意外と知られていない?消防車(ポンプ車)ができるまで
消防車は自動車メーカーのロゴやエンブレムを残していることも多いため「自動車メーカーがつくっている」と思われがちです。たしかに運転や走行に関わるベース車は自動車メーカーが製造していますが、ポンプなど消火設備は専門のメーカーが製造を行い、両方を組み合わせることで消防車は完成します。
具体的にどのような工程を経て消防車はつくられているのか。アジア最大級の工場を有し、日本で活躍する消防車の半数以上を手がける消防車メーカー「株式会社モリタホールディングス(以下、モリタ)」の広報室スタッフに話を伺いました。
一言に「消防車」といっても多くの種類があります。モリタでは「消防ポンプ自動車」、「はしご車」「水槽付消防車」、「化学消防車」、「大型高所放水車」、「大型化学高所放水車」、「救助工作車」、「支援車」、「積載車」、「電源照明車」など、ほぼすべての消防車と呼ばれる車両の製造を手がけ、販売しています。
モリタ三田工場で製造する消防車は年間600台以上。受注の半分以上は消防ポンプ自動車(以降、ポンプ車)が占めるそう。そんなもっとも目にする機会の多い消防ポンプ車の製造工程を紹介します。
工程その1:ベース車 入荷・組立部門でポンプユニットの積み込み・ボディー架装
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自動車メーカーより搬入された直後のベース車
まずポンプ車のベース車が自動車メーカーから工場に運び込まれます。ベース車にはトヨタ自動車「ダイナ」、日野自動車の「デュトロ」、「レンジャー」、「プロフィア」、いすゞ自動車の「エルフ」、「フォワード」、「ギガ」が用いられます。市販されるモデルとは異なり、エンジンからポンプを駆動するための動力が得られる「パワーテイクオフ(PTO)」機能を持った消防車専用の車両です。
※モリタの最新ポンプ車「ミラクルLight(ライト)」は、例外的にPTO機能を持たないダイナをベース車にしています。ミラクルLightに関しては後ほど、あらためて記載します。
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かつてのポンプユニットは機械制御式だが、現在では電子制御式に変わり、多様できめ細かい制御を可能としている
工場に搬入されたベース車は、まず組立部門に運ばれます。キャビン(運転席周り)を朱色に塗装したのち、放水の要となる「ポンプユニット」を積み込み、PTOを介してエンジンと接続します。水を高圧で放水するため、クルマのエンジンから動力を得る仕組みです。
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消防車の特徴である朱色のボディーカラー。塗装は車体や部品の表面をパテで丁寧に平滑にし、下地を塗り、乾燥したあとに行われる
油圧部品や後部側板、ステップをベース車に架装(取り付け)したのち、ポンプ車は組立部門から艤装(ぎそう)部門へ移されます。
工程その2:艤装部門で電機部品の取り付けと配線作業
新たに架装された部品に塗装を行ったのち、側板にシャッターやブラケット、ルーフに赤色警告灯やサイレンといった電装部品を組み付け、配線作業を行います。
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塗装、艤装を実施した状態
この段階でポンプ車としてはほぼ完成です。この後、「放水試運転」をはじめ、各機能の作動検査や試運転、調整が行われます。
工程その3:社内検査から第三者機関による受託評価を実施
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社内及び第三者機関による試験。過酷な状況で使用される消防車は、厳しい基準が設けられている
各機能の作動が確認されたら、ポンプの試運転、社内検査を実施。さらに第三機関による受託評価を受け、すべて合格したポンプ車のみが発注者の元に納車されます。
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完成した車両は丁寧に磨かれた後、資機材の積込み、消防本部名やロゴ等の施工が行われ出荷される
最新の消防車は改正道路交通法の施行により生まれた
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普通免許で運転可能なCD-I型消防ポンプ車「ミラクルLight」
最新の消防車は、主にユーザーからの声や、技術の進歩により生まれますが、時に社会の変化から生まれることもあります。2018年にデビューしたモリタのポンプ車「ミラクルLight」も、社会の変化により生まれました。
2017年に施工された改正道路交通法により「普通自動車第一種運転免許」、いわゆる普通免許で運転できるクルマが、車両総重量「5t未満」から「3.5t未満」へと引き下げられました。多くの消防団で配備しているポンプ車は車両総重量が3.5t以上あり、これを運転するためには準中型免許を要します。少子高齢化により消防団員のなり手が不足している状況もあり、普通免許で運転できるポンプ車が強く求められます。
モリタは車両重量が3.5t未満のポンプ車の開発を開始。ベース車には小型でスマートな車体の「ダイナ」を選びます。ダイナはPTOを搭載したモデルがないため、モリタで設計したPTOを後から搭載し、ポンプ性能と収納スペースを確保しました。ほか、さまざまな工夫を盛り込み、コンパクトなポンプ車をつくり上げます。こうして登場した「ミラクルLight」は2021年9月現在、国内で唯一の「普通免許で運転ができるCD-I型ポンプ車」として、全国で活躍しています。
消防車メーカーにより、配備先の環境にあわせて一台一台、オーダーメードで製造される消防車たち。街ですれ違ったら職員だけでなく消防車にも、敬意と労いの言葉をかけてあげたいと感じました。
<関連リンク>
株式会社モリタホールディングス
(文:糸井賢一/写真:モリタホールディングス/編集:奥村みよ+ノオト)
[ガズー編集部]