ホットハッチの代名詞「GTI」。国産車にもあった、その代表車種と名前の由来

「GTI(ジー・ティ・アイ)」という3文字は、クルマ好きにとって特別です。多くの人は、GTIと聞くと手頃で高性能なコンパクトなハッチバック車を思い浮かべるのではないでしょうか? 実際にそのイメージは合っていて、ヨーロッパはもちろん、日本にもGTIの名を持つクルマは存在します。

「GTI」といえば、やっぱりゴルフ!

「GTI」という名称が初めて使われたのは、1961年に発売した「マセラティ3500 GTI」だと言われています。従来モデル(@@@マセラティ3500GT)ではキャブレターだったエンジンの燃料供給方式をインジェクションに変更して、高出力化。「GTI」という呼び名は高性能モデルの証だったのです。

しかし、GTIの知名度を高めた存在は、なんといってもフォルクスワーゲンが1976年に発売した「ゴルフGTI」でしょう。

  • ゴルフGTIの初代モデル(写真:フォルクスワーゲン)

当時、通常のゴルフでは、もっとも高出力なモデルでも82psしかありませんでした。しかし「GTI」のエンジンは、インジェクション化などにより110psまでパワーアップ。サスペンションも強化するなど、ゴルフのスポーツタイプとして作られたのです。

ドイツには「アウトバーン」と呼ばれる速度無制限で有名な高速道路がありますが、当時はゴルフのようなコンパクトカーでは動力性能に乏しく、もっとも右(ドイツは右側通行なので日本での左側に相当)の車線をゆっくり走るのが常識でした。しかし、高出力のゴルフGTIは、ポルシェやメルセデス・ベンツに混ざって左側車線をガンガン走れたことが、当時のドイツのクルマ好きに大きなインパクトを与えたのです。

初代ゴルフGTIは、当初5000台程度の販売計画でした。しかし結局、それを大きく上回る46万台以上を販売。多くの人に受け入れられ、同時に「GTI」という響きを特別なものとしたのです。

  • 初代から7世代目までの、歴代ゴルフGTI(写真:フォルクスワーゲン)

ゴルフは、本国で発売されたばかりの最新モデル(日本へは2021年央から導入される見込み)で8世代目。初代の大ヒットを経て「GTI」はゴルフの定番シリーズとなり、新型も含めすべての世代に設定されています。

  • 最新となる8世代目のゴルフGTI(写真:フォルクスワーゲン)

フォルクスワーゲンのほかのモデルにも

初代ゴルフGTIは、ハッチバックの小さな車体に高出力エンジンを積んで元気のいい走りを実現する「ホットハッチ」というジャンルを築きました。そんなゴルフGTIのヒットに可能性を感じたフォルクスワーゲンは、ゴルフに加えてほかのコンパクトカーにも「GTI」を展開。代表的なモデルは「ポロGTI」「up! GTI」そして「ルポGTI」です。

  • 最新のポロGTI(写真:フォルクスワーゲン)

  • 日本では2018年から販売されたup! GTI(写真:フォルクスワーゲン)

  • 日本では2003年から2006年まで販売されたルポGTI(写真:フォルクスワーゲン)

いずれのモデルも楽しい走りに定評があり、多くのファンが存在。フォルクスワーゲンにとって「GTI」は、なくてはならない存在となりました。

プジョーにも存在する、有名な「GTi」

初代ゴルフGTIのヒットは、多くの自動車メーカーに大きな影響を与えました。そのひとつが、フランスのプジョーです。同社は、コンパクトカーの「205」に高性能仕様を設定し、その名称は「205GTi」。この「GTi」にも多くのファンがいます。

当初は排気量1600ccのエンジンを積んでいましたが、のちに1900ccへと拡大。パワーとトルクがアップし、ますます走りが鋭くなりました。

  • プジョー205GTi(左)と208GTi(写真:ステランティス)

プジョーの「GTi」は205の後継モデルである「206」や「207」そして「208」へと受け継がれているほか、兄貴分の「308」にも設定。308には「プジョー史上最強の量産ホットハッチ」を自称する「308GTi 270 by PEUGEOT SPORT」というスペシャルな仕様も用意されました。

  • プジョー「308GTi 270 by PEUGEOT SPORT」はゴルフGTIの直接ライバルとなる(写真:ステランティス)

国産車にも「GTI」があった!

そんな「GTI」の勢いは欧州だけにとどまらず、日本へも飛び火。1986年にスズキから発売されたのが「カルタスGT-i」でした。

初代カルタスをベースに排気量1300ccのエンジンを積んだ高性能なコンパクトハッチバックで、当初97ps、後期モデルでは100psを発生したその出力は、クラストップの実力。モータースポーツでも活躍しました。

  • 初代カルタスGT-i(写真:スズキ自動車)

そしてカルタスは、1986年に2世代目へとモデルチェンジ。もちろん高性能仕様「GT-i」も引き続き用意されました。

  • 2世代目のカルタスGT-i(写真:スズキ自動車)

その後、1990年に日産から登場したのが「パルサーGTI」。欧州を意識した5ドアハッチバックボディに、排気量1.8Lと当時のコンパクトカーとしては大きめのエンジン(パルサーの標準的なエンジンは1.5L)を搭載した高性能仕様です。

  • 欧州を意識したボディに大きめのエンジンを組み合わせたパルサーGTI(写真:日産自動車)

しかし、パルサーといえば「GTI」よりも、多くの人はさらに高性能な「GTI-R」をイメージすることでしょう。「GTI」に“レーシング”をイメージさせる「R」の文字を足したこのモデルは、230psを発生する2.0Lのターボエンジンに4WDシステムを組み込んだ、突然変異種的な超高性能仕様。とんでもない速さが自慢でした。

  • 競技への参戦を前提に開発されたパルサーGTI-R。世界的にも珍しい「R」のつくGTIだ。(写真:日産自動車)

実はこの「パルサーGTI-R」は、世界ラリー選手権(WRC)への参戦を前提に開発されたモデル。まさにホットハッチと言える存在でした。

「GTI」という名前の由来は?

ところで、「GTI」の3文字には、どんな意味が込められているのでしょうか?

フォルクスワーゲンによると、「GTI」とは「Gran Turismo Injection(グラン・ツーリスモ・インジェクション)」とのこと。グランツーリスモとは「長距離を快適に走れる自動車」といったニュアンスを持つイタリア語で、「インジェクション」とはエンジンに燃料を供給する方式のこと。「GTI」は当初、高性能化の手法としてエンジンにインジェクションの燃料供給方式を組み込んだことから、この名前が付いたというわけです。

それを知ると、初代ゴルフGTIだけでなく、冒頭で紹介した1961年に発売のマセラティ3500 GTIの「GTI」も同じ意味だと理解できます。「今のフォルクスワーゲンにとって『GTI』の位置づけは、ホットハッチという新しいジャンルを確立した張本人。いわばホットハッチの原点といえる存在です」とフォルクスワーゲンは説明します。

  • 初代ゴルフGTIと最新のゴルフGTI(写真:フォルクスワーゲン)

小さな車体の実用車に高性能エンジンを積んだスポーツモデルは、走りが楽しいうえに使い勝手もいいのが特徴。ホットハッチとも表現されるこのジャンルは、いわば「身近なスポーツカー」といっていいでしょう。「GTI」とはそんなタイプのクルマを象徴する記号といえるのではないでしょうか?

(文:工藤貴宏/写真:フォルクスワーゲン、ステランティス、スズキ自動車、日産自動車/編集:木谷宗義+ノオト)

[ガズー編集部]

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