スタントマンによる迫力の交通安全教室 スケアードストレートとは?
クルマ社会の中で主に子どもたちや高齢者の安全を守るために全国各地で開催されている交通安全教室ですが、実際に事故が起こる様子を再現し強烈なインパクトを与えて指導する手法があります。スタントマンが行う迫力の交通安全教室「スケアードストレート」について、株式会社オフィスワイルドの近藤知行さんに伺いました。
スタントマンが交通事故を目の前で再現
――スケアードストレートでは、実際にクルマで交通事故を模擬的に再現するとのことですが、どんな方が行っているのですか?
株式会社オフィスワイルドでは、映画やテレビドラマなどでのアクションスタントといったアクションシーンに関するあらゆることを行っており、スタントマンも多く在籍しています。交通事故シーンの再現は専門の訓練やトレーニングを受けたスタントマンが行っています。
スケアードストレートには「恐怖を直視する」という意味があり、模擬ではありますが、実際に目の前で事故が起きるのを見て恐怖を感じることにより、交通安全に対する意識を高めてもらうというものです。日本でも以前より行われていましたが、弊社では10年ほど前から取り入れ、関東地区だけでも年間で150件以上の教室を実施しています。
――対象の年代は?
基本的には、小学生から大人までです。学校を訪問して行うことが多く、自動車教習所で行うこともあります。特に中学生・高校生は、自転車に乗る機会が増えたり、子どもたち同士での遠出が多くなったりする年代です。改めて交通ルールや標識の意味を覚え直してもらう意味でも、しっかり見てもらいたいと思ってやっています。
衝撃の場面にも子どもたちの反応はまちまち
――スケアードストレートは、どのような流れで行うのですか?
まずは、時速40キロで走ってくるクルマが自転車を跳ね飛ばすというシーンを見てもらいます。交通事故が一番多く起きているクルマのスピードは時速何キロくらいだと思いますか? 子どもたちにこの質問をすると、時速80キロとか100キロという答えが多いのですが、実は、時速40~60キロくらいといわれているのです。そこで、実際に時速40キロで走るクルマにはね飛ばされる自転車の様子を見て実感してもらうわけです。
それから、見通しの悪い交差点での飛び出し事故や、一時不停止のクルマや自転車の事故といった何パターンかの事故の再現、自転車の手離し運転や2人乗りといった自転車での交通違反、基本的な交通ルールを伝えるなどの内容を緩急つけて実演していきます。
――子どもたちの反応はいかがですか?
「時速40キロってこんなに速いんだ」とか「クルマにはねられると自転車がぐちゃぐちゃにへこんでしまうんだ」、「こんなすごい音がするんだ」と、かなりの衝撃を受ける子どもが多いですね。
――泣き出してしまう子どももいますか?
いますね。開始前に、「実演を見ている途中で気分が悪くなったら手を上げて先生に教えてください」と伝えてはいるのですが、やはりショックで泣き出してしまう子もいます。特に小学生以下の小さい子どもだと、交通安全に繋げるための内容であると理解ができず、ただ恐怖心だけを植え付けてしまう危険性もありますので難しいものがあります。
――それで、基本的に対象を小学生以上としているのですね。スケアードストレートを受けている時の全体の雰囲気というのはどうですか?
学校によってまちまちです。何をやってもシーンとしている学校もありますし、逆にものすごく反応がよい学校もあります。自転車の2人乗りをするのは交通違反ですよという実演を男女で行うと、「ヒュー!」とか「ラブラブー!」と、騒がしいということも(笑)。
――ある意味、子どもらしいですね(笑)。事故の再現を見て「カッコイイ」などと逆効果となることはありませんか?
実演終了後に、「僕たちスタントマンは、特別なトレーニングを行った上で、サポーターを身につけ、はね飛ばされた時にも受身を取るなど安全に十分気をつけて行っています。でも、皆さんは普段、サポーターを身につけているわけでもなければ、いざという時に受身を取ることもできません。もし万が一事故に遭ってしまうと大変なことになってしまいますので、今日見たことを忘れず交通安全に気をつけてください」といったことを必ず伝えていますので、そのようなことはないと思います。
ただ、「スタントマンってどんな仕事なんですか?」という、仕事自体に興味を持って聞きに来る子はたまにいますね。
歩行者もドライバーも安全でいられるクルマ社会のために
――関東地区だけでも年間150件以上のスケアードストレートを実施しているわけですが、会社として得られるものはありますか?
普段は撮影で行っているアクションスタントが社会的に役立っているということで、会社としての幅も広がります。スタントマンとしてもクルマにはねられるといったアクションを繰り返すのはいい経験となっていきますので、これからもこの取り組みはずっと続けていきたいと思っています。
――今後も続けていくにあたって、どのように取り組んでいきたいと考えていますか?
その時代ごとに特徴的な事故というのがあるのですが、そういうものを実演に取り入れていきたいと思っています。
――具体的にはどのようなことですか?
最近でしたら、歩きスマホなどですね。実際に、それによって死亡事故が起きていますから、子どもたちに危機感を持ってほしいということで取り入れています。
それから、もっと公共の場……例えば、公道などさまざまな人の目に触れる場でのスケアードストレートも行っていきたいです。歩行者ばかりでなく、ドライバーの皆さんにも事故の怖さを目の当たりにしてもらいたいのです。事故を起こしてしまったら、起こした本人ばかりではなく、家族や周りの人も不幸にしてしまうものですから。スケアードストレートを見ることにより、改めて交通安全を意識してもらえればと思っています。
事故の恐怖を味わってそれを交通安全の意識に結びつけていくというのは、ショックなことではありますが、絶対に事故に遭わない、遭わせないという気持ちが強くなるものかもしれません。事故の怖さを知り、歩行者もドライバーも互いを思いやる安全なクルマ社会を目指していきたいものです。
<取材協力>
株式会社オフィスワイルド
https://www.studio-wild.com/
(取材・文:わたなべひろみ/写真:株式会社オフィスワイルド/編集:奥村みよ+ノオト)
[ガズー編集部]
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