中央道に支線があること知ってますか?
中央自動車道(以下 中央道)は、東京都杉並区の高井戸ICから愛知県小牧市の小牧JCTまでを結ぶ、約344キロの高速道路です。
主な都市でいうと東京~名古屋を結んでいることもあり、起点と終点がほぼ一緒の東名高速道路(以下 東名)と並んで、古くから日本の交通を支えている高速道路であります。
中央道は、山梨県大月市の大月JCTから甲府・名古屋方面の本線と河口湖・富士吉田方面の支線に高速道路が分岐しているのです。
多くの高速道路では、分岐すると高速道路の名称が変わりますが、大月JCT~山梨県富士吉田市の 富士吉田ICまでは、中央道富士吉田線という名称で呼ばれていて、中央道の名前を踏襲した支線となっています。
そのため、中央道は344キロに、大月JCT~富士吉田ICの23キロを加えた377キロが正しい総距離となっていて、本線と支線の起点からの距離をわかりやすく分けるために、支線の中央道富士吉田線は高速道路上に設置されているキロポストが、高井戸ICからの距離にプラス300された数字が使用されています。(たとえば、高井戸ICから70キロ離れた地点なら、370キロポストと表示されています)
中央道富士吉田線は、富士吉田ICで終点をむかえますが、その先は山中湖を通って静岡県小山町の須走ICまで東富士五湖道路とよばれる有料道路がつながっております。
高速道路で支線は意外に少なく、ここまで長い距離で正式に支線と呼ばれる高速道路は、中央道くらいです。では、なぜこのような支線ができたのでしょうか。
中央道に支線ができた経緯は中央道が開通する前の、構想の段階までさかのぼることになります。
もともとは本線になる予定だった
中央道富士吉田線はもともと中央道の本線として予定されていたルートでした。
時は戦後、静岡出身の実業家田中清一さんの働きによって1954年に「国土開発中央自動車道事業法案」が国会に提出されます。こちらのルートは、大都市である東京と兵庫県の神戸間をとにかく最短ルートで結んで、そこから枝分かれのような支線を作って、経由地の都市を結ぶ計画でした。
東京~神戸を最短で結ぶとなると、山梨県の河口湖・富士吉田付近を通り南アルプスを一直線に突っ切って、長野県の飯田市につなぐ必要があり、当初の構想も、そのルートで計画がされていました。つまり、現在の支線を通るルートで計画されます。
その後、「国土開発中央自動車道事業法案」は残念ながら廃案となりますが、今度は衆議院議員らによって「国土開発縦貫自動車道建設法」が提出され、形を変えつつ1960年に法律が成立、1962年にいよいよ中央道の高井戸IC~富士吉田ICに施行命令がでて、建設が開始されます。
中央道の建設計画は順調にいっているかに思えた矢先に、予算の問題が沸いてでてきます。南アルプスを貫くには莫大な工事費がかかるのと、周辺の主だった都市がないため交通量が期待できないなどの理由から、不利益な投資だという声があがります。
当時の日本は戦後で資金があまりなく、さらに1962年に中央道と同時期に施行命令がでていた東名高速道路(以下 東名)の建設が順調だったこともあり、中央道不要論が浮上したのです。
実は、当時の建設省は国道1号線の交通量の限界や経済的効果の観点から、東京~名古屋は東名ルートを推進していて、当初は構想になかった東名の建設法案を成立させ、施行までこぎつけたのです。
工事が難航なうえに強力なライバルの出現と、開通にむけてさまざまな困難と直面することになる中央道、果たしてこの先どうなるのか。
中央道のルートが建設途中で変更となり支線となる
そんななか、中央道開通にむけて1人の男が登場します。当時、中央自動車道建設推進委員会の委員長だった、長野県出身の青木一男さんです。青木さんは、いままでの中央道の構想ルートを変更する案を提案します。具体的には、従来の南アルプスを貫くルートから長野県諏訪市を回るルートに変更するというものでした。
中央道を諏訪回りにすることにより・・・
- 従来のルートより距離が60キロほど延長されるが、工事費を約1000億円節約できる
- 山梨県や長野県の比較的人口の多い都市の近郊を通るため、多くの利用者がみこめる
- 諏訪より先の長野県松本市や長野市、日本海側へのアクセスに便利
などのメリットが期待できました。さらに、東名の建設が順調に進んでいることもあり、当初の東京~神戸を最短で結ぶ意味も薄れてきていたのです。
青木さんは、さっそく山梨県と長野県に調査費の一部を負担する了承をとって、諏訪回りのルートの調査に入ります。そして、1963年の、中央自動車道建設推進委員会の場で諏訪回りルートをほぼ委員長の独断で提案します。
とはいってもこの段階では、すでに山梨県や長野県の了承はとれていて、沿道の主だった都市の市長も賛成します。唯一、反対したのがルート変更により近郊でなくなる山梨県身延町の町長でしたが、結局山梨県知事になだめられる形で、ついに中央道は諏訪回りルートへと変更が決まったのです。
こうして、翌年の1964年に「国土開発縦貫自動車道建設法」の一部が改正されて、中央道は全線開通にむけて着実に進んでいきました。
ルートが変更になったものの、すでに高井戸IC~富士吉田ICまでの施行命令がでていて、建設も進められていたため、大月JCT~富士吉田ICは中央道の支線という形で建設されることになり、1969年に東京都八王子市の八王子IC~現在の山梨県富士河口湖町の河口湖ICの開通、1977年の大月IC~現在の山梨県甲州市の勝沼ICの開通により、中央高速道路の支線が誕生したのです。
2021年4月、支線の先の自動車専用道路が開通して、東名や新東名までのアクセスが格段によくなりました
こうして中央道の支線となった中央道富士吉田線。その先の南アルプスを貫くルートは夢物語となってしまいましたが、その後新たな動きが生まれます。
1989年に、河口湖ICから山梨県の山中湖を経由して、静岡県小山町の須走ICまでつながる、東富士五湖道路が全線開通します。これにより、静岡県の御殿場方面へのアクセスがよくなります。
静岡県の御殿場市というと、かつて高速道路建設のライバルだった東名の御殿場ICがあるため、アクセスがよくなることによる経済効果ははかりしれないものがあります。
さらに、2021年4月には新東名高速道路(以下 新東名)の新御殿場ICの開通にあわせて、東名の御殿場IC近郊から須走ICまでを結ぶ自動車専用道路、御殿場バイパスと須走道路が開通して、より御殿場までのアクセスがよくなりました。
これにより、従来より通常の時間短縮に加えて、須走IC~御殿場ICの交通量が緩和され、開通前に比べて富士吉田IC~御殿場ICで、最大約20分前後所要時間が短縮されました。
所要時間の短縮により、御殿場から先の箱根や伊豆などの観光地へも行きやすくなり、たとえば富士吉田ICから伊豆地方の入口となる静岡県沼津市まで、約1時間でいけるようになったため、観光できる範囲が広がったことも大きいといえます。
また、災害などによる高速道路の通行止めや渋滞時の中央道・東名双方の迂回ルートてしての役割も期待され、利用者の選択肢が増えるというメリットもあります。
中央道の支線は、かつての建設のライバルだった東名とのネットワーク形成により、いままでになかった新たな価値が生まれてきたのです。
観光に便利な支線
全国的にも珍しい中央道の支線である中央道富士吉田線は、さまざまな歴史を経て現在の形になりました。そして、最近では中央道富士吉田線単体での価値も高まってきているのです。
というのも、中央道富士吉田線を利用して観光に訪れる方の人数が飛躍的に伸びており、富士五湖周辺を例にとると、2011年に年間約13万人だった観光客数が2019年には約23万人と、約10万人増加したのです。
しかも2019年というと、まだ新御殿場バイパスや須走道路が開通する前のお話しになるため、アクセスがよくなった今後はさらなる観光促進が期待されます。
中央道富士吉田線の近郊には、富士山や河口湖をはじめとした魅力的で自然あふれる観光地から、山梨名物のほうとうや富士吉田名物の吉田のうどんなどのご当地グルメも充実しています。
また、東京都心からも順調に行けば車で約1時間30分と、意外とアクセスがいいため、日帰りでの旅行やドライブにもおすすめです。
今後、さまざまな観点から期待の大きい、中央道の支線、中央道富士吉田線にぜひ一度足を運んでみてください。
(写真・テキスト:のっぴー/編集:GAZOO編集部 岡本)
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