国産消防車111年の歩み

今から111年前の1910年、「火防協会」にて日本で最初の「ガソリンエンジン式プランジャーポンプ」が製造されました。これは現代でいう消防車のポンプユニットに相当するもので、ここから国産消防車の歴史は始まります。

今回は火防協会の後継企業であり、消防業界を牽引する「株式会社モリタホールディングス(以降、モリタ)」が発行した「モリタグループ101年史(2008年発行)」を元に、国産消防車の歩んだ111年の歴史を振り返ります。

分かりやすくするため、火防協会からモリタに至るまでの下記の商号や名称、
1907年~:「火防協会」
1912年~:「森田製作所」
1918年~:「株式会社森田製作所」
1932年~:「株式会社森田ガソリン喞筒(ポンプ)製作所」
1939年~:「森田喞筒(ポンプ)工業株式会社」
1961年~:「森田ポンプ株式会社」
1997年~「株式会社モリタ」
2008年~「株式会社モリタホールディングス」
は、モリタに統一させていただきました。

国内で最初のポンプ車が登場。ベンツ自動車との技術提携により技術の底上げをはかる(1907~1945年)

1907年に創業した火防協会。「陸軍陣営消火器」や「消毒喞筒(ポンプ)」の製造と販売を行い、ガソリンエンジン式プランジャーポンプへの下地をつくります。

  • 販売当時の広告。消火器の名称が「森田式」なのは、モリタ創業者の森田正作氏が製作したことをあらわしている

1910年にガソリンエンジン式プランジャーポンプ(タイトル画像)を発表。1912年よりガソリンポンプの開発をスタートします。同年、12馬力を発揮する2気筒4サイクル(ストローク)ポンプの開発に成功し、純国産となる「森田式ガソリンポンプ第1号」を製造。そして1917年には輸入ベース車に自社製ポンプの架装を行い、モリタ初の国産ポンプ車を完成させました。

1918年、「ロータリーギヤポンプ」の開発に着手。これにより製品化された「森田式ウェアレス・ロータリーポンプ」は1919年に専売特許を取得し、のちにイギリス、アメリカ、フランス、ドイツでも万国特許を獲得しました。

  • 森田式ウェアレス・ロータリーポンプ。「油回転真空ポンプ」とも呼ばれ、クルマのエンジンに使用されるロータリーエンジンとは別物

1920年、ガソリンエンジンの高速化に伴い「タービンポンプ」の開発に成功。1922年、モリタはベンツ自動車株式会社(ドイツ)の東洋総代理店の権利を獲得しました。1924年にベンツ自動車製のベース車にポンプを架装した消防車を製作し、岡山市役所へ納入します。

1928年、国内で最初に毎分放水量が1000ガロン(3785リットル)を超えるポンプ車を製造し、第1号車を大阪府へ納入します。

  • 1000ガロンポンプ車。当時、群を抜く放水性能を誇った

時代は大正から昭和へと移り、国内でも高層の建築物が増え、はしご車の需要が高まります。モリタはベンツ自動車製はしご車の輸入販売を行う一方で自社製はしご車を研究。1933年、国内最初のはしご車を作り上げます。はしご部分は木製で、伸長60尺(およそ18メートル)まで伸びたそうです。

  • 最初の国産はしご車。

高度経済成長期に入り、技術が飛躍的に向上。世界でも指折りの性能を持った消防車が続々登場(1946~1979)

第二次世界大戦により、さまざまな分野で技術の停滞や喪失を余儀なくされた日本ですが、復興需要や経済成長により国内経済は息を吹き返し、企業も研究や開発を再開。消防車に関わる技術も急成長を遂げます。

1949年、モリタは55フィート(16.7メートル)の金属製はしごを持った3連式はしご車を製造し、第1号車を東京消防庁に納入。翌年には100フィート(30メートル級)全自動機械式金属製はしご車(4連式)の開発に成功します。第1号車は大阪市に納入されました 。

  • 100フィート級はしご車。日本で最初にはしごの長さが100フィートに達した車両。30メートルは現代の建築なら10階に相当する高さ

1953年には国内最初の放水塔車(可動する鉄塔の先端から放水を行える消防車)の開発に成功。最高伸長19.6メートル(地上高15メートル)、最大で毎分2500リットルの放水が可能で、第1号車は大阪市に納入されます。

1957年に油圧で駆動する12メートルのはしご車(2連式)を開発。1960年には、はしご車に取り付けられる油圧式の昇降機(リフター)を開発し、従来のはしご車と比べてスピーディーな救助が可能になりました。

また同年に16メートル級スノーケル車(屈折はしご付き消防車)の開発に成功します。はしご車と比べて車体の小型化がはかれ、また、せまいスペースでブーム(塔)を展開できるスノーケル車の登場は、日本の立体消防機械化に革新をもたらしたとされています。

  • 16メートルスノーケル車。はしご先端には搭乗スペース(バスケット)を備える

1961年よりモリタは消火器、消火薬剤の研究と製造を開始。化学泡消火器、強化液消火器、酸アルカリ消火器などを生産。1965年には、アメリカ陸軍調達局に化学消防車114台を納入しました。

  • 計114台の化学消防車がアメリカ陸軍調達局に納入された

1969年に15メートルはしご車を、1970年に37メートル(6連式)はしご車を開発。また同年、20メートルのスノーケル車(箱形)の開発に成功し、それぞれを自治体に納入します。アメリカの企業「スノーケル社(スノーケル・ファイア・イクイップメント・カンパニー)」との技術提携により、スクアート車(屈折放水塔車)をアジアで最初に製造。第1号車はタイに輸出されました。

1971年、16メートルのスノーケル車(箱形)を開発。同年、アジア一を誇る40メートルはしご車の開発に日本で初めて成功し、第1号車を横浜市に納入しました。40メートルはしご車は、のちにシカゴ(アメリカ)からも発注を受け、1974年に納入を果たします。

  • シカゴに納入された40メートルはしご車

消防車に要求される救助活動能力。時代にあわせて消防車の仕様も進化(1980~2021)

1980年、空港での使用を目的とし、航空機用ガソリンやジェット燃料に対応した「空港用超大型化学消防自動車」を製造。第1号車を運輸省航空局福岡空港事務所に納入します。

  • 燃料のほか旅客機のサイズや、災害が発生した際の規模の大きさなど、数々の厳しい条件のもと製造された

これまでのはしご車は、車両側ではしごの操作を行う必要がありました。はしごに登った消防隊員は大声で「右」や「前」といった指示を出し、これを聞いた隊員が車両の操作台から操作を行います。火災現場の喧噪の中、10メートルも離れた者に声を届かせる隊員の負担は高く、また操作を行う隊員にも高い操作練度が求められます。

「はしごの上から操作したい」という声に応え、1982年にはしご上の搭乗スペース(バスケット)から操作の行える「バスケット付き14メートルはしご車」を製造し、第1号車を宮城県岩沼市に納入しました。

1985年には「ジャイロ式はしご自動傾斜矯正装置」などの独創的な機構と、各種安全装置を搭載したはしご車「スーパージャイロラダーMLEX5-30」が開発されました。のちに「スーパージャイロラダー」はモリタの高性能はしご車としてシリーズ化されます。

  • スーパージャイロラダー「MLEX5-30」。次の世代を見据えた多くの先進機構、機能を搭載している

1990年、50メートルはしご車の開発に成功し、第1号車は神戸市に納入されます。1991年、専用のシャーシーを用いたはしご車「スーパージャイロラダーMH型」は、その先進性が評価され、消防車で最初のグッドデザイン賞を受賞しました。

1998年、はしご本体に「伸縮水路」を施した30メートル水路付はしご車「MLGSH4-30W」が登場。第1号車を東京消防庁に納入します。2000年に先端部が90度まで屈折する、4連30メートル先端屈折式はしご車「MLJSH4-30」の開発に成功し、第1号車は東京消防庁に納入されました。

  • 4連30メートル先端屈折式はしご車「MLJSH4-30」

2002年、消防車と救急車の機能を併せ持つ「消救車FFA-001」を発表。この消救車は改良を重ねたのち、2004年に「消救車FFA」として製品化されます。

2003年にポンプの操作と稼働状態の把握を容易にする「e‐モニター(ポンプ操作表示装置)」が登場。同時期に消火効率を水の8倍まで高めたキャフス装置「Cafsper 8」搭載の消防車を発売。またこの年、バスケット・リフター付の先端屈折式30メートルはしご車「MLJSH5-30S」が製造され、第1号車は青森県三沢市消防本部に納入されました。

2004年、ポンプ車「CD-1α」と、はしご車専用シャーシー「MHⅡ Max.」の販売が開始されます。同年、次世代はしご車(30メートルはしご車)の試作モデルが登場。このはしご車は改良を重ねたのち、2006年に「MLK4-30」として製品化され、30メートルの高さまで20秒で到達できる性能を有した第1号車はベトナムに納入されました。

  • 「MLK4-30」。はしごの先端部にはバスケットを取り付けることができ、360キロの荷重に耐えられる

2007年、新型ポンプ車「Miracle CAFS Car」を開発。少量の水で発揮される高い消火性能が評価され、全国の消防本部、消防学校、消防団、企業より受注し、2021年4月までに2000台以上が配備されています。

  • ポンプ車「Miracle CAFS Car」。消防用水が確保しづらい地域等に、うってつけの性能を持ち、鎮火後、設備への水損被害も少なくできる

日本に住む以上、自然災害は避けることができません。特に1995年に発生した阪神淡路大震災以降、消防車に「消火活動だけでなく、救助活動も行える機能が欲しい」という声が大きくなります。この声に応えるべく、2008年に登場したのが多機能型消防車「REDSEAGULL」です。

  • 状況にあわせて資機材を載せ替え、消火活動から救助活動まで対応する「REDSEAGULL」

多種多様な資機材の積載が可能で、単独での消火活動から大型ポンプ車の補佐、被災地での救助活動まで幅広く活動することができます。また同2008年、後部開閉扉式の消救車も開発され、消火活動にとどまらない、今後の消防車の有り様を示しました。

  • 後部開閉扉式消救車。小型ポンプを搭載しており消火活動も行える。ルーフ上には回転灯も装備され、たとえば火災現場で救助した怪我人を、そのまま救急車として病院に運ぶことができる

高齢化による消防団員の不足、温暖化による自然災害の変化など、私たちを取り巻く環境はめまぐるしく変わり、消防車に求める仕様や機能も変化します。

多様化する災害に対応し、ひとりでも多くの人命を救うため、モリタをはじめとした消防車メーカーは研究を続け、時代に即した消防車の製造を続けています。

<関連リンク>
株式会社モリタホールディングス

(文:糸井賢一/写真:モリタホールディングス/編集:奥村みよ+ノオト)

[ガズー編集部]

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