然。ニーズの変化に伴い、教習所の差別化を考えた先でたどり着いたのが“ほめちぎる”指導だった。
「私の若い頃から、教習所では『教官が偉そう』とか『叱られる場所』というイメージがあったんですよ。ただ、ニーズの変化に伴いもうひとつ大切だったのは“現代は親世代が教習生のお金を払っている”という視点でした。少子高齢化に伴い入校者数も減少する中では、何を謳うかで教習所自体も差別化をしなければなりません。そこで、指導員たちと話し合いながら出たひとつのアイデアが『ほめて伸ばす』という教育方針でした」(加藤さん)
芯にあるのは「みずから成長しよう」というモチベーションの向上
開始当初は、地域から「命を預かる教習所で“ほめてばかり”というのは大丈夫なのか?」という意見もあったと話す加藤さん。しかし、結果は数字として表れたという。
「本当に“ほめて伸ばす”の成果が出るのかは、私たちにとっても未知数でした。そこで始めの3年間は、試験期間としてデータを取ろうと決めたんです。すると、卒業生の満足度が90%から95%へ上昇して、教習所を出てからの免許センターでの合格率も82%から86%に上がりました。また、卒業後の事故率も1.76%から0.79%へと減少したんです」(加藤さん)
- 教習中の様子。ほめちぎる指導方針により、実際の教習では笑顔もたえない
数十年にわたる指導方針を変えるのは「口には出さないだけで、本当は反対していたのではないか」と、指導員たちの気持ちを汲む加藤さん。もっとも訴えたいのは「運転の楽しさ」を教えることだという。
「卒業時には別れを惜しみ涙を流してくれる子たちもいますが、私たちが一番に考えているのは、ほめることで生徒に『みずから成長しよう』というモチベーションを上げてもらうことです。本来、教習所は免許を取ってしまえば戻ってくることのない場所。でも、わずかながらに人生の貴重な時間を過ごしてもらうからには『学んだことを記憶に残してほしい』という思いもあります」(加藤さん)
現在、教習生の獲得に悩む教習所からは「価格競争などで苦しんでいる」という声も聞かれると話す加藤さん。南部自動車学校では、教習所や他業種へ自分たちのメソッドを伝えるコンサルティングも行っているが、広く“教育”の現場に「私たちの持つ“ほめて伸ばす”というノウハウをもっと提供していきたい」と展望も明かしてくれた。
(取材・文:カネコシュウヘイ 写真:南部自動車学校 編集:木谷宗義+ノオト)
<関連リンク>
南部自動車学校
http://www.safety-nanbu.com/
[ガズー編集部]
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