始まりは1981年のホンダ!カーナビの歴史:その1

自動車がマイカーとして普及し始めた頃、目的地へ行くには地図帳がその役割を果たしていました。初めての場所へ出掛けるときは、事前に地図帳でルートを確認したり、曲がるポイントもチェックしておいたりする必要がありました。助手席に座った人はドライバーの助手となり、ずっと地図帳とにらめっこしてナビゲーターとなっていたものです。

そんな時代に終止符を打ったのがカーナビゲーション(カーナビ)の登場でした。今回はそんなカーナビの歴史を紐解くにあたり、GPSを使う以前に登場した、いわゆる黎明期のカーナビについて解説します。

世界初の地図型カーナビはブラウン管に地図をセット

世界初の地図型自動車用ナビゲーションシステムが登場したのは、今から40年近く前の1981年のこと。それはホンダが開発した「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」です。当時は電子化した地図もなく、GPSも使えない時代でしたが、なんと「自動運転の実現を目指して開発」(開発者談)をスタートさせたのがこのカーナビだったのです。

ホンダが1981年に発売した世界初のカーナビ 「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」。当時の「アコード」とその兄弟車「ビガー」にオプションで用意された
ホンダが1981年に発売した世界初のカーナビ 「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」。当時の「アコード」とその兄弟車「ビガー」にオプションで用意された

さすがに自動運転の実現には至りませんでしたが、そのカーナビは、ディスプレイ上に現在地を表示させて地図上を走行できるという画期的なものでした。これが評価されて、2017年にはIEEEマイルストーン(アイトリプルイー マイルストーン)に認定されています。

その誘導方法は、とてもユニークなものでした。まず、地図は紙地図と同じものを透明のセルロイドに印刷し、それをブラウン管(液晶ではない)モニターの前に差し込んで使います。

エリアごとに用意されたセルロイド式地図。当時、地図帳で圧倒的シェアを持っていた昭文社が準備した
エリアごとに用意されたセルロイド式地図。当時、地図帳で圧倒的シェアを持っていた昭文社が準備した

使うに当たっての最初の“儀式”は、現在地を合わせることです。GPSがない時代ですから、自分で現在地を合わせることが必要でした。専用ペンを使って、セルロイドの地図にその位置を現在地としてマーキングします。その後は「ガスレートジャイロセンサー」を用いることでクルマの動きを自動的に検出し、現在地との位置関係を確認しながら目的地へと進んでいったのです。

特許の無償公開でデジタル化が進む

ただ、このセルロイドの地図は、エリアが変われば手動で差し替えなければいけません。その度にクルマを停止させなければならず、煩わしかったのはたしか。しかも、真っ直ぐ走っていても少しずつ地図上からずれていくという現象も発生します。

セルロイド式地図はエリアごとにホルダーに収納。必要に応じてここから引っ張り出して使用した。右下はマーキングするためのマーカーペン。三菱鉛筆が担当した
セルロイド式地図はエリアごとにホルダーに収納。必要に応じてここから引っ張り出して使用した。右下はマーキングするためのマーカーペン。三菱鉛筆が担当した

そのため、信号待ちをした際は交差点と地図を照らし合わせ、ここでセルロイド上の地図を動かしてズレを修正する必要がありました。“世界最初のカーナビ”はそんなアナログな方法で現在地を表示していたのです。

「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」の“生みの親”、本田技研工業株式会社基礎研究所で初代所長を務めた田上勝俊氏。2017年のIEEEマイルストーン受賞式で
「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」の“生みの親”、本田技研工業株式会社基礎研究所で初代所長を務めた田上勝俊氏。2017年のIEEEマイルストーン受賞式で

ホンダはこの経験から地図の電子化は必須と考えました。そこで考案されたのが、光ディスクに地図データを収録する方法で、ホンダはこの特許を取得。驚くべきことに、その特許技術を無料で公開しました。それは一刻も早い地図の電子化を進めたかったという、ホンダの強い思いがあったからなのです。

メモリに地図データを収録するようになった今では意味がなくなりましたが、カーナビの普及期は地図データをCDやDVDという光ディスクに収録する時代が長く続きました。まさにホンダが見せたこの対応が、今のカーナビに発展につながったことは間違いありません。

これを機に、カーナビはCD-ROMに地図データを収録する時代に入っていきます。

1980年代後半のクラウンやシーマが採用

1987年には、トヨタ「クラウン」がブラウン管モニター上に電子地図を表示する「エレクトロマルチビジョン」を搭載しました。

エレクトロマルチビジョンを搭載した8代目クラウン。1987年に発売された
エレクトロマルチビジョンを搭載した8代目クラウン。1987年に発売された

電子化によって、地図データを収録したCD-ROMをカーナビに挿入しておけば、エリアに制限されることなく連続利用が可能となったのです。ただ、測位には地磁気センサーと車速パルスを併用していましたが、ズレが頻繁に発生した上に、フェリーを使えば、着いた時点で現在地を補正する必要がありました。

インパネにあるモニターがエレクトロマルチビジョン。液晶ではなくブラウン管を採用していた
インパネにあるモニターがエレクトロマルチビジョン。液晶ではなくブラウン管を採用していた

1989年には、日産が「シーマ」に進行方向を上にして地図を表示する「マルチAVシステム」を搭載。地図は90度ごとに回転するタイプでしたが、進行方向が上になる“ヘディングアップ”の先駆けともいえる仕様が、初めて実用化されました。

こうして時代は、いよいよ現在地測位に画期的なシステム「GPS(グローバル・ポジショニング・システム)」導入へと入っていくのです。

(文:会田肇 写真:会田肇、ホンダ技研、トヨタ自動車、編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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