池袋を走る10輪EVの「IKEBUS」ってどんなバス?

2019年11月27日より、東京・池袋の街中を「IKEBUS(イケバス)」が走り出しました。小型で可愛らしいデザインの路線バスです。いったい、どのような目的で導入されたのでしょうか?

力強い“池袋レッド”に染められた、小さなEVバス

イケバスは、池袋駅の周りの観光スポットを周遊する小型のバスです。周回ルートは、駅の東側を巡るAルートと、西口駅前と東側を結ぶBルートの2つ。それぞれの周回距離は4㎞ちょっとで、所要時間は35~40分ほど。
料金は、大人の1回乗車が200円で1日券が500円、子供・高齢者・障がい者の1回乗車が100円、1日券が250円となります。

池袋駅のまわりを周回するイケバスの2つのルート。赤がAルート、青がBルートとなる
池袋駅のまわりを周回するイケバスの2つのルート。赤がAルート、青がBルートとなる

ここまでならば、よくある普通の周回バスですが、イケバスは、その先が独特です。車両は、小さなEV(電気自動車)のバス。なんと10輪駆動で、最高速度は時速19㎞。白っぽいビルの多い池袋の街並みの中で、力強く目立つ真っ赤なボディカラー(池袋レッド)をまといます。

ベースモデルは群馬県のベンチャー企業、株式会社シンクトゥギャザーの製品である「eCOM-10」。それを、JR九州の「ななつ星」などを手掛けてきた水戸岡鋭治氏が、イケバス用にデザインしたもの。可愛らしい顔のようなグリルと、ルーフにあるフクロウのマスコットが特徴的です。
池袋には、「いけふくろう」と呼ばれるフクロウの石像が駅にあって、それが名物になっています。渋谷のハチ公のようなものが、池袋のフクロウなんですね。それをキャラクターに使っているわけです。

10台のイケバスのうち、1台が黄色で、ほかは赤。運転手さんも専用の赤と白の制服を着用している
10台のイケバスのうち、1台が黄色で、ほかは赤。運転手さんも専用の赤と白の制服を着用している

現在、イケバスは、10台が運行されており、そのうち1台だけが黄色(幸せの黄色い号と呼ばれている)で、ほかの9台が赤。室内のデザインは、1台ごとに異なっているそうです。また、街中の周遊だけでなく、貸し切りサービスもあり。豊島区内を巡るさまざまなツアーも用意されています。

静かでゆったりと池袋の街を進む

実際にイケバスを利用してみました。イケバスに乗ったのは、元豊島区庁舎で、今は新しい商業施設となっている「Hareza(ハレザ)池袋」。だいたい20分おきにやってくるバスを待って乗り込みます。

豊島区庁舎跡にできたハレザ池袋と区民センター。ここにイケバスの2つのルートのバス停がある
豊島区庁舎跡にできたハレザ池袋と区民センター。ここにイケバスの2つのルートのバス停がある

使ったのは、池袋の東側と西口を結ぶBルートです。車両の前方にある出入口から入って、すぐ右手にある券売機で料金を支払い車内へ。片側に7つずつ、合計14の席が用意されています。車両の後ろには、車椅子用のゲートもついているようです。座席だけでなく、床にも寄せ木のような模様が施されており、なんとなく楽しい気分になります。

イケバスの車内。シートや床の模様が1台ごとに異なる。天井にデジタルサイネージを備えた車両も。
イケバスの車内。シートや床の模様が1台ごとに異なる。天井にデジタルサイネージを備えた車両も。

最高速度は時速19㎞なので、大通りに入るとほかの車両にどんどんと追い抜かれます。乗っている方としては、ゆったりとした動きなので、あまり大きく揺れることはありません。また、信号待ちで停車すると、本当に静か。
気づけば、イケバスには空調がないんですね。それも静かな理由のひとつでしょう。取材の日はポカポカ陽気で暖かったため、空調がなくてもまったく気になりませんでした。聞いたところによると、「夏場でも、窓を開けていれば、熱がこもることはなく、外の日陰にいるとの同じ程度」とか。

駅の東側にあるハレザ池袋から、線路を渡った駅の西口中央までは、10分ちょっと。歩いて移動するのと同じぐらいか、もう少し早いかなぁという感じ。街の中を行ったり来たりするのであれば非常に便利で、500円の1日券も高くはないと思いました。

イケバスのバス停留所。テーマカラーの赤とフクロウのキャラクターが目を引く。
イケバスのバス停留所。テーマカラーの赤とフクロウのキャラクターが目を引く。

池袋にできた観光スポットを周遊して面で街を活性化する

池袋は、東京都内でも屈指の大きな街です。バスもタクシーもたっぷりあって、足りないということは聞いたことがありません。では、なぜ新たに池袋にイケバスが導入されたのでしょうか?

「池袋駅は、4社8線もの電車が乗り入れ、1日の乗り換えで利用する人の多さは国内で2番目という大きな駅です。ところが、駅がコンパクトで乗り換えしやすく、駅の外にまで人が出てこないんです。人が外に出ないから、“駅袋(えきぶくろ)”と呼ばれることもあるぐらいです」とは、豊島区でイケバスの導入を担当した土木担当部長の原島克典さん。

豊島区でイケバスの導入を担当した原島克典さん(左)と和田吉也さん(右)(2020年3月撮影)
豊島区でイケバスの導入を担当した原島克典さん(左)と和田吉也さん(右)(2020年3月撮影)

池袋といえば、「サンシャイン60」のある「サンシャインシティ」が有名です。駅とサンシャイン60を結ぶ「サンシャイン大通り」は、週末ともなれば1日あたり17万人もの人が行き来します。「ところが、ほかの通りはさっぱり。多くても2万人程度なんです」と原島さん。

さらに、2014年に池袋を含む豊島区を揺るがす事件が発生します。それが「消滅可能性都市」に選出されてしまったのです。これは将来的に人口流出や少子化が進み、最終的に消滅する可能性があるという意味合いです。当然、豊島区は大きなショックを受けます。

そこで豊島区は、若い女性や観光客にも受け入れられる、街の活性化を目指すことになりました。

具体的には、豊島区庁舎の移転、2019年の「東アジア文化都市」の池袋での開催、2020年に予定されていた東京オリンピック・パラリンピックの開催に合わせて、街の活性化のための事業を実施。「芸術文化劇場」や「豊島区民センター」、超高層ビルの「Hareza Tower(ハレザ・タワー)」など新施設のオープンから、池袋西口公園などの整備など、その数は23にも及びます。イケバスも、そうした事業のひとつ。その目的は、新しくできたスポットを周遊することで、街を面として活性化しようというものでした。

子供を持つ若い世代に大人気となっている、南池袋公園の芝生広場。イケバスは、このような駅のまわりの4か所の公園を結ぶ働きもある(2020年3月撮影)
子供を持つ若い世代に大人気となっている、南池袋公園の芝生広場。イケバスは、このような駅のまわりの4か所の公園を結ぶ働きもある(2020年3月撮影)

「ただ、イケバスの実現には、本当に苦労しました」と原島氏。

まず、時速19㎞という速度の遅い乗り物を街で安全に走らせるために警察との折衝が行われました。また、池袋にすでにあったバスやタクシーの事業者とのすり合わせも必要です。そのために、事前の試走は2017年から6回以上も実施されています。また、最終的にイケバスは、安全のため大きな交差点での右折は禁止され、ルートは左回りが基本。朝のラッシュ時の運行も避けられました。また、固定のバス停が設定され、有料で運行する緑ナンバーの車両となりました。

池袋駅の西口を走るイケバス。回送の前に運転手が、室内をクリーニングする姿を見た
池袋駅の西口を走るイケバス。回送の前に運転手が、室内をクリーニングする姿を見た

コロナ禍により4月4日から全便が運休となっていましたが、7月1日より一部を減便した上で運行を再開したばかり。新しいモビリティ、新しい公共交通機関のひとつの形として、イケバスが池袋の新名物に成長することを期待します。

(取材・文・写真:鈴木ケンイチ 編集:木谷宗義+ノオト)

IKEBUS(イケバス)公式サイト
https://www.city.toshima.lg.jp/333/machizukuri/kotsu/bus/1910312223.html

IKEBUS「イケちゃん」公式Twitter @IKEBUS1127
https://twitter.com/IKEBUS1127

一般社団法人 としまアートカルチャーまちづくり協議会
http://t-artculture.jp/

[ガズー編集部]

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