東京23区のガードパイプ 区ごとに異なるデザインを調査!

車道と歩道の間にあり、歩行者の安全を守るために設置されている「ガードパイプ」。実はさまざまなデザインがあるのをご存知でしょうか。例えば、目黒区は「目」、葛飾区なら「河川」のモチーフなど……デザインと街の特徴がリンクしていることも。今回は、街歩きの達人で一般財団法人日本地図センター・月刊「地図中心」編集長の小林政能さんに東京23区におけるガードパイプの特徴を取材しました。

エリア、道の種類によってデザインが異なる

まず、皆さんは「ガードパイプ」と聞いてイメージできるでしょうか? 一般的に車道と歩道を分断する「ガードレール」と役割は同じで、複数のパイプで構成された車両用防護柵のことです。「道路附属物」として、何気なく見過ごしている人は多いと思いますが全国各地で設置されている身近な存在です。

「国道、都道府県道、市区町村道それぞれの管轄で設置されているので、東京23区内でも道の種類、場所によってデザインが異なります。自治体ごとにガードパイプが違うことはあまり知られていませんが、区域の境目によっては異なるデザインが並んでいることも」(小林さん)

まずこちらが、都道のガードパイプ。東京都の木である「イチョウ」の葉をモチーフにしたデザインになっています。

つぎに、これは一般的なデザイン(汎用型)のガードパイプ。この写真は台東区のガードパイプですが、他のエリアでも多く見られるものなのだとか。

  • 上を向く「目」のように見えるガードパイプ

    上を向く「目」のように見えるガードパイプ

こういった汎用型のデザインの中には、ちょっと変わったものも。こちらもいろいろな区で設置されるデザインですが「目」のように見えませんか? 実は、このデザインが「目黒区」で多く見られるというのです。目黒区役所みどり土木政策課の担当者に確認しました。

「目黒区は1970年代からこの通称“目型”と呼んでいるガードパイプを採用し、多くの箇所で設置しています」(目黒区役所・担当者)

このように街の特徴に合わせてデザインされたものも少なくありません。ここからはデザイン性のあるガードパイプを紹介。

地域の特徴を捉えたガードパイプたち

ガードパイプのデザインに関する規定は、2004年「景観に配慮した防護柵の整備ガイドライン」が国土交通省から制定。その後、2017年に「景観に配慮した道路附属物等ガイドライン」として改定されました。その中にはこのような記述があります。

道路景観の主役は、沿道に展開する街並みや自然風景等の景観であり、歩道上で歩き、楽しむ人々の姿である。道路附属物等は、それらを引き立てる景観の「脇役」である。そのため、デザインの工夫を行う際は、それ自体が道路景観のなかにおいて目立たず、周辺景観に融和し、風景の一部として違和感なく存在することが基本である。また、舞台や映画等における脇役陣が協力して主役を盛り立てるように、各種の道路附属物等も相互に形状や色彩の面で協力し、沿道に展開する景観や歩道上の人々の姿を引き立てる努力が求められる。
「景観に配慮した道路附属物等ガイドライン」より抜粋

景観的配慮の基準やデザイン、基本色についてのルールがあり、これらに基づいた色や形状、デザインのガードパイプが設置されています。では、東京23区内の特徴的なガードパイプをいくつか紹介します。

  • 江戸川区のガードパイプ。右は江戸川区章のモチーフ、左は川の流れをイメージさせるデザイン

    江戸川区のガードパイプ。右は江戸川区章のモチーフ、左は川の流れをイメージさせるデザイン

これは、江戸川区で異なるガードパイプが2種類並んでいる写真です。右側は江戸川区章のモチーフ、左は水の流れをイメージさせるデザインが使われています。江戸川区や江東区、葛飾区など大きな川や海が近いエリアは、こういった水や波を連想させるデザインが多いのだとか。加えて、ガードパイプ内で色が変えてあるなどデザイン的なこだわりを感じます。

こちらは「文」の漢字を彷彿とさせる文京区道のガードパイプで、まるで擬宝珠(ぎぼし)のようなデザイン。尖った頂点の形状まで再現しているのが特徴的。

  • 北区のガードパイプ。同じ「北」の文字をモチーフにしていても、幅によって印象が異なる

    北区のガードパイプ。同じ「北」の文字をモチーフにしていても、幅によって印象が異なる

小林さんのお気に入りは北区のガードパイプ。北区は、「北」の文字がモチーフになっています。道幅に合わせて作られるため、場所によっては北の文字が横にびよーんと長く伸びたものがあって愛らしいそうです。

  • 写真左側が板橋区、右側が練馬区

    写真左側が板橋区、右側が練馬区

区の境界点では、このように異なるガードパイプが並ぶだけでなく、歩道の舗装も変わるケースが。この写真は、左側が板橋区で右側が練馬区ですが、道の途中でタイル系の舗装からアスファルトに変わっています。区域の境界線が目に見えて分かるのも興味深いポイント。

ガードパイプはどのように決められているの?~葛飾区の場合~

では、ガードパイプのデザインや分布はどのように決められているのでしょうか。葛飾区都市整備部道路補修課の担当者を取材しました。

  • 江戸川・中川(新中川含む)・荒川(綾瀬川含む)の3つの河川をモチーフにした「河と流れ」

    江戸川・中川(新中川含む)・荒川(綾瀬川含む)の3つの河川をモチーフにした「河と流れ」

「葛飾区で設置されているデザイン型のガードパイプは「河と流れ」「花しょうぶ」「汎用型」の3種類です。河と流れは、江戸川、中川(新中川含む)、荒川(綾瀬川含む)の3つの河川をモチーフにしたデザインで、中川・新中川以西に設置されています」(葛飾区担当者)

  • 区の花をモチーフにした「花しょうぶ」

    区の花をモチーフにした「花しょうぶ」

これは公募で決定した区の花「花しょうぶ」をモチーフとしたデザイン。中川・新中川以東で設置されています。

「中川・新中川を境に東西でデザイン型ガードパイプを使い分けて設置していましたが、現在は汎用型への更新を行いながら維持管理を行っています。過去には、路線として特色を出すため、デザイン型の横断抑止柵(さくら)で整備した箇所もあります」(葛飾区担当者)

  • さくらをモチーフとしたデザイン

    さくらをモチーフとしたデザイン

  • 一般的な車両用防護柵。通常は白色だが、ビームの色が緑色の場合は通学路に指定されている道路

    一般的な車両用防護柵。通常は白色だが、ビームの色が緑色の場合は通学路に指定されている道路

再整備を行う場合は汎用品へ更新しているため、葛飾区内でデザイン型ガードパイプが見られる場所は少しずつ減っていく傾向にあるそうです。

日常的に街歩きやフィールドワークをしている小林さんは、地域情報としていろいろなものを探し歩く中で「ガードパイプ」もその一つだと気付いたそうです。

「ガードパイプのデザインから”何故このマークなのだろう?“と疑問を持つのも面白いですし、子どもの自由研究にもオススメ。地域の特徴や背景を知るきっかけになると思います」(小林さん)

日常に馴染むガードパイプは、街のアイコンのひとつ。それは東京23区内に限ったことではありません。意識して観察すると、いつもの風景の中に新しい発見があるのかも。信号待ちの停車時やクルマを止めて街歩きをする際、ガードパイプに注目してみてはいかがでしょうか。

(取材・文・写真:笹田理恵/写真提供:小林政能、葛飾区都市整備部道路補修課/編集:奥村みよ+ノオト)

[ガズー編集部]

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