ニトリが提案した動く訓練施設「モバイル・トレーニング・ユニット」とは?

まるでSF映画に出てくるロボットのような変形機構を持ち、住宅の部屋を再現するトラック、その名も「モバイル・トレーニング・ユニット」。

ニトリホールディングスの物流子会社の(株)ホームロジスティクスが運用するトラックです。このクルマ、どんな経緯で生まれ、どういった役割が期待されているのでしょうか? ホームロジスティクスの担当の方にお話を聞きました。

物流業の人材育成のために誕生

いま世間では、働き方改革によって労働環境が見直されると同時に、労働力不足が危惧されています。特に、重い荷物の上げ下げや搬入を行う物流業は離職率も高く、より問題が深刻のようです。そこで、人材の育成・確保を目的として考えられたのが、「移動型の納品訓練施設」という役割を持つモバイル・トレーニング・ユニットでした。

「私たちはこれまでも、神奈川県川崎市と大阪府茨木市の拠点に納品訓練施設を設置していました。しかし、全国のパートナー企業様から『もっと研修の機会を増やしてほしい』という要望があったため、我々の方から全国各地に向かう方式にしようと開発がスタートしました」

モバイル・トレーニング・ユニットは、2019年6月に完成。7月には運用を開始しています。物流業界では初となる本格的な納品訓練用車両で、日野自動車の大型トラック「プロフィア」をベースにしています。

「トラックのコンテナが上下左右に拡張する機構を持っております。コンテナ内には、リビングや子ども部屋、廊下などの再現が可能です。また、同車両の大きな特徴となっているのが、上にもコンテナが伸びるようになっていること。2階建て家屋を再現し、窓からの吊り上げ搬入の訓練もできます。冷暖房も完備され、どんな季節でも使うことができます」

配送員の定着率を上げたい

ホームロジスティクスの親会社であるニトリは、家具・インテリアの小売りだけではなく、製造も物流もすべて自社で行っています。その物流を受け持つのがホームロジスティクスで、現場で家具搬入を担当するドライバーを「セールスマン」、助手を「セールスアシスト」と呼び、ただ搬入するだけではなく、搬送・組み立てまでを担当します。

床や壁に傷をつけることなく搬入するなど、高度な作業をセールスポイントとしていますが、そこには当然、高い技術が要求されるものです。プレッシャーを感じて離職する人も少なくなかったことから、モバイル・トレーニング・ユニットにより訓練の機会を増やすことで、高度な技術を上げることができるのではと期待されています。

「搬入に必要な技術を、現場でのプレッシャーを感じることなく習得することに、この車両は役立ちます。搬入作業中の『家の壁を傷つけてしまうのではないか?』などのセールスマンの不安を解消させることで定着率の上昇にも繋げます。不安を抱えるセールスマンにとって、この車両を使った研修で技術を高めることは、仕事を続ける自信にも繋がるのではと期待されています」

全国各地の配送員が訓練できる

モバイル・トレーニング・ユニットは、主に全国のパートナー契約を結んでいる運送会社の利用をメインに活躍。すでに2019年7月からホームロジスティクスの社員が交代で全国の拠点をまわり、各地の配送員に指導をしています。訓練の様子はモニターで確認できるので、訓練後の座学もできるようになっているそうです。

「今までは全国約2000人のセールスマンに対して、年間約400人の納品訓練しかできませんでしたが、同車両の稼働後は、年間1000人の訓練が可能になりました。訓練施設がない遠方のスタッフにも納品訓練を実施することができるので、さらなるサービス向上に役立ちます」

家具を買うと当たり前のように配送や設置をしてもらうものですが、こうした技術向上のたゆまぬ努力があったのですね。そして、その裏で特殊な車両が活躍していることには、ただただ驚かされるばかりです。

(取材・文:斎藤雅道 写真:斎藤雅道 編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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