クルマを電源に! コンビニエンスストア・セイコーマートが災害時でも営業できたワケ
北海道を中心に北関東にもチェーン展開するコンビニエンスストア・セイコーマート。北海道産食材を使った商品や店内調理による温かいメニューを提供するなどオリジナルのサービスが豊富なセイコーマートですが、2018年の北海道胆振東部地震により起きた道内全域に及ぶ停電時には、多くの店で発災当日にいち早く営業を再開しました。なぜ、長時間に及んだ停電中に素早く店舗の営業を始めることできたのか? セイコーマートの災害時の対応について、株式会社セコマ 執行役員 広報部 部長 佐々木威知さんに伺いました。
2004年に北海道を襲った台風18号の停電を教訓に
――2018年の北海道胆振東部地震のとき、「セイコーマートが営業していて助かった」という声が多くあったのですが、どのように営業していたのでしょうか
各店で、クルマを電源として電気を引きながらレジを動かして営業していました。実は、2004年に非常に大型の台風18号が北海道を襲ったことがあります。北海道ではほとんど台風が上陸することがなかったのですが、鉄塔が倒れたり、電線が切れたりしてかなりの広域で長時間の停電が発生しました。このとき、レジは動かせませんでしたが、普段、発注などに使っている充電式の端末のレジ機能を利用して営業したのです。しかし、電気が4時間くらいしか持たず、途中で切れて会計ができなくなり、店を閉めざるを得ない状況になりました。その経験から、店には必ずクルマがあるのだから、そこから電源を確保してレジを動かすことができればいいのではないかと考えました。
そこで、12Vを100Vに切り替えるインバーターと延長コードを全店に備え付け、災害時に停電になったら、それを使いましょうというルールにしたのです。当初は、レジ1台しか動かすことができませんでしたが、現在は非常時のために省電力のレジを開発し、2台動かすことも可能になっています。
――クルマといっても、電気自動車ではなくガソリン車なのですね
電気自動車から電気を取り込むとか、発電機を店にセットするとか、そういった実験はしてみましたが、やはり、操作が難しかったのです。接続するものも多いし、スイッチを入れたり、切ったりと複雑になってしまう。非常時には単純でマニュアルを見なくてもできる方法が一番です。クルマのシガーソケットにインバーターをつないで延長コードを引っ張りレジのコンセントを差せば動く、というのなら混乱している状況でも誰にでもできますから。
――それで、早急に営業ができたわけですね?
ハード面での準備はしていましたが、実際に店舗の営業ができたのは従業員の力があったからです。北海道胆振東部地震は発生したのが朝方3時過ぎでした。当然、本部から指示が出せる状況ではありませんでしたが、各店の従業員が自分の家の安全確保ができ次第、店に駆けつけ開店してくれたのです。災害が起きると生活必需品を必要とするお客さまが集中するだろうという自主的な判断でした。
――そのような判断について、事前にマニュアルなどはあったのですか?
いいえ、そのような訓練や指示は一切したことはありません。ただ、弊社の経営方針でもあるのですが、普段から自分の地域や地域のお客さまを大事にしましょうと伝えてきました。ですから、災害が起きたときに地域のためになんとかしようという気持ちで動いてくれたのだと思います。災害対応の準備はハード面ではもちろんですが、やはり一番のポイントはマインドであると実感しました。このような経験から「思いをいかに共有できるか」というのが重要だと感じています。
物資・商品を確実に届けるための「緊急通行車両確認標章」
――大規模な災害の時には運送などはどのようにされていたのですか?
2011年に東日本大震災が発生したときは、北海道から水やカップラーメンなど、とにかく需要がありそうなものをどんどん送り続けました。しかし、道路が寸断されて通れない、フェリーになかなか乗れない、そして、被災地に行くと給油ができないといろいろな障害があるわけです。それでも、現地には物資を待っている方たちがいるのだから、トラックを走らせなくてはならない。そこで、いち早く緊急通行車両としてトラックを登録し、「緊急通行車両確認標章」を公安委員会から発行してもらいました。そうすると、消防車や救急車、パトカーなどと同じ扱いになって、優先的に通してもらえるようになります。
北海道胆振東部地震の際も、同様の届け出を試みたのですが、道路が通行止めになっていないということで、適用にならなかったのです。しかし、現地に行くと給油ができずに困ってしまう。そこで、経済産業省などと相談し、「優先給油証明書」というものを発行してもらい、特別に給油などをできるように手配してもらいました。
このように災害発生後に届け出をするのでは、どうしてもタイムラグが出て、素早く動けない状況になることがわかりました。そこで、北海道や北海道警察と協議をして事前に登録させていただくことができました。今後、万が一大きな災害があったとしても、緊急通行車両としてすぐに運行できる体制を調えています。
また、商品をどんどん供給し続けなければならないのに、配送センター自体が停電してしまうと何も出せなくなってしまいます。2018年の反省から、基幹物流のシステムの無停電化を完了しました。大型の発電機を用意し、もし、停電が起きてもサーバや物流の中の装置などを2~3日はフルに動かせるよう、物流を止めない対策を行っています。
お客さまや店員の「困った」の声を生かして、万が一に「困らない」対策を
――他にはどのような対策を進めていますか?
HOT CHEFという店内調理コーナーのある店舗では、東日本大震災以降、災害時にはお弁当やお総菜の調理をストップしておにぎりだけを製造するということもマニュアル化されています。都市ガスではなくプロパンガスの調理器具を備えているので、都市ガスや電気が途絶えても温かいおにぎりを提供することができます。
そして、キャッシュレス化が進む中、北海道胆振東部地震のときには手持ちの現金がなくて困るお客さまが多かったことから、携帯電話の通信網を利用したキャッシュレス決済が可能になるよう年内に整備が終了する予定です。
また、やはり、自社だけで対策を立てていくには限界がありますので、さまざまな分野の企業にお声がけして、一緒に対応していけるようアライアンスを結んでいっています。例えば、建設現場向け機器のレンタルを行う会社からは、非常時にはジェットヒーターや仮店舗を設置するためのテントなどをすぐに貸していただける協定、あるいはガス会社とは発電機に使用するプロパンガスを供給していただける協定を締結しています。
いずれにしても、災害が落ち着いたあとには全店にアンケートを行い、お客さまや店員が「そのとき何に困ったか」を全部出してもらい、一つひとつ課題をクリアしていっているという状況ですね。次に何が起こるかはわかりませんが、万が一のことがあっても、少なくともそれまでに「困ったこと」には困らないようにしていきたいと思っています。
ハード面ばかりではなく、人あっての災害対策であるというところが印象的でした。店舗でなくとも災害時のクルマの役割は大きそうです。万が一に備えて、点検や準備を怠らないようにしたいものです。
<取材協力>
株式会社セコマ
https://secoma.co.jp/
https://www.seicomart.co.jp/
(取材・文:わたなべひろみ/写真:株式会社セコマ/編集:奥村みよ+ノオト)
[ガズー編集部]
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