BRTってなに? バスと鉄道を組み合わせた、利便性と柔軟性を兼ね備えた地域の足

  • BRT(Bus Rapid Transit バス ラピッド トランジット)

昨年、北海道新幹線の延伸に伴い、北海道の余市~小樽間のBRT化案が浮上するなど、各地域の公共交通手段の確保のために注目を集めているBRT(Bus Rapid Transit バス ラピッド トランジット)。
10年ほど前からBRTを導入しているJR東日本 鉄道事業本部 運輸車両部 BRT運行計画Gの小和田明宏さん、榎本隆司さんにBRTの仕組みや利点などを伺いました。

BRT(Bus Rapid Transitバス ラピッド トランジット)とは?

――BRT(Bus Rapid Transitバス ラピッド トランジット)とはどういうシステムなのでしょうか?

日本では明確に「これがBRTである」という基準は特に決められていません。国土交通省の考え方によると、バスの専用道や専用レーンを利用し、定員100名以上の連節バスの導入などを組み合わせて、輸送力や利便性を高めるシステムです。

東京BRTのように、専用道や専用レーンはなく、主に連節バスを走らせるといった形で導入しているところなどもあります。

  • 複数の車体がつなぎ合わされた連節バス

実際に運用されている気仙沼線や大船渡線のBRTは、専用道と一般道との組み合わせで運行しており、バスは連節バスではなく一般的なバスを利用しています。専用道は日本で一番長く確保され、高い定時性を保っています。

東日本大震災の被災地の足をいち早く確保するために

――なぜ気仙沼線・大船渡線にBRTを導入されたのでしょう。

2011年に発生した東日本大震災と津波により海岸沿いを走る気仙沼線・大船渡線は甚大な被害を受けました。震災からの復興を急ぎ進めたいところだったのですが、鉄道というものは津波からの安全などをふまえて復旧するとなると、時間もお金もとてもかかるものです。

また、鉄道は全線が完成しなければ開通できません。そして線路は一度敷いてしまうと簡単に動かすことはできないため、町づくりのプランができあがらないうちには、おいそれとは線路を敷けないわけです。

  • 気仙沼線・大船渡線を走るBRT(Bus Rapid Transit バス ラピッド トランジット)のバス

    復興作業真っ只中の現場の横を走る

ところが、地元の高校生たちは震災の直後からでも学校に通わなければならないため、交通手段の確保は必須です。震災以前から気仙沼線・大船渡線は、主に高校生たちの大事な足でした。
そこで、鉄道ができるのを待つよりは「まずBRT!」ということで、専用道ができた部分から供用開始していくというシステムを各自治体に提案し、仮復旧という形で気仙沼線は2012年から、大船渡線は2013年よりスタートしました。

――その後、町づくりとBRTの関係はどのようになっていったのですか?

この路線の専用道は鉄道の線路をはがしてアスファルトを敷いてつくっています。ですが、特に大船渡線は元々鉄道のあったところは津波の被害の大きいところだったので、そこに再び町をつくるのではなく、別の場所に移転するというケースが多くありました。
復興後の町づくりの計画や自治体からの要望もふまえながら、BRTの走行ルートを設定していった結果、一般道を多く走るルートとなり、専用道の割合は約4割となっています。

そして、町役場や病院など新しい施設ができると、専用道からいったん出てその施設のところに作った新駅を経由して専用道に戻ってくるといった走り方をしています。近頃でしたら、新設された道の駅を経由してほしいというご要望にお応えすることもありますね。

  • 鉄道のホームにBRT(Bus Rapid Transit バス ラピッド トランジット)のバスが直接乗り入れる盛(さかり)駅

    鉄道のホームにBRTが直接乗り入れる盛(さかり)駅

――地元の町と一緒につくり上げてきたBRTなのですね。

そうですね。震災後の一番の目標は復興ですから、我が社としても最大限に協力していきたいという思いがありました。また、利用いただきやすい場所を通らないとお客さまに乗ってはいただけません。各自治体のご要望に極力お応えしながら一緒につくってきたということになります。

専用道による利便性と経由地を自由に変えられる柔軟さ

――BRTの主な利点はどのようなところですか?

鉄道時代は単線のローカル線でしたので、列車のすれ違いができる駅が限られているため、列車の本数を簡単には増やすことはできませんでした。ですから、ホームに駆け込んでタッチの差で乗り遅れたら、次の列車の時間まで3時間待たなければならないということもよくありました。

しかし、BRTですと、専用道になっても通れるのはバス1台分と変わりありませんが、すれ違いスペースを各所につくってありますので、上り下りの便を上手くすれ違わせて、結構な本数を走らせることができます。
BRTでは1台の輸送量は鉄道にはかないませんが、朝の時間帯などは増便し、同じ時刻に2台走らせる、次の便が来るのを10分後にするなど、利便性を確保してきました。

  • 専用道を走るBRT(Bus Rapid Transit バス ラピッド トランジット)のバス

    専用道を走るBRT車両

鉄道は全線工事が完了しなければ開通することができませんが、BRTは専用道が一部区間できれば、できていないところは一般道を走るといった形で融通が利きます。また、鉄道よりも新駅の設置や状況に応じて経由地を変えることができる柔軟さもあります。

――では、利用者の皆さんにも好評なのですね?

おかげさまで、一番の利用者である高校生を中心にご好評いただいています。現時点では、仮復旧ではなく、BRTで本復旧ということを全自治体にも受け入れていただきました。BRTとして運行するようになり約10年、今では鉄道時代を知る高校生たちもいなくなってしまいましたね。

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メリットデメリットを見極めそれぞれの地域にあった交通システムを

――BRTはこれからの交通システムとして非常に注目されていますね。

赤字ローカル線など地方の交通問題を抱えているところは全国各地いたるところにあります。その解決策のひとつとしてBRTの視察に多くの方がおいでになります。
BRTは被災地の復興に合わせて、鉄道よりも融通の利くシステムであることや、鉄道よりもコスト面で低く抑えられるというメリットがありました。

ただ、当初予想していなかったデメリットもあります。それは、深刻なバスドライバー不足です。そこで、自動運転システムの研究・開発にも着手し始めています。

BRTは震災後の気仙沼線・大船渡線には適したシステムでした。しかし、それぞれの地域によって抱える問題の種類も状況も違います。
例えば、渋滞があまりない地域であればわざわざお金をかけて専用道をつくる必要はないかもしれません。雪の降る地域であれば、専用道の除雪も自分たちで手配しなければならないでしょう。
それぞれの問題について丁寧に向き合って、ベストな交通システムを選択していくとよいのではないかと思っています。

被災地の復興にひと役かったBRT。その柔軟性や利便性の高さは今後の地方の交通問題を解決に導くヒントとなるでしょう。
ただ、やはり大切なことは、その地方独自の交通問題を分析し判断することなのだと思います。重要なそれぞれの地域の足を失わないよう考えていきたいものです。

<取材協力>
JR東日本
気仙沼線BRT・大船渡線BRT(バス高速輸送システム)

(取材・文:わたなべひろみ/写真:JR東日本 /編集:奥村みよ+ノオト)

[GAZOO編集部]

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