「6輪」で走るF1マシンも生み出した「ティレル」のユニークな発明
1970年代、ひときわ異彩を放つマシンが、F1を賑わせたことがありました。そのマシンを開発したのが、レーシングカーコンストラクターの「ティレル(タイレル)」です。
レーシングチームとしてコンストラクターズタイトルを1回(1971年)、ドライバーズタイトルを2回(1971年、1973年)、獲得しているティレルは、1990年代には中嶋悟選手や片山右京選手、高木虎之介選手といった日本人ドライバーもドライブ。また、ヤマハやホンダがエンジン供給を行うなど、縁のあるチームでしたが、ティレルといえば”奇抜なマシン“の開発でその名を轟かせました。
実は理にかなっている?「6輪」のF1マシン
ティレルが開発してきた奇抜なマシンの中でも、もっとも有名なのが、1976年と1977年のF1グランプリに参戦した「ティレルP34」。F1界初にして唯一の「6輪で走るマシン」です。
その奇抜な見た目とは裏腹に、1976年シーズンのスウェーデンGPでのワンツーフィニッシュを始め、計14回の表彰台を獲得。シーズンを通じてマクラーレンやフェラーリといったトップクラスと肩を並べる性能を発揮しました。
では、なぜティレルは6輪のマシンを開発するに至ったのでしょうか? 当時のF1のレギュレーションは、今では考えられないほど自由度が高いものでしたが、ティレルはもともと6輪を目的としていたわけではないようです。
当時は「フォード・コスワース・DFV」というエンジンの全盛期で、フェラーリのように自動車メーカーが直接、参戦しているチームを除き、ほとんどが同エンジンを似たようなデザインの車体に載せていました。つまり、「エンジンが同じ=パワーで差をつけることが難しい」ということ。勝つためには、いかに車体を工夫するかが重要でした。そこでティレルは、前輪を小さくしてフロントノーズの影にタイヤを隠すことで、ダウンフォース(車体を地面に押し付ける力)を得ようと思いつきます。
しかし、タイヤが小さくなれば、接地面が減ってグリップが落ちてしまいます。そこで、タイヤの数を増やしてグリップを補おうというアイデアが生まれ、発明されたのが6輪のマシンだったのです。
1976年シーズンに登場し、抜群の存在感を発揮したP34。しかし、翌1977年のグランプリでは、小さな前輪タイヤを開発したグッドイヤーが改良を断念するなどし、戦績は低迷。アイデアは悪くなかったものの、このマシンがF1に革命をもたらすことはありませんでした。
しかし、このユニークなF1マシンは、日本で高い人気に。文具やポスターなどが作られたほか、タミヤがスケールモデルを発売するなど、多くの関連グッズが発売されました。現在でも、ごくたまに新しいキットが発売されています。
「ハイノーズ」「Xウイング」といった斬新なアイデアも
その後、1983年にF1のレギュレーションに「車輪は4輪まで」とする事項が加わったため、P34 以後に6輪車は生まれていませんが、ティレルはその後もユニークなアイデアをもとにした技術の研究を続け、実戦投入しています。その代表例が、1990年シーズンを走った「ティレル019」の「ハイノーズ」です。
空力に関するレギュレーションが改定されたことで生まれたもので、それまでフロントウイングから伸びるようにデザインされていた車体先端が持ち上げられました。空気の流れ方を変えることで、ダウンフォースの増加を図ったのです。このスタイルは他チームもすぐに取り入れ、1990年代のマシンの基本形状となっただけでなく、2020年現在のマシンにもその形状の名残があります。
1997年には、ルール変更で失われたダウンフォースを補おうと、サイドポンツーンの上にウイングを取り付けました。
これは「Xウイング」、日本では「バンザイウイング」などとも呼ばれ、当初は効果を疑問視されていましたが、ザウバー、プロスト、ジョーダンなどのチームも採用し、結局フェラーリまでもが似たようなウイングを設置するまで普及。1998年のグランプリでは早くも禁止になってしまいましたが、ティレルのアイデアが先行した事例のひとつとなりました。
ティレルは、1998年シーズンを最後に売却されることとなり、レーシングチームとしての歴史に幕を下ろしました。しかし、「ティレルP34」の人気に加え、1980年代末から1990年代前半にかけて日本の企業がスポンサーやエンジンサプライヤーになったこともあり、いまだに、モータースポーツイベントで走行が行わたり、雑誌でティレル特集が組まれたりするなど、国内のF1ファンにとって根強い人気を誇るチームとなっています。
<参考文献>
『レーシングオン - No. 508 F1革命車たち』(三栄書房)
『GP Car Story vol.04 ティレル019・フォード』(三栄書房)
(取材・文:斎藤雅道/編集:木谷宗義+ノオト)
[ガズー編集部]
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