アンガーマネジメントで感情をコントロール! あおり運転事故を防ぐ
2017年東名高速道路で起きた死亡事故により、重大な社会問題としてクローズアップされた「あおり運転」。最近では、常磐自動車道でのあおり運転及び暴行が話題になりました。あおり運転の原因は、運転中のイライラや焦りなどのストレスだと言われています。そこで注目していただきたいのがアンガーマネジメントです。
今回は「あおり運転(ロードレイジ)撲滅プロジェクト」を展開する一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 代表理事 安藤俊介さんにお話を聞きました。
アンガーマネジメントは怒りの感情をコントロールする技術
――まずは、アンガーマネジメントとはどのようなものか、教えてください。
アンガーマネジメントは自分の「怒りの感情」を知り、コントロールする技術です。それによって、よりよい人間関係を構築したり、普段の生活にストレスを感じないようにしたりすることを可能にするというものです。
- 一般社団法人日本アンガーマネジメント協会 代表理事 安藤俊介さん
――怒りをなくすわけではないのですか?
怒りをゼロにすることがアンガーマネジメントではありません。
もともと怒りは人間に生まれつき備わった必要な感情です。ですから、怒りをダメなもの、必要のないものとは思わないでください。怒ること自体は構わない。怒る必要があることに対しては怒って、それを相手に上手に伝える。怒る必要のないことには怒らなくて済むようにする。その線引きができるようになりましょうということなのです。
――あまり感情的に怒ることがなく、その代わり「自分が悪いのでは」と自分を責めるというタイプの人もいるかと思うのですが。
それも怒りの感情の1つです。他人に向けて「わーっ!」とぶつけるだけが怒りではないのです。英語ではOverwhelmedというのですが、怒りの感情を自分に向け、攻撃しているわけです。そうして自分の中に怒りをためてしまうのですね。そういうタイプの人は、何かのきっかけでたまった怒りを爆発させてしまうかもしれないし、ため込んだ怒りがストレスとなって心身の不調をきたしてしまうかもしれません。
アンガーマネジメントは「怒りの感情で後悔しないこと」を目指すものです。いろいろなパターンの怒りの感情を上手くコントロールしていくために、反復練習をして身につけていく技術なのです。
アメリカでの社会問題化はスピルバーグ監督のデビュー作がきっかけ
――クルマの運転とアンガーマネジメントは、どのように関わってくるのでしょうか。
まず、クルマの運転時の攻撃的な行為を「ロードレイジ」と呼びます。あおり運転のような危険運転はもちろんですが、運転しているときに他のクルマにイライラして舌打ちをしたり、悪態をついたりする行為も含まれます。
アメリカでロードレイジが初めて社会問題とされたのは1970年代で、きっかけはスティーブン・スピルバーグ監督のデビュー作で、ロードレイジをモチーフとした『激突!』が公開されたことからでした。顔が見えず誰が運転しているのかわからないトラックが、ただただ怒りに満ちて追いかけてくる恐怖感。映画が大ヒットしたことにより、それまで見過ごされていた運転する上での攻撃的な面が意識されるきっかけとなったのです。
そして、同じく1970年代にDVやマイノリティのメンタルヘルスプログラムから発展してアンガーマネジメントが生まれたアメリカでは、クルマの運転と怒りの感情は密接に関係していると考えられるようになりました。実際、司法の現場でもアンガーマネジメントが活かされています。アメリカでは罪を犯すと罰金が課されることや保護観察の実施とともに矯正教育が施されますが、スピード違反などのクルマに関するトラブルの場合は、アンガーマネジメント命令が出るケースがとても多いのです。
――運転の場面では、アンガーマネジメントをどのように活かすとよいのでしょう。
運転をしていて、怒ったり、イライラしたりすることはどうしてもあるでしょう。でも、その怒りに支配された状態で反射的に行動を起こさないようにする。まずは6秒待つことです。
- アンガーマネジメントはゲームなどわかりやすい形でも伝えられる
――なぜ6秒なのですか?
諸説あるのですが、私たちは、怒りの感情が発生したらそのままというわけではなく、次第に理性が介入してきて、それにより理性的に行動できるようになるのです。怒りから理性が介入するまでの時間が多くの人は6秒なのです。ですから、怒りが消えるわけではありませんが、理性的に行動できるまでの時間を6秒と考えています。
その6秒のために、クルマの中に家族の写真を置くとか、深呼吸をする、自分を落ち着かせるための言葉を用意するなどのテクニックをお伝えしています。
東名高速道路での悲劇を二度と起こさないために
――日本アンガーマネジメント協会として「あおり運転(ロードレイジ)撲滅プロジェクト」を始められたきっかけは、東名高速道路での事故がきっかけと伺っています。
はい。2017年6月に東名高速道路の追い越し車線であおり運転による進路妨害を繰り返され、無理やり停車させられたところを後方から来た大型トラックに追突され、運転していた夫婦が死亡するという悲惨な事故が起こりました。それまでも、あおり運転などの危険運転、ロードレイジはあったのです。でも、「たちの悪いやつに絡まれた」、「たまたま運が悪かった」といった感じに見過ごされていました。東名高速の事故から、ロードレイジが非常に危険な行為であると意識が変わってきたのです。実際にその後、あおり運転などの警察の検挙率は増えています。
ただ、警察が検挙できるのはごく一部だけです。クルマを運転する人全てが加害者にも被害者にもならないために、一人ひとりの意識を変えていく必要があります。そこで、2018年1月より「ロードレイジ撲滅プロジェクト」をスタートさせました。
ロードレイジとはどんなものか、ロードレイジを防ぐために気を付けること、怒りの感情と上手に付き合うためのアンガーマネジメントのヒントなどを記載したブックレットやマグネットステッカーの配布により、ロードレイジを防ごうという意識を広めていくための活動です。より多くの人を巻き込んでいきたいという思いからクラウドファンディングも実施しました。春・秋の全国交通安全運動の際には、東名高速道路のSAで啓発グッズの配布などを行い、2018年12月中旬からは改めて「新・あおり運転(ロードレイジ)撲滅プロジェクト」として活動を続けています。
――ドライバーの反応はいかがでしたか?
真っ先にステッカーを手にしてくれたのは、トラックの運転手の方などでした。以前は、あおり運転はトラックなどの商業車から一般のクルマへというケースが多かったのですが、最近は逆にトラックが攻撃されることが多いのです。今、ほとんどのトラックにはドライバーの名前が車体に表示されています。対して一般のクルマはナンバーで個人を特定することが難しい。その個人の匿名性により攻撃の対象が逆転しているようです。
ロードレイジ・あおり運転ゼロを目指して
――活動の広がりの実感はありますか?
愛知県警から働きかけがあり、全国で初めて愛知県警高速隊がアンガーマネジメント研修を導入、2019年2月に研修を行いました。最前線で啓発や指導を行う高速隊の隊員がロードレイジをしてしまう当事者の心の動きを知り、アンガーマネジメントを活かすことで説得力を高める目的のためです。
また、2019年5月には、岡山トヨペット株式会社様との共同プロジェクトとして「STOP ROAD RAGE(ストップロードレイジ)」の啓発PR動画を発表しました。
さらに現在、啓発グッズに使用しているキャラクター「あおり運転とめるくん」とあおり運転を防ぐためのチラシをフリー素材として提供しています。どなたでもダウンロードして使っていただけるようにしていますので、これらを利用いただいている企業様も多くあります。
本当に、ロードレイジ・あおり運転を世の中からなくしてしまいたい。そのために今後も多くの企業様や行政と組んで、全国的に「あおり運転撲滅プロジェクト」を広げていきたいと思っています。研修や講習も要請があれば伺いますのでぜひお声がけください。
クルマの運転中、ちょっとでもイライラすることは誰しも経験があるのではないでしょうか。それが取り返しのつかない大きな事故に繋がる危険性をはらんでいるのです。アンガーマネジメントのコツを取り入れて、自分も他人も守る運転を心がけましょう。
(取材・文:わたなべひろみ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)
<取材協力>
一般社団法人日本アンガーマネジメント協会
https://www.angermanagement.co.jp/
[ガズー編集部]
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