高速道路のトイレ最新事情を取材! NEXCO中日本の「おもてなしトイレプロジェクト」

高速道路を走る際に欠かせないのが、サービスエリア(以下、SA)、パーキングエリア(以下、PA)のトイレ。近年では、清掃が行き届いているのはもちろん、温水洗浄便座の設置やトイレの空き状況が一目で分かるなど快適さが向上しています。NEXCO中日本の「トイレおもてなしプロジェクト」の取り組みもその背景の一つです。
「トイレだって、旅の一部」という思いとともに、施設の改善、清掃の工夫など快適で美しいトイレ空間の提供をめざすNEXCO中日本の広報担当者にお話を伺いました。

近代化トイレが日本で初めて導入されたのは、日本平PA

  • 現在の日本平PAのトイレ

数十年前の高速SA・PAのトイレは、薄暗くて、今ほどきれいとはいえない印象だったのを覚えているでしょうか。このイメージが刷新されたのは2005年に道路公団が民営化され、NEXCO中日本が誕生した後のことだそうです。トイレの美化を強化し始めたきっかけをお聞きしました。

「民営化以降、グループ会社が始めた”KSN作戦”がきっかけです。キレイ・清潔・臭わない、をキーワードに施設の改修や清掃方法の工夫、清掃スタッフの育成に努めました。道路公団時代のトイレは、”用を足せれば良い”という認識でしたが、民営化の翌年、“お客さまサービスの向上には、トイレ整備が大切”という理念のもと、専門家を交えて本来あるべきトイレのコンセプトを検討しました」(担当者)

生まれた基本コンセプトは、「より快適で便利で楽しく美しいトイレ」でした。そこから高速道路のトイレを劇的に変化させるべく、ロビー空間の整備、床材のゴム化、洋式便器の比率拡大、温水洗浄便座の設置などに取り組み、最初に改修されたのは、2008年東名高速道路・日本平PAのトイレでした。

「日本平PAを改修した結果、お客さまから高い評価をいただくことができました。以降、NEXCO中日本では、この時の新コンセプトに基づいてトイレの新設・改修が進められています」(担当者)

トイレのエリアキャストは、清掃とおもてなしのプロ集団

  • トイレのエリアキャストがトイレ診断士から清掃方法の指導を受ける様子

トイレ設備を改修するだけでなく、清掃するスタッフを「エリアキャスト」と呼称し、一人一人の技術向上にも取り組みました。

そこで実施されたのは株式会社アメニティが導入した「トイレ診断士®」によるトイレの総合診断です。2003年に厚生労働省の社内検定制度で認定されたトイレ診断士は、トイレで発生しうるトラブルを予防し、効率的かつ衛生的にトイレを維持管理するという考え方を持つ、トイレの専門家です。
トイレ診断では、臭気、換気、照度、湿度、不快指数など見た目の汚れだけではない総合診断を行い、結果を数値で示します。これを年に一度、NEXCO中日本のすべてのSA・PAで実施しているというから驚きです。

「トイレ診断士の指導により、トイレの清掃品質は年々向上しています。個室内床面の一方向拭きや便器の種類に応じて汚れが蓄積しない清掃方法の指導を受け、継続してお客さまが快適にご利用いただけるよう努めています」(担当者)

  • EXPASA海老名のトイレのエリアキャストのみなさん

また、トイレ診断士の指導により清掃スタッフ全員のレベルアップを図るNEXCO中日本。特にエキスパートが揃うのは東名・EXPASA海老名のトイレエリアキャストです。

多い時で、1日約6万人が訪れる日本一利用者数の多いSAのため、トイレの便器数が多く、男女合わせて224個設置しています。しかし、トイレのエリアキャストはわずか7人。少数精鋭のメンバーで美しさを保っているそうです。

利用者の多いEXPASA海老名は掃除のタイミングが非常に難しいのですが、午後、利用者が引いた一瞬のタイミングを見計らって、素早くキレイに徹底的に基本清掃(1日1回行う、洗剤やブラシを使ったいわゆるトイレ掃除)を実施。
巡回清掃(1日6~7回定期的に見回り、トイレットペーパーの補充や汚れた部分の清掃を行う)も海老名SAだけは24時間体制で行っています。

そして、エリアキャストは清掃の技術だけでなく、マナー研修やサービス介助セミナーを実施しています。あいさつや気遣いなどホスピタリティの基礎を学び、コミュニケーションスキルの向上を図っているそうです。

「キャスト全員がおもてなしの心とエリアの顔であるという意識を持ってもらうよう取り組んでいます」(担当者)

進化した最新型のトイレ

では、今回はNEXCO中日本管轄の特徴的なトイレをいくつかご紹介します。

  • NEOPASA駿河湾沼津(上り)のトイレとパウダールーム

まずは、NEOPASA駿河湾沼津(上り)の商業施設の2階にあるトイレです。おしゃれな照明や鏡は華やかさを演出するデザインで、“まるで西洋のお城のような空間”だと女性に大好評。パウダールームは、座ってゆっくりとメイクができるよう1台ずつのスペースが確保されています。

EXPASA足柄(下り)に、「清掃依頼ボタン」があるのはご存知でしょうか? 細やかにトイレエリアキャストが清掃していても、利用者が先にトイレの汚れを発見した場合、速やかに対応できるよう実験的に実施している取り組みです。

清掃依頼ボタンを押すと、わずか数分でエリアキャストが到着。汚れている箇所を確認して、清掃を実施。この間、約15分で対応しているそうです。(夜間・混雑時等はスタッフの確認が遅れる場合あり)

  • NEOPASA清水のパウダールーム

デザイン、機能面で高く評価され、日本トイレ大賞「国土交通大臣賞」を受賞したのは新東名高速道路 NEOPASA清水のトイレです。
ユニバーサルデザインが施された快適なロビー空間や使いやすいパウダールームなどの設備に加え、評価の対象となったのが「最適トイレ数」の算出方法でした。
こちらでは利用者の声を踏まえて設定した「2分以上お待たせしない」をコンセプトに、トイレ利用率のログデータを集め、そのビッグデータを独自のロジックで解析。多すぎず、少なすぎず、行列ができないトイレ数を設置しました。この算出方法は、NEOPASA清水以外にも、新東名高速道路の各SA・PAで導入済みです。

誰にとっても、やさしいトイレを目指して

  • NEOPASA岡崎は、上下線によってトイレの外観を変えている

NEXCO中日本の同プロジェクトでは、美化だけでなく、誰にとっても使いやすいトイレを目指しています。NEOPASA岡崎は広大な敷地に上下線の休憩施設が一体的に整備されており、混雑時の円滑な動線を確保するため、それぞれのトイレ棟ロビーが一体の空間となるよう配置しています。

しかし、上下線が一体的に整備されたSAの場合、駐車場の形状がほぼ同じなので駐車場所の方角に迷うことがあります。その対策として、上下線各々のトイレにコンセプトを持たせ、外観・内観に大きく異なる意匠を採用して、迷わないように工夫しているそうです。設備面では、汚物流しや着替え台などを備えた「オストメイト対応ブース」、小さな子ども向けの「キッズトイレ」などを整備しています。

誰もが快適に利用できるトイレの整備に向けて「バリアフリー」「快適性」「メンテナンス性」の3点を柱としてトイレの新設・改修を進めていますが、最後に今後の取り組みについて伺いました。

「今後も引き続き3つの柱を推進していきますが、中でも“快適性”では、トイレブース内で急病により動けなくなったお客さまや忘れ物の早期発見を目的に、シルエットによりAI識別を行う“アウトラインセンサー”を開発し、整備を進めています。さらに、近年では “国際化”も新たな柱の1つとして注力しています。文化が異なる訪日外国人のお客さまに対し、使い慣れない日本のトイレの利用方法や温水洗浄便座の操作方法などについて、14カ国語で説明する多言語タブレットを開発し、整備を進めています」(担当者)

いまなお進化が止まらないNEXCO中日本のトイレおもてなしプロジェクト。こういった取り組みやトイレエリアキャストの皆さんの姿勢を知ると、トイレに立ち寄ることがドライブの楽しみのひとつとなるかもしれませんね。

<関連リンク>
NEXCO中日本 美化ピカトイレのヒミツ!

(取材・文:笹田理恵 写真提供:NEXCO中日本 / 編集:奥村みよ+ノオト)

[ガズー編集部]

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