お酒入り食べ物は大丈夫? 飲酒運転の境界線を専門家に直撃取材!

あおり運転と合わせて、危険な運転として認識されている「飲酒運転」。現在はアルコール濃度によっては一発で免許取り消しになるなど法律の厳格化も進んでいます。

でも、世の中にはアルコールを含んだ食品が数多く存在します。一般的に、アルコールを含んだ食品は、パッケージ上に「本製品はアルコールを含んでいます。お子様や運転される方はご遠慮ください」といった注意書きがあるもの。

では、これらをほんの少し摂取するだけでも「飲酒状態」と判断されてしまうものなのでしょうか。また「飲んでもちょっと休めば抜けるのでは?」といった解釈は、本当に正しいのでしょうか。

そこで、飲酒運転の危険性やアルコール濃度の境界線について、交通事故総合分析センターの西田泰さんにお話を伺いました。

まずは、酒気帯び運転の基準を確認!

酒気帯び運転の定義は「呼気1リットル中のアルコール濃度0.15 mg/L以上0.25 mg/L未満」からです。「呼気1リットル中のアルコール濃度0.25 mg/L以上」になれば、一発で免許は取り消しとなります。

今回気になるのは、お酒ではなく、アルコールを含んだ食品です。これらを摂取した場合、どの程度、呼気アルコール計測に影響があるのでしょうか。筆者自身が実際に摂取し、計測してみました。

今回チェックするのは以下の食品です。

・アルコールを含んだチョコレート(アルコール度数3.6%のラム酒パウダーを使用)1粒
・薬用酒(黄帝酒/アルコール度数14度以上15度未満)1杯15ml
・ノンアルコールビール(ノンアルコール)1本350ml
・純米酒の酒粕(アルコール度数不明)25g/150mlのお湯にとかして摂取

「ノンアルコールビールも?」と思われる方もいると思いますが、日本ではアルコール分が0.05%以下ならアルコールがほぼ含まれないと判断され「Alc. 0.00%」「ノンアルコール」と表記できます。つまり、微量のアルコールを含んでいる可能性があるのです。

自宅で呼気アルコール濃度を測定してみた

アルコールを含むとされる食品を食べた後、呼気アルコール計測をしたら、どのような結果になるのでしょうか。

まずはチョコレート(1包分)からチェックを開始!

口いっぱいに広がるラム酒の風味と甘さを堪能したところで数値を測ると、なんと「0.5mg/L」! 「呼気1リットル中のアルコール濃度0.15 mg/L以上」で酒気帯び運転なのでアウトです……が、ちょっと待ってください。

この結果は口の中に残ったアルコール分が原因なのです。通常、飲酒運転チェックの際は、お酒以外でのアルコールが口腔内に残っているリスクを考え、検査前のうがいが必須とされています。

うがいで口腔内を流してから再度計測した結果、数値は0.05 mg/Lに変わり、その後0.00 mg/Lに低下していました。

今回用意した他の商品についても、同じ結果でした。
(左:摂取直後→右:摂取後うがいをして再計測)

・薬用種(黄帝酒)1杯10ml:0.5mg/L→0.00 mg/L
・ノンアルコールビール1本1ml:0.00 mg/L→0.00 mg/L
・純米酒の酒粕25g(150mlのお湯にとかして摂取1杯摂取):0.00 mg/L→0.00 mg/L

自宅の計測ではアルコールが検出されませんでしたが、摂取量を変えたり、同時にほかのアルコールを含んだ食品を摂取したりすると、結果が変わってくる可能性があります。

とはいえ、呼気アルコール濃度の検査結果が0.00mg/Lなら、本当に運転しても安全なのでしょうか? より安全な運転を確保するためにも、専門家の意見を聞いてみましょう。

数値だけじゃない! アルコールの危険性

今回お話を伺った交通事故総合分析センターは、交通事故防止と交通事故時の被害軽減を目的に、「人」「道」「クルマ」の三要素から、交通事故に関する総合的・科学的な調査研究をおこなう機関です。

まずは、お酒をどのくらい飲んだら、酔っぱらった状態になるのでしょうか。

「酒気帯び運転などで定義されている血中アルコール濃度は、以下の公式で求めることができます。ちなみに警察のアルコールチェックでは吸気によるチェックですが、吸気濃度は以下のように血中アルコール濃度に置きかえることが可能です」(西田さん/以下同)

<血中アルコール濃度の求め方>
摂取アルコール量/体重×配分率(男性0.7)×アルコールの欠損(0.7~0.8)- 濃度減少率(毎時0.12~0.19M/P)

<呼気中アルコールと血中アルコールの置き換え数値(例)>
吸気中アルコール濃度0.15→血中アルコール濃度0.03%
吸気中アルコール濃度0.25→血中アルコール濃度0.05%

こちらは「上野式算定法」という求め方で、他にも「ウィドマーク式」などがあります。これらは裁判などでも用いられる計算方法なのだそう。

「この計算式に当てはめると、アルコールを含む食品を食べたとしても、酒気帯び運転といわれるレベルになりづらいことがわかります。しかしこれはあくまでも『理論上の結果』です。アルコールを含んだ食品を食べる場合は注意が必要です」

いくら検査でひっかからないとはいえ、アルコールをあまく見てはいけません。西田さんは、飲酒運転のリスクは“酔うこと”以外にもあると教えてくれました。

「例えばワインの試飲(約15ml)などは、1杯だけなら酒気帯び運転の範囲に到達することは理論的には考えにくいです。しかし1杯飲むことで気持ちが大きくなり、規範意識が崩れて『もう1杯』と止まらなくなると問題です」

また、万が一事故などを起こしても、「お酒を飲んでいるから」と、適切な対処ができない人もいると言います。

「事故を起こしても飲酒の発覚をおそれて逃げてしまった結果、助かる命を助けられないといった大事故に発展することも。これは、最も避けなくてはいけない問題だと思います」

どんな形であれアルコールを摂取した結果、通常取れるはずの行動が取れないという「人間の弱さ」が何よりも問題だとわかります。だからこそ「飲んだら乗るな」。キッパリ運転とお酒は決別した行動を取るべきなのです。

巷にはびこる悪しき“マイルール”たち。その真実は?

よくアルコール摂取をしたあと、人によっては「寝たらOK」「お風呂に入ったら抜ける」「俺は酒に強いから酔わない」といった、真偽怪しいマイルールを持っている方も見かけます。そこで、これらのルールの危険性についても教えてもらいました。

Q1. 「お酒に強いから、ちょっと飲んでも酔わない」は本当なのでしょうか?
→いいえ。そもそもお酒に強い/弱いという話と、血中アルコール濃度は関係ありません。

強い人は肝臓でのアルコールの処理が早い可能性はありますが、血中濃度には関係しないとのこと。「自分はお酒に強くて、意識がはっきりしているから大丈夫」という考えは、誤りと言えます。

話だけでは信じられない人は、被験者をお酒の強い人と弱い人に分けて行った、科警研交通安全研究室のデータを見てみてください。吸気中アルコール濃度を3段階にわけて、運転中(シミュレーション)の反応時間を計測しています。

出典:低濃度のアルコールが運転操作等に与える影響に関する調査研究(科警研交通安全研究室)
出典:低濃度のアルコールが運転操作等に与える影響に関する調査研究(科警研交通安全研究室)

「グラフを見てもらうとわかるのですが、お酒の『強い/弱い』の間に反応時間の差はありませんでした。お酒の強さと運転能力の変化は関係ないと言えます」

しかも呼気アルコール濃度が高くなるにつれ、酒の強さに関係なく、反応時間が伸びていることがわかります。「アルコール分を摂取する」ということだけで、立派なリスクなのですね。

Q2. 「お風呂に入るとアルコールが抜ける」というのは本当?
→いいえ、都市伝説でしょう。

お風呂に入ると体内の水分循環が早くなるため、吸気中アルコールが多少は減少する可能性があるそうです。とはいえ、酒が抜けるわけではないとのこと。

「血液に溶け込んだアルコールを分解するのは肝臓ですし、入浴などの温め行為によって肝臓機能が活性化するといったデータは見たことがありません。つまりこれも都市伝説的といえます」

Q3. アルコール摂取後、「寝ればリセットされる」というのは本当?
→「△」。時間をかければリセットされますが、飲酒量次第なので油断は禁物!

飲酒は確かに時間をかけることで、リセット=アルコールを代謝し、血中濃度を低下させることができるのだそうです。

「個人差や飲酒量にも関係があるのですが、以下のグラフに従うのならば、アルコール12%のワイン100mlが入ったグラス約4杯で4.5時間後に血中アルコール濃度が0.03%(吸気中アルコール濃度0.15%)まで低下したという結果があります」

「これを踏まえると、仮に4.5時間寝ていたとしても、人によっては早朝にお酒が残ってしまう場合があります。時間が経てば解消されるものとはいえ、『自分なら短時間で大丈夫』などと過信しないようにしましょう」

「お酒は飲んでも飲まれるな!」は、よく言われる基本の言葉ですよね。酒に飲まれているつもりはなくとも、事故をおこしたら、元も子もありません。飲酒に限らず、アルコールを含む可能性がある食品を摂取した際は、しっかり時間をあけて、アルコールが完全に抜けた状態で運転する。最低限のルールとして覚えておきたいですね。

(取材・文:おおしまりえ 編集:ミノシマタカコ+ノオト)

<取材協力>
公益社団法人 交通事故総合分析センター
https://www.itarda.or.jp/

[ガズー編集部]

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