欧米には多く普及している「ラウンドアバウト(環状交差点)」って何?
交差点にもさまざまな種類があります。場所によっては通行方法や信号機の指示が複雑なものも。近年、全国での整備がすすめられている円形状の交差点ラウンドアバウト(環状交差点)とはどのようなものなのでしょう。
ヨーロッパが発祥、欧米やアジアではポピュラーなラウンドアバウトとは?
ラウンドアバウトは円形交差点の一種で、中央島の周囲を時計回り(右回り)で回る環状部分とそこに入っていく道路によって成り立っています。進入のための道路は複数接続することが可能です。基本的に信号や一時停止はなく、通行は環状部分を走るクルマが優先されます。1960年代からイギリスで導入のための調査・研究が行われ、1993年にガイドラインを発行、その後ヨーロッパやアメリカを中心に普及していきました。フランス・パリの凱旋門を中心とするラウンドアバウトはご存知の方も多いのではないでしょうか。
日本では2014年9月に施行された道路交通法改正により環状交差点として法律的に整備されました。交通事故の削減はもちろんのこと、交差点整備のためのコスト削減や景観維持などのメリットがあり、積極的な導入が期待されています。2013年から2015年にかけては、ラウンドアバウトの普及のため、国土交通省によって技術的な課題を専門的な見地から審議を行う「ラウンドアバウト検討委員会」も開催されていました。
どう通行する? ロータリーとの違いは?
ラウンドアバウトはどう通行すればいいのでしょうか。
ラウンドアバウトには信号機がないので、随時入ることができます。入る時は、道路の左側に寄って徐行し、右から来るクルマ=環状部分を通行しているクルマに注意して進入します。ラウンドアバウトでは環状部分を通行しているクルマが優先なので、妨害しないよう十分気をつけなければなりません。
入ったら時計回りに通行し、目的の方向の道路が近づいてきたら、左側のウインカーを出してラウンドアバウトから出ます。このとき、横断歩道に歩行者がいないことを必ず確認しましょう。
ラウンドアバウトが導入される以前にも円形の交差点はありました。それがロータリーです。ラウンドアバウトとロータリーの大きな違いは通行するクルマの優先権です。ロータリーでは基本的にクルマの優先権は左側から来るクルマです。すなわち、ロータリーに進入してくるクルマが優先であるため、ロータリー内を回っているクルマの方が止まって道路を譲らなくてはなりません。この点ではラウンドアバウトとは逆です。ただし、ロータリーには信号機が設置されることもあり、信号や標識によりどちらが優先されるかの指示が行われる場合もあります。
ラウンドアバウトの導入・名古屋市の場合
名古屋市では2020年9月23日より市内で初のラウンドアバウトの試行運用が始まっています。緑政土木局路政部道路維持課にお話を伺いました。
――2020年9月から名古屋市内で初めてラウンドアバウトを試行運用という形で導入されたそうですが、どのようないきさつから導入に踏み切ったのですか?
名古屋市では、交通事故件数や交通事故負傷者数は年々減少しています。しかし、交通事故死者数については、横ばいの状況が続いているのが現状で、警察や有識者などと相談し、より効果的な安全対策の導入について検討を重ねてきました。そんな中、ラウンドアバウトに関する規定が盛り込まれた改正道路交通法が2014年から施行されることになりました。そこで、重大事故を防ぐための安全対策のひとつとして試行的に取り入れることとしました。
――なぜ官庁街に導入されたのですか?
実のところ、官庁街での事故件数はそれほど多いわけではありません。ただ、歩行者や自転車が巻き込まれる人身事故は発生しています。さらに、官庁街の道路は幅員が広く、クルマがスピードを出しがちなのです。ですから、今後、重大事故に発展する危険性もあり、ラウンドアバウトを導入することで未然に防ぐことができるのではと考えました。また、官庁街は、多くの方々が訪れます。その分、人の目に触れやすいので、ラウンドアバウトについて広く知ってもらい、通行方法を覚えていただけるという効果も期待しています。
――ラウンドアバウトの導入により変化は何かありましたか?
正式な検証はこれからですが、ラウンドアバウト導入後は、横断歩道の中間に分離島を設けました。それにより、歩行者が横断の際に確認しなければならないクルマが一方向だけとなりました。また、2段階で横断する形になっていますので、これまで1度に横断する距離が16mだったのが5mと3分の1以下の距離となっています。ですから、今までよりも渡りやすさが上回り、ゆとりをもって安全に横断ができるようになったのではと感じています。
――ドライバーや歩行者への浸透具合はいかがですか?
当初は通行方法に戸惑うドライバーが多く見られましたが、徐々に慣れてきたように感じています。ウインカーの出し方など、わかりにくい点については、まだまだ浸透していないようなので、これからも周知に努めていきたいと思っています。
歩行者にとっては、横断歩道の位置は変わらず、これまで通り横断するだけなので、特に戸惑っている様子は見られません。
――ラウンドアバウトについて市民の皆さんからはどのような声が上がっていますか?
「良い取り組みである」、「他の交差点へも広めて欲しい」、「もっと通行方法の周知を徹底してほしい」といったさまざまなご意見をいただいています。
身体障害者の団体の方々に現地を体験していただいた際には、「不安だったが、体験すると良い取り組みだと思った」「視覚障害者には分離島があるかどうかがわからない。このような交差点があることを知っておくこと、体験しておくことが大事。私たちもしっかり仲間へ知らせていきたい」などのコメントをいただきました。
通行ルールなどは名古屋市内の全世帯に配布する「広報なごや」を通して多くの方に知っていただけるよう努めていますが、今後も市民の皆さまのご意見を伺っていきたいと思っています。
――試行運用はいつまで行われる予定ですか? 本格運用や他の地域への拡大の予定はありますか?
少なくとも年度内は試行運用を継続し、効果を検証していきます。検証結果によっては、改良と再検証を行うことも考えていますが、なるべく早く本格整備へと移行したいと思っています。その上で、今後も、ラウンドアバウトの効果が発揮できる場所への導入を考えています。
筆者も今回の調査をするまで「ラウンドアバウトは通行が難しいのでは?」という印象を抱いていました。しかし、通行に慣れるまでは戸惑うこともあるかもしれませんが、歩行者の道路横断の安全面においても効果が期待でき、信号を必要としないことから災害時に停電が起きたとしても交差点の安全な通行を確保できるという利点もあります。今後、全国各地に増えていくであろうラウンドアバウト。正しい通行方法を覚えておきたいものです。
<取材協力>
一般社団法人 日本自動車連盟 (JAF)
https://jaf.or.jp/
緑政土木局路政部道路維持課
https://www.city.nagoya.jp/ryokuseidoboku/soshiki/10-9-3-5-0.html
(取材・文:わたなべひろみ 写真:緑政土木局路政部道路維持課 編集:奥村みよ+ノオト)
[ガズー編集部]
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