その暑さでギネス世界記録に登録!?新車開発テストも行われるデスバレーってどんなところ?

「デスバレー」という地名を聞いたことがあるでしょうか。アメリカ西部、カリフォルニア州の東側(一部はネバダ州)にある乾燥地帯で、1万3158平方キロメートルという面積はアメリカの国立公園としては最大の広さ。そこはとにかく暑く、その暑さこそがデスバレーの知名度を高めています。

  • デスバレーはアメリカでもっとも大きな国立公園。

ギネス世界記録に認定されている世界で観測されたもっとも暑い記録は56.7℃。
何を隠そう、それが記録されたのがここ、デスバレーです。

最高記録が観測されたのは、1913年7月10日と100年以上前のこと(そのため正確な計測ではないという議論を呼んでいる)ですが、デスバレーでは2020年8月と2021年7月にも54.4℃(こちらは正確な観測)を記録。
これが近年において公式に記録された“世界でもっとも高い気温”とされていて、すなわち「デスバレーが世界一暑い場所」と思ってよさそうです。

デスバレーってどんな場所なの?

デスバレーは日本語でいえば「死の谷」。山に囲まれた谷のような場所ですが、谷とはいっても山と山の間隔は広く、どちらかといえば谷というよりも盆地。とにかく見渡す限りの荒野で、ビジターセンターやホテルなど、わずかな建物と道路を除けば人工物はありません。

  • 自然の前に人間はなんともちっぽけな存在なのだ…ということを感じさせる広大な自然

地形的な特徴は、標高が低いことで、もっとも暑くなるのは標高が一番低い地点。そこは海抜マイナス86メートルという低さです。谷ということもあり、空気の循環が妨げられて熱気が逃げないうえに、太陽光を吸収する植物がほとんど存在しないことから、灼熱になっているといわれています。

ちなみに「死の谷」と呼ばれるのは、1849年のゴールドラッシュ時に、西海岸を目指して東から移動する途中で迷い込んだ開拓者が、酷暑と水不足により、この地で命を落としたことが由来になっているのだとか。

自動車メーカーが開発テストで訪れるのはどうして?

クルマ好きの方なら「デスバレー」という名前を耳にしたことがあるかもしれません。なぜなら、自動車メーカーが新車開発におけるテスト走行で訪れる定番スポットだからです。

  • スーパーカーのブガッティ「シロン」も開発中の2016年にデスバレーで熱対策のテストを敢行。放熱性能を確認するため、4台の試作車が約1カ月かけて、3万5000キロを走行したそうです。(写真:ブガッティ)

なぜ自動車メーカーはデスバレーでテスト走行を行うのか。その理由は「暑いから」です。
暑さはエンジンやトランスミッション、そしてエアコンなどクルマのいろいろな部分に負担をかけ、時にはトラブルの原因にもなります。そこで、暑い場所でも不具合がないかを確認するために、発売前の試作車両でデスバレーへ出かけるのです。

  • デスバレーにはアメリカの自動車メーカーのみならず、欧州や日本のメーカーもテストに訪れます(写真:BMW)

暑さを体験するだけじゃない。ダイナミックな絶景が待っている

一方で、デスバレーは観光名所にもなっています。その“灼熱地獄”を体験してみようと、アメリカ国内のみならず世界各地から多くの観光客が訪れます。
筆者が訪れた際も、クルマの外気温時計は最高で華氏119度(約48℃)を示していました。50度越えとはいきませんでしたが、これでもかなりの暑さで、外に立っているとまるでドライヤーの熱風を吹き付けられているような感覚。なかなか味わえない体験です。

  • 筆者が訪れた日の最高気温は、車載の温度計で華氏119度。摂氏だと48度を超えます。それでも車両の水温は安定しているのだからさすが。

ただし、日本の夏の暑さと違って、湿気がほぼないので、ジメッとしたり汗でベトベトになったりはしないので不思議な感覚。汗はかいたはなから蒸発するようです。だから温度の割には意外と快適に感じられます。

しかし、すごいのは暑さだけでありません。

  • 灼熱で危険なので「午前10時以降の散策はおすすめしない」という注意看板。日本語でも書かれています。ちなみに地面の白く見える部分は塩。

見渡す限りの荒野、一方で盆地を囲む標高2000mに達するほどの山脈、さらには自然が隆起や浸食などによって長い年月をかけて作り出した風光明媚な地形など、ダイナミックな風景は見応えたっぷり。大自然を実感できる絶景スポットなのです。また、運転好きなら「見渡す限りどこまでも続く直線道路」にも感動できることでしょう。

デスバレーでドライブを楽しむために。ガス欠に要注意!

クルマ好きなら「新車テストの聖地」として興味を掻き立てられると同時に、クルマに興味のない人でも大自然を満喫できること間違いなしのデスバレー。

公共交通機関はないので、訪れるならツアーもしくは自分でクルマを運転して、ということになります。おすすめはレンタカーを借りて出かけること。運転することで「広大さ」を実感でき、日本では味わえないドライブが楽しめます。交通量も少なく、道はかなり運転しやすいです。しかし、暗くなると孤独感に襲われ急に不安になってくるので、日没前には国立公園の外へ出たいところ。

  • 荒野の中の一本道をドライブするのは楽しいですが、ガス欠には要注意。携帯電話は基本的に通じません。

もっとも近い大都市はラスベガスで、国立公園内まで片道約2時間半(200km弱)。ロサンゼルスからだと約4時間半(400km程)のドライブです。ただし、それは「国立公園内の移動」を含まないもの。国立公園内も大移動となるので、ラスベガスからは日帰りドライブも可能ですが早朝出発が必須。ロサンゼルスからは1泊以上が望ましいでしょう。

気を付けたいのは距離感。なにせ国立公園の広さは「長野県とだいたい同じ」です。地図を見て「簡単に行けそう」と思っても、それは距離感がおかしくなっているからで、実際には想像以上に時間がかかると思っていいでしょう。そのため、ガソリンは国立公園に入る前の最後の街で満タンにしておくのが安心。国立公園内にはガソリンスタンドがほぼありません。

  • デスバレーは国立公園なので、入場料が必要。入場料30ドル(2022年7月時点)を、公園入口にある無人のチケット発券機にて支払います。

また、トラブルへの備えも考える必要があります。デスバレー内で万が一クルマのトラブルが起きた場合、電話で助けを呼ぶことができません(ごく一部を除き携帯電話は圏外)。
たまたま通りがかった人に助けてもらうか、巡回しているパークレンジャーに救助してもらうしかないのです。そんな状況では、灼熱地獄に身体が長時間さらされる危険も。だから、多めの水と非常用の食料はクルマに積んでおきましょう。

  • 海がないのに「海面の高さ」とはちょっと不思議な気分。

筆者がデスバレーに出かけたのは6月下旬。もっとも暑い時期とされる7月から8月にかけてではありませんでしたが、約48℃というとんでもない暑さを体験できました。

一方でクルマは、一切のトラブルを起こさず走り、水温は安定し、エアコンもしっかりと効くことに感動。自動車メーカーがデスバレーでテストを繰り返した成果を実感しました。クルマ好きとしては、発売前のテストカーにも遭遇できたらいい思い出になりそうですね。

(文・写真:工藤貴宏 写真:ブガッティ、BMW 編集:奥村みよ+ノオト)

[GAZOO編集部]

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