「無印良品」の移動販売 「暮らしやすく、住みやすい、持続可能な地域づくり」を目指す
今や、クリックひとつであらゆるものが家に届く時代。とはいうものの、地方の、それも少子高齢化が進む山間地域の集落ともなると、そもそもの買い物自体が困難な人たちが多くいます。
「無印良品」では、2020年6月から山形県酒田市の中山間部(一部地域除く)で移動販売車を開始しました。暮らしに役立つ日用品を提供する全国区の店がクルマでやってくる! そのプロジェクトについて取材しました。
社内研修から始まったプロジェクト
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穏やかな風光明媚な道をゆく無印良品の移動販売車「くらしラボ酒田」
「無印良品」を展開する「良品計画」は、2019年夏、同社の研修プログラム「暮らしの編集学校」を酒田市で実施。地域の課題や魅力を“自分事”として捉えることで、地域の暮らしと社会を結び付けて考え、当事者として課題解決ができる人材の育成を目指し、社内公募で17名の社員が酒田市を訪れました。
そして、地域住民や自治体職員との交流を通じて、酒田市でのより良い暮らしを考えた事業案を立案し、市長に提案。その成果として、中山間地域活力向上事業の委託を受けることとなり「地域発展を目指すパートナーシップ協定」が締結され、「酒田プロジェクト」を立ち上げました。移動販売は、その時のプランが実現したものです。
お菓子も、レトルト食品も、洋服も、お掃除グッズも!
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停車すると多くの人が集まってくる
酒田市の八幡地域をほぼ網羅する形で始まった移動販売。軽トラック・ダイハツ「ハイゼツト 4WD 3AT」の荷台に、なじみ深い「無印良品」の小豆色のロゴマークが描かれています。1台のみの運行で、曜日ごとに訪問先が変わります。路線バスさながらのスケジュールが組まれていて、平日は一つの場所におよそ15分滞在し、12箇所ほど巡ります。土曜日は地域のコミュニティセンター(持ち回り)で1時間滞在します。
「当初は20分の停車時間を設けていましたが、お客さまの商品を選ばれるスピードが意外と速く時間が余ることが多く、15分に短縮しました。その分、回る集落を増やしています」(移動販売担当スタッフ)
平日は食品と生活用品、もしくは衣料品を販売する移動販売。なんと、食品は約60品目、生活雑貨は約110品目、衣料品は約30品目と、およそ約200品目のアイテムを詰め込んでいるそう。1アイテム30個ほど用意している商品もあります。
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老若男女、世代を問わず人気
ちなみに、泡立ちと水切れが良い「ウレタンフォーム三層スポンジ3個入り」や、「足なり直角靴下」・「インド綿ルームサンダル」・「レトルトカレー」各種、「芋けんぴ」、「素材を生かしたスナック ごぼう」、「素材を生かした キャラメルポップコーン」、「食べるスープシリーズ」が特に人気なのだとか。
「今日は無印良品さんが来る日だ!」という期待
スタートして半年が過ぎ、町の人にも知られるようになった移動販売。回っているスタッフは、お客さんに顔と名前を覚えてもらえるようになり、「おねえさん」と呼ばれていたものが、名前で呼んでもらえるようになったそうです。
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雨が降っても、雪が降っても(基本)営業
また、「無印良品さんが来るから」と、夏は草刈り、冬は雪かきをして待っていてくれるお客さんも。「屋根から雪が落ちてくるから、こっちに止めた方がいいよ」、「昨日は雪でぐちゃぐちゃだったから、キレイにしておいたよ」、「雪の中よく来たね」、「風邪ひかないようにね」と、声をかけてくれる人もいて、スタッフは「まるで応援されているように感じます」と、心温まるエピソードが聞けました。
「移動販売は、地域の方の協力があって成り立っているのだなと日々感じています」(移動販売担当スタッフ)
近所の人に声をかけて「みんなで買い物に行こう」と約束をしている集落もあるとか。
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穫り入れの終わった田園を走る「くらしラボ酒田」
いつの間にか酒田市八幡地域に住む人たちから絶大な信頼と親しみの対象となった移動販売。2020年7月には、新潟県上越市にオープンした「無印良品 直江津」で、コロナ禍で未活用となった観光用マイクロバスを使用した移動販売「MUJI to GO」を開始しました。今後も、酒田市や直江津での事例を踏まえて他の地域でも移動販売を検討していくとのことです。
単に「ものが手に入る」というだけではない、買い物ができる喜びや商品棚から選ぶ楽しさ。「こんにちは」「ありがとう」という温かいやり取りも含め、山間部・限界集落にそんなささやかなワクワクがもっと広がるといいですね。
<取材協力>
無印良品 くらしラボ酒田
https://www.muji.com/jp/ja/shop/detail/046614
https://www.instagram.com/muji_kurashilabo_sakata/
(取材・文:別役ちひろ/写真:良品計画/編集:奥村みよ+ノオト)
[ガズー編集部]