ストレスなく馬は移動できるの!?競走馬を輸送する「馬運車」を解説
高速道路や競馬場の周辺で見かける「競走馬輸送中」と書かれた大きなトラック。デリケートな競走馬をストレスなく輸送する馬運車とはどんなクルマでしょう。関東地方での馬匹輸送の約8割を担う「日本馬匹輸送自動車」に詳しく聞いてみました。
現在の馬匹輸送のヒントは米軍!?
- 大型トラックの後方には「競走馬輸送中」の文字が
戦後すぐの昭和21年、競馬は東京と京都で再開しました。昔は競馬場に厩舎があり、競走馬はそこで生活・調教・レース出走をしていて、他の競馬場のレースに出走するときのみ、輸送が発生し、鉄道、もしくは厩務員が車道を牽いていくものでした。しかし当時は、鉄道は復興物資の輸送が最優先であり、道路は自動車が増加するという状況。そんな時、安定して安全に馬の輸送を行なうため、競走馬の輸送を専門とする輸送会社として、昭和22年に日本馬匹輸送自動車は創業したそうです。なんでも、米軍が大型トレーラーに戦車を数台積載して走る姿を見て、馬の輸送のヒントを得たという話があるそうですよ。
馬運車の内部はこうなっている!
現在JRA日本中央競馬会(以下「JRA」という)では、厩舎とは別にさまざまな調教が行われるトレーニング・センターが整備されています。日本馬匹輸送自動車は、JRAと契約し、主に茨城県稲敷郡にある「JRA美浦トレーニング・センター」を起点として各地の競馬場へ輸送しています。
最長ルートは札幌競馬場までのルートです。途中、フェリー乗船時間を除いても所要時間は19時間を超えるため、二人体制での運行だそうです。
- 後ろの扉から大人しく馬運車に乗る競走馬
では、馬運車の内部はどうなっているのでしょうか。
なんでも前列3頭、後列3頭、計6頭の積載が可能だそうです。しかし、競走馬輸送の場合は、前列後列ともにセンター部分を空けた計4頭を乗せて走るそうです。
- 自分の定位置に進む競走馬
馬は進行方向に向かって立ち、馬の胸の部分には、それ以上前に行かないように横棒が渡してあります。両側面はクッション付きの板壁で、馬の後方は扉でふたをする、というのが1頭のスペース。またその扉の馬のお尻部分には、尻尾を収納できる座布団のようなクッションが付いているそうです。
- 馬運車内の様子。ちなみにエアコンも装備されている
とにかく馬は暑さに弱いため、強力なエアコンも装備。また、とても繊細なメンタルの持ち主のため、窓は採光や換気に必要最小限の大きさのもので、外からの刺激を直接受けにくい構造です。馬の目線よりも高い位置に取り付けられています。
馬への細やかな配慮も随所に
- 清掃もきっちり
クルマの仕様だけでなく、スタッフも繊細な配慮をしています。
できるだけ馬がリラックスし、ケガもないよう、所属する厩舎のスタッフから個々の好みや癖に応じて細かな注文を受けるそうです。例えば、前積みか後ろ積みか、右側か左側かなど、可能な範囲で尊重しています。
また牡馬と牝馬を一緒に積む場合は、必ず牡を前列、後列に牝を積むそうです。かわいらしい牝馬が前にいたら、牡馬が興奮してしまいますよね。そのための配慮です。
- 高速道路を走行する馬運車
全車にエアサスペンションを採用し、路面の凹凸は避けて運転。法定速度を厳守し、馬が驚いてケガをしないよう、急発進、急ブレーキ、急な車線変更は厳禁です。十分な車間距離を取って走行し、停車時はブレーキをいきなりすべて踏むのではなく、まず軽く踏んで馬に合図するそうです。これがあることで、馬も本ブレーキのタイミングで足を踏ん張るのだとか。
「馬がいつものトレーニング・センターにいると思っているうちに、気付いたら目的地に着いていた」という輸送を目指す日本馬匹輸送自動車。競走馬はこんなに“思われて”輸送されているのですね。馬運車は、競走馬や競馬ファンのため、良いレースができるよう、裏方でしっかり支えるクルマです。
(取材撮影・文:別役ちひろ 編集:奥村みよ+ノオト)
<取材協力>
日本馬匹輸送自動車
https://jht-corp.jp/
[ガズー編集部]
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