43基ものカーブミラーがずらりと並ぶワケ。カーブミラー製造会社に聞いてみた
T字路やカーブで安全確認のために必ず目にするカーブミラー。このカーブミラーがなんと40基以上も並ぶ場所が福井県にあります。そこは、カーブミラーを製造するナック・ケイ・エス株式会社の社員駐車場。カーブミラーの国内製造シェアナンバーワンのナック・ケイ・エス株式会社の代表取締役副社長 海道洋子さんに、カーブミラーの種類や製造のこと、大量のカーブミラーが並ぶ謎について聞きました。
福井県から全国へ……すぐさまカーブミラーを届ける
――どのようないきさつからカーブミラーを製造するようになったのですか?
弊社は1970年にポリバスと呼ばれるFRP製の浴槽の製造からスタートしている会社です。当時、カーブミラーの裏側のパーツはFRP製でつくられ始めていました。ご縁があり、FRP製の裏板を製造してもらえないかという依頼が入り、そこからカーブミラーに関わることとなりました。ほどなく、今度は鏡面部分を製造していた会社がやめてしまうことに。裏板と一緒に鏡面部分も生産してほしいという打診がありました。そこで、鏡面を製造する機械も福井に持ち込んで、製造を開始することにしました。同時にポール部分も仕入れて、カーブミラー一式をそろえてお届けできる一貫生産体制を整えていきました。福井県は国内では地理的に東へも西へも流通がスムーズなこともあり、全国各地へすぐに届けられるようにしていったのです。
交通安全のために質のよいカーブミラーを
――カーブミラーはどれも同じような形ですが何か基準があるのですか?
弊社が製造に携わり始めた頃は、カーブミラーはまだあまり普及していませんでした。当時は、高度成長期でクルマがどんどん増え、それとともに交通事故も増加の一途をたどっていたのです。そこで、交通事故防止の一環としてカーブミラーを普及させるため、道路反射鏡協会を立ち上げてきちんと全国で基準を統一し、設置していくべく規格化が進められました。今は、一般財団法人日本ウエザリングテストセンターの耐久性試験などや、道路反射鏡協会の規格に合格し、協会が認定した商品だけが設置されるようになっています。
そういう取り組みをした結果、カーブミラーの普及のスピードも早くなりましたし、品質の安定した製品が北海道から沖縄まで全国津々浦々に設置されるようになりました。弊社でも設置の最盛期には年間10万基ほどの出荷がありましたが、現在は他社さんに卸すものなども含めて年間5万基くらいの製造をしていますね。今ではもう都会から山奥まで道路が整備され、カーブミラーの設置もされていますから。
――それでも5万基も製造されているということは、カーブミラーは一度設置されたらそのままというわけではないのですね?
各地での自然災害の発生により破損してしまったものなどの取り換えの必要性が生じます。また、鏡面はプラスチックやステンレスでできているので耐久性はよいのですが、長年設置されていると傷などで見えにくくなってしまいます。そこで取り替えなければならなくなるのです。その他、公共の道路以外にも私有地内や駐車場の中などでの需要もありますので常に製造はしています。
カーブミラーの鏡面はアクリル、ステンレスが主流
――カーブミラーの種類というのはどのくらいあるのですか?
カーブミラーの種類は、形状と素材とでそれぞれにあります。形状は規格で決まっているのが直径60cm、80cm、1mの丸型と50cm×60cmと60cm×80cmの角型の5種類です。
鏡面の材料は4種類ありまして、弊社がトップシェアを占めているのがアクリルに蒸着加工で鏡加工したもの。これが国内全体の50%です。それとステンレス製のものが残りのほぼ半分となります。その他、ポリカーボネートのもの、強化ガラスのミラーも若干あります。
――ミラーといっても全部がガラスの鏡ではないのですね。
もともとは強化ガラスでしたが、今はこの4種類になっています。そして、設置の方法も基本は一面ですが、角地やT字路など道路の形状により、2面付いているところもあります。
弊社で主に製造しているアクリルのカーブミラーは真空成型技術を用いてつくっています。アクリルの板に熱をかけて真空で引っ張るとまるく曲面ができます。それに鏡加工をしていくのです。このアクリルの真空成型技術は弊社の他の製品であるジャグジーなどの浴槽や、ドーム型の天井の明かり取りなどにも生かされています。
カーブミラーが43基……なぜそんなに並んでいる?
――大量のカーブミラーが並んでいるのを見かけたのですが、あれはなぜですか?
メーカーとして機能性を追求するために、日々商品開発を進めているのですが、屋外での設置検査用に20年程前から社員駐車場に設置し始めたのです。気象条件や設置年数などを定点観測していくために1基、また1基と設置していくうちに、こんなに並んでしまいました(笑)。
――商品開発のためだったのですね。
材質やコーティング、サイズ違いなどいろいろ変えて検証をしています。寒暖差で曇りにくくするためのテストなども行っています。
――商品開発として大事なものであるとともに、ちょっとした名所になっているのでは?
テレビで取り上げていただいたこともあって、注目いただいています。社員駐車場なので土日はクルマがないため、自由に写真を撮りに来てもいいですよとお伝えしています。ここは国道416号線沿いなのでちょっと先に行くと越前海岸へと向かう1本道です。ドライブのついでにぜひお立ち寄りください。
――まだ増えそうですか?
どうでしょう(笑)。今、設置しているものも入れ替えはしているのですが、かなりいっぱいいっぱいになってきていて。実は、向かい側の駐車場にも1基立てています。
交通安全のためには自分の目で確認するのが大切
――今後、カーブミラーの新しい展開はありそうですか?
実は、カーブミラーは日本独自のもので海外ではあまり普及はしていません。もちろん信号機はありますが、カーブミラーは電気に頼らずに安全を確保できるものですので、海外でも展開して交通安全に寄与できたらいいなというのはあります。
また、これまでも神社仏閣の敷地内で枠をオレンジ色ではなく木目調にし屋根瓦のようなフードをつけたもの、リンゴの産地ではリンゴの形の枠にするなど造形を工夫したカーブミラーも特注で製造してきました。
それをさらに進めて鏡の部分に写真を入れたり、カーブミラーの形をいかしたオブジェのようにしたりと「映えミラー」として、新たな商品をつくっていきたいとトライしているところです。
――最後にドライバーの皆さんへひとことお願いします。
クルマの運転も最新の安全機能により目視をしなくても大丈夫という時代が今後来るのかもしれません。しかし、そういう機器に頼り切りになるのではなく、自分の目で確かめるというのはやはり大切だと思います。カーブミラーが設置してあるということは、その場所が道路として危険な場所であるという印でもあるのです。クルマ同士はもちろんのこと、人や自転車を巻き込んでしまうことも考えられます。ですから、これからもカーブミラーを直接見てしっかり安全を確認するということは続けていってほしいと思います。
今回は、強烈なインパクトがある大量のカーブミラーをきっかけにお話を聞きましたが、カーブミラーでの安全確認の重要性にあらためて気づかされました。「カーブミラーのあるところは危険が潜む場所」と心して確認しようと思います。
<取材協力>
ナック・ケイ・エス株式会社
https://www.nacks.co.jp/
(取材・文:わたなべひろみ/写真:ナック・ケイ・エス株式会社/編集:奥村みよ+ノオト)
[ガズー編集部]
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