かわいいだけじゃない! 「園バス」のひみつ

園児を乗せて街中を走る、かわいらしい外装をした「園バス」。日常生活で見かけることがあっても、その構造はよく知られていないものです。一体どのような作業を経て園バスがつくられているのか、幼児専用車の専門メーカーである光源舎オートプロダクツ株式会社・斉藤賢一さんにお話を伺いました。

  • ベースとなる車両の形状はそのまま、ポップなラッピングを施した幼児専用車

――光源舎オートプロダクツさんではどのような事業をされているのでしょうか?

「通称『園バス』は、国土交通省の保安基準の定めにおいて「幼児専用車」という呼び方をされています。当社ではこの幼児専用車の製造・販売を主に行ない、それ以外にも、園バスに限らず、車両の外装デザインにおける設計および施工を行なっています。とくに、素材にFRP(繊維強化プラスチック)を用いた立体型バスの製造・販売は当社の特徴といえる強みです」(斉藤さん)

立体型バスはレジャー施設での使用や企業PR用車両としてのニーズもあるのだとか。外観を見ているだけでも気持ちが明るくなるような立体型バスは、多方面からの需要があるわけですね。


――園バスはどのような作業を経てつくられるのでしょうか?

  • 客室内の純正部品を取り外した上で、園バス仕様に仕上げていく

「ベースとなる車両の多くは、トヨタ・ハイエース、日産・キャラバンなどのワゴン車や、一般的にマイクロバスと呼ばれるサイズの車種です。大まかな作業の流れとしては、まず幼児が乗るスペースとなる客室内の部品をすべて取り外すところから。自動車メーカーから出荷された状態では、大人用の座席をはじめ、園バスには使用しないさまざまな部品が付いているので、それらを取り払っていきます。

次に、幼児専用車に対して定められた、国交省の保安基準を満たすための部品を取り付けます。具体的には、乗降口の電動式ステップや非常口、冷暖房といった空調設備などです。これらの取り付けが完了したら、幼児用の座席を客室内に設置していきます。最後に車体の塗装やラッピング、立体型バスであればFRPパーツの取り付け・塗装といった、外観の仕上げを行なって完成に向かう流れです」(斉藤さん)

  • 園児用の座席を取り付け、内装の仕上げ作業に入った客室内

同社では、こうした一連の作業を車両1台につき通常約5〜6日程度で完成させるそうですが、外観のデザインが凝っている車両や、一からオーダーメイドで製作する車両は半年ほどの時間を要する場合もあるとのこと。1台1台丁寧に、バスに乗る人への思いやりを込めながら製作をされているのが伝わってきます。


――幼児向けに配慮しているポイントはどんなところですか?

  • 安全性や快適性確保のために一役買う、独特な形状の「エンジェルシート」

「現在、幼児専用車にシートベルトやチャイルドシートの取り付け義務はありませんが、ここ数年は座席に『ハイバックシート』の導入をおすすめしています。これは通常のシートよりも背もたれが15〜20cmほど高く設計されていて、衝突の衝撃などから幼児の体を支える機能があるものです。

さらに当社オリジナルのハイバックシート、通称『エンジェルシート』は、フタコブラクダを横から見たような形状にしています。なぜこのような形状かというと、座席の背もたれを高くすることによって、添乗の先生やバスのドライバーさんから園児の顔が見えなくなってしまうのを防ぐ目的です。

このシート形状は保安基準で定められているわけではなく、通常よりコストもかかるのですが、より安全で常に大人の目が届きやすいように配慮しながら園バス製作を行なっています」(斉藤さん)

このほかにも、感染症対策の取り組みとして新たに車内の換気システムを開発し、それを採用した園バスが近日発売されるとのこと。園児がより安全で快適に通園するために、園バスは日々さまざまな進化を遂げていることがわかりました。

かわいらしい外観だけでなく、そこにどんな機能や工夫が詰まっているのかを知ると、親御さんはこれまで以上にお子さまを預ける安心感が増すのではないでしょうか。また子どもたちも、園児時代の楽しかった記憶として、園バスの存在が深く刻まれることでしょう。

<取材協力>
光源舎オートプロダクツ株式会社
https://www.kogensha.net

(取材・文:吉田奈苗 写真:光源舎オートプロダクツ株式会社 編集:奥村みよ+ノオト)

[ガズー編集部]

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