スノープラウってどのような構造? 免許は必要?
雪が降ったときに大型の除雪車ではなく、SUVやトラックのフロントに後付けされた雪かきで除雪作業をしているのを見かけることがあります。この雪かき(除雪板/スノープラウ)はどのような仕組みで動いているのでしょう。
日本国内で防衛省や空港でも使用されているアメリカ・メイヤー社のスノープラウを取り扱う、株式会社サン自動車工業CS本部 入江智宏さんにお話を聞きました。
除雪板・スノープラウを上下左右に動かして道路上の雪を押す
―― 一般的な除雪車ではなくクルマの前側に雪かきの板をつけているものを見かけることがありますが、あれはどういうものなのですか?
スノープラウという着脱可能な除雪板になります。弊社で取り扱っているメイヤー社のスノープラウで説明しますと、構造としては雪を押す部分である除雪板(モルドボード)、除雪板を上下左右に動かす電動式油圧ポンプ、そして、除雪板と油圧ポンプ、クルマをつなぐためのブラケット類から成り立っています。
ブラケット類は車両側に固定された取り付け部品と除雪板の下にあるフレーム……Aの形をしているのでA型フレームと呼んでいますが、この2つに分かれています。
クルマ側の取り付け部品とA型フレームを固定して除雪を行いますが、この部分は簡単に取り外しができます。ですから、冬は除雪作業車として、雪のない季節は普通の乗用車やトラックとしてクルマを利用できます。
架装の手順としては、まず取り付け用のブラケットをクルマ側に装着する。それから除雪板の部分を取り付ける。そして、バッテリーの電源とスノープラウをつなぐ電気的架装作業を行えば動かすことができます。
――手動式のスノープラウは文字通り手作業で除雪板の角度を動かすようですが、この電動のスノープラウはどのように動くものなのですか?
車内からのコントロールスイッチの電気信号ですべての動きを制御しています。仕組みとしては、メインの油圧ポンプの上に出ている軸から鎖で除雪板がつながれており、ポンプ内のシリンダーを上下することで鎖で吊られた除雪板が上下に動きます。
左右の動きはA型フレームの両側についている黄色いシリンダーが伸び縮みして除雪板を左右に振る動きをします。例えば、左側が縮んで右側が伸びることにより除雪板は左側に傾きます。右側に傾けたい場合は逆の動きをするわけです。除雪板を取り付けるとヘッドライトが隠れてしまうので、補助用のヘッドライトもあり、その操作もコントロールスイッチで行えます。
――除雪板を上げたり下げたり傾けたりという動きで除雪を行うのですね。
通常ですと日本は左側通行なので除雪板を左側にちょっと傾けて走ることによって、道路わきに雪を押し付けるようにして除雪を行います。除雪板を平行にしてしまうと、雪がどんどん前にたまってしまいます。ブルドーザーや大型除雪車ではないので、雪の重さでクルマが動かなくなってしまいますから除雪板は傾けていきますね。
――電動式のスノープラウはバッテリーには影響はないのですか?
クルマはエンジンがかかっていればオルタネーターで発電していますからバッテリーへの負担はありません。基本的にスノープラウは走っている状態で使用するものですから大丈夫です。
豪雪地帯よりも雪が少なめの地域、空港の滑走路などで活躍
――スノープラウはどういった地域やシーンで利用されていますか?
豪雪地域でというよりも、甲信越地方などの“雪は降るけれどそんなに積雪量は多くはない”地域での利用が多いですね。
――そういえば、札幌市内ではあまり見かけることがありません。
北海道などでは本格的な除雪車が完備されていますから。スノープラウのメリットは大型の除雪車が入っていけないような細い道でも作業ができるところ。ですから、例えば、長野県軽井沢町のような入り組んだ私有地区画の多いところなどでは重宝されています。
町役場のトラックにつけて除雪をして、春になったら除雪板の部分を外して普通のトラックとして使うことができるわけです。除雪板部分がシンプルな構造なので男性が2~3人いればひょいっと脱着ができますから。
また、航空自衛隊の基地や空港でも活躍しています。空港にはトーイングトラクターという空港専用の小型の車両があるのです。空港内でコンテナを運んでいるクルマですね。それに取り付けて降雪時に除雪を行います。羽田空港、成田空港などにも30台くらい装備されていますよ。
特別な免許は不要。でも、練習は必要
――スノープラウを架装したクルマに乗るには特別な免許は必要なのですか?
それは一切いりません。普通免許でOKです。
――コントロールスイッチで操作するとのことですが簡単に操作できるものですか?
意外に簡単に操作できますよ。多少の慣れは必要かと思いますが。道路に合わせて除雪板の角度を調節してそのまま雪を押していくだけですから。ただ、さすがに「クルマで雪をかく」という作業自体が初めての場合はある程度、私有地で練習してから公道に出てくださいね。
――そうですね、いきなり公道は無理ですよね。
でも、慣れてしまえば小回りがきいて細い道でも一気に除雪ができますよ。
クルマの構造の移り変わりにより取り付け方法にも変化が?
――公道を走るための届け出はどうするのですか?
各地の陸運支局で架装を完了したクルマの改造申請登録を行います。ノーマルの車両をキャンピングカーに改造するときの申請と同様ですね。申請が通れば公道を走ることができるようになります。
ただ、以前はスノープラウの適合車種は多かったのですが、近頃の最新のクルマは取り付けがなかなかデリケートになってきています。
まず、フロントに重量物を架装して障害物に除雪板が当たるとエアバックが作動してしまいます。そのあたりの調整もしなければなりません。
そして、クルマの構造自体も変わってきています。以前のランドクルーザーやパジェロなどはラダーフレーム構造といってトラックと同じようなハシゴ状のフレームを元にボディーを組み上げていっていた。要するにフロントからクルマ全体が一本の筋のように頑丈にできていたわけです。
対して、ここ最近のクルマはフレームとボディーが一体化したモノコックボディーで、しかもフロント側は衝突安全性を考慮して何かにぶつかるとぐしゃっとつぶれるような構造になっているのです。ですから、フロントにスノープラウのような重量物を架装するにはあまり向いていません。
ですので、これまでのような取り付け方法では難しくなっていくとも考えられます。今後は、より軽量なスノープラウのユニットを考え、これからの車両にどう取り付けていくか……というところだと思っています。
細い道路や空港などで活躍するという着脱式の除雪板スノープラウ。普段、雪のあまり降らない地域でも効率よく除雪ができ、さらに雪がない季節もクルマを有効に使用できるスグレモノです。クルマの構造の変遷により課題や改善点も多そうですが、これからも思わぬ雪に対応して活用できるとよいですね。
<取材協力>
株式会社サン自動車工業
(取材・文:わたなべひろみ/写真:株式会社 サン自動車工業/編集:奥村みよ+ノオト)
[ガズー編集部]
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