ドラレコとはどう違う? 交通事故の瞬間をバックアップする「イベント・データ・レコーダー(EDR)」
昨今、痛ましい交通事故が後を絶ちません。再発防止のためにも事故の原因究明は急務ですが、その実情を知るのは、意外に難しいものです。
信号など周辺の状況はどうだったのか、ドライバーはどのような操作を行っていたのか、衝突した後にクルマはどのように動いたのか。そういった事故の原因を理解するための事実を当事者の証言だけで揃えるのは困難です。当事者は、事故による精神的ショックや頭部の打撲、その他さまざまな要因で記憶があいまいになっている場合が多いためです。
- 現在販売されているクルマのほとんどにはエアバッグのコンピューター内に事故の瞬間を記録するEDR機能が備わる。
ドラレコにはない情報を記録する「イベント・データ・レコーダー」
そこで注目されるのがドライブ・レコーダーという動画カメラですが、これは万能ではありません。信号などの状況はわかりますが、実際のスピードやぶつかった衝撃の大きさ、アクセルやブレーキといった運転操作までは記録されていないのです。
でも、心配する必要はありません。実は、そんな情報不足を補ってくれる機能が、多くのクルマには装備されています。それが「イベント・データ・レコーダー(EDR)」なのです。
イベント・データ・レコーダーは、多くの場合、エアバッグのコンピューターに備えられており、万一の交通事故のとき、衝撃を受けた瞬間のクルマの状況を記録します。アメリカの場合、記録を誰もが利用できるようにという規格が法律で定められており、すでに2017年の時点で新車販売の99.3%のクルマにイベント・データ・レコーダーが搭載されているのです。また、トヨタでも2000年ごろには、すでに同機能を搭載したクルマの販売がスタートしていました。
世界を見渡せば、米国がいち早く2012年に基準を法規化、韓国はアメリカ同様の基準を2016年に法規化。中国でも2021年より搭載が義務化され、欧州やドイツも義務化が近いと言われています。つまり、イベント・データ・レコーダーはすでに20年近い歴史を持っており、世界的にも普及しつつある機能なのです。
記録するのは、事故の瞬間のさまざまな情報
また、2000年代のものは、事故の瞬間(タイム・ゼロと呼びます)から後だけを記録していましたが、最新は事故の瞬間の前の5秒間から事故後の2秒、つまり最長7秒ほどを記録するようになっています。
そして記録する情報は、車両速度にはじまり、アクセル操作、エンジンスロットルの開度、エンジン回転数、ブレーキペダルの操作、ブレーキオイル圧力、加速度、ヨーレイトなど多岐にわたります。
最新モデルでは、50項目のデータを0.08秒ごとに記録する機能を備えるクルマも存在。また、事故(イベント)の記録回数は、アメリカの法規で最低2回と定められていますが、最新世代のトヨタ車は10回。EDR対応全メーカー中、トヨタが最も数多い記録を可能としています。
ちなみにイベント・データ・レコーダーは、クルマのオーナーのプライバシーを考慮して、映像および音声データ、事故の時刻と場所(GPSデータ)は記録されていません。ただし、将来的に通信機器が搭載された車両(コネクテッドカー)が普及したときは、事故の時刻と場所が記録されるようになる可能性はあります。
EDRがあれば多重事故も詳細にわかる
実際に事故にあった場合、「イベント・データ・レコーダー(EDR)」の情報から、どんなことがわかるのでしょうか?
最近、注目されている「アクセルとブレーキの踏み間違い事故」で言えば、EDRのデータから客観的に、事故の時のドライバーの操作やどれくらいの速度で衝突したのかもわかります。また、複数台が関わる「玉突き事故」では、ぶつかった順番や、そのときの速度などもわかるのです。
重要なのは、公平で透明性の高いデータとして残ること。事故当時者の思い違いや、ウソが入る余地がないのです。そのためアメリカだけでなく、日本でも司法や保険、自動車メーカーなどが、イベント・データ・レコーダーを活用するようになっています。
EDRのデータを活用するのが「クラッシュ・データ・リトリーバル」
イベント・データ・レコーダーは非常に便利なものですが、その機械やソフトウェアは、どこか一社に独占されているものではありません。基準が定められているとはいえ、自動車メーカーやサプライヤーによって、データが一様ではないのです。
そのため、通常イベント・データ・レコーダーの解析は、その機器を開発したメーカーが行うことになります。しかし、それでは不便だということで、汎用的なデータの読み取り機器が求められました。そこで登場したのが、ボッシュの「クラッシュ・データ・リトリーバル(CDR)」です。
- EDRのデータを読み取ることができるボッシュのCDR
それら活動は2000年頃に始まりましたが、自動車部品の世界的なビック・サプライヤーであるボッシュはCDRの社会的役割を重要と考え、普及をすすめ、アメリカ市場での乗用車新車販売の90%以上に対応と、業界の標準ツールとして活用されています。
- エアバッグのコンピューターにボッシュのCDRを接続したところ。
ちなみにクラッシュ・データ・リトリーバルで読みだした事故データは、裁判に利用される可能性もあるので、素人判断で利用できるものではありません。専門の知識と訓練を受けた人間が分析して、
ようやく利用できるものになります。
その専門家が「CDRアナリスト」で、ボッシュが用意したトレーニングを受けて合格した者だけがなれるイベント・データ・レコーダーのスペシャリストです。日本では、90名ほどしか存在しておらず、年間150万件といわれる交通事故の分析に飛び回っているとか。
もしも交通事故に遭遇したときは、イベント・データ・レコーダーとクラッシュ・データ・リトリーバルを思い出しましょう。必要なときはイベント・データ・レコーダーの分析をCDRアナリストに依頼することも可能です。
- CDRを説明するオートモーティブ・アフターマーケット事業部テクニカルサービス&サポート部の里 廉太郎さん。
(取材・文・写真:鈴木ケンイチ 編集:ミノシマナオコ+ノオト 取材協力:ボッシュ)
<関連リンク>
ボッシュ
https://corporate.bosch.co.jp/
ニュースリリース ボッシュ
https://corporate.bosch.co.jp/news-and-stories/apcj-2018/apcj-2018-aa-01/
[ガズー編集部]
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