谷口信輝ヨタハチ驚愕のシェイクダウンとHKS86に見る最新ドリフト車のトレンド
レーシングドライバー谷口信輝選手の所有するたくさんのクルマの中に、トヨタスポーツ800、通称ヨタハチ、そして愛を込めてNOBハチと呼んでいるクルマがあります。
以前コラムを執筆いただいた際にそのストーリーを紹介していただいたのですが、だいぶ時間をかけてお仲間と共にクルマに手を入れていました。
そのクルマがようやく完成!ではないというものの、シェイクダウンの運びとなることを聞きつけまして、これはめちゃくちゃ見たい!と思いましてね(見たいけれど緊急事態宣言下…)。
サグラダファミリアとご自身がブログで表現されていましたが、谷口選手もこの瞬間をさぞかし楽しみにされていたことでしょう。その様子をフォトグラファーの折原弘之さんにレポートしていただきました。どうぞ!
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谷口信輝選手が所有するトヨタスポーツ800がついにシェイクダウンしました。とは言え、まだ公道を走れる状態ではありません。そこでHKS社のドリフト仕様トヨタ86のテストに合わせ、富士スピードウェイのドリフトコースで試走させるとのこと。どんなヨタハチになったのか、HKS社のドリフトマシンと共に、その詳細をレポートしようと思います。
「トヨタスポーツ800でドリフトしたい」という谷口信輝選手の思いから、2015年に動き出したヨタハチドリフトプロジェクト。朽ち果てかけていたヨタハチが、走れるまでに組み上がったので“我慢できずに試走させた”というのが今回シェイクダウンをした経緯です。
ヨタハチをレストアするにあたって、コンセプトが重要でした。オリジナリティを追求するのか、走りたいのか。この答えは簡単で、ドリフトしたいのだから、レストアというより一から作り上げるに近い感覚でしょうか。
まず車体の色ですが、この色に行き着くまでに何度も迷ったとのこと。谷口選手曰く、「最初はグレーでいこうと思ったんですが、それじゃつまらない。次に考えたのがカーキ。これでいこうと思ったんですが、なんか違う。最終的にグレーに青を混ぜて、スバルのXVと同じ色に決めたんです。屋内と屋外では、イメージが変わることもありますが、今回走らせてみてこの色で良かったと思えた」とのことでした。
ドリフトするために選んだエンジンは名機と言われた4AG(AE86などに乗せられていた1600ccのエンジン)AE111 5バルブエンジン ハイカム、ハイコンプチューン。エキゾーストマニホールドは、ワンオフで作ったもの。キャブレターは、CRキャブが4連でついていました。最高出力は180ps前後ですが、車重800kg前後のヨタハチには十分すぎるパワーですね。
足回りはロードスターのサスペンションを移植。一言で移植すると言っても、ボディサイズが違うのでここでも一苦労あったようです。しかも、図面と呼べるのは、写真の通りの落書きに近いスケッチのみ。かなり大変な思いをされたのがここからも見て取れます。ブレーキには、プロジェクト・ミューのキャリパーがついていました。
内装は、まだ出来上がっていませんでした。シートとステアリングは内張の8割くらいは、完成していましたがドア部分はまだむき出しのままです。
ラゲージルームは、行き場を失ったガソリンタンクがドーンと鎮座。レーシングマシンと見まごうばかりの完成度でした。
待ちに待った試走に、谷口選手も興奮を隠せない様子。ウォームアップを済ませたヨタハチを、ドリフトコースにスタンバイ。最初だから優しくスタートさせるのかと思いきや、ホイールスピンをさせながらスタート。いきなりドリフトを始めるではありませんか。谷口選手らしいと言えばらしいのですが、その思いっきりの良さにはビックリしました。
ひとしきり走らせた谷口選手は、満足そうに笑顔をうかべ「楽しい」と一言。やっぱりこの人は、クルマが大好きなんだと再確認させられる言葉ですね。そして、その後のヨタハチの方向性について、このクルマを手がける仲間たち、エンジン、ボディ、メンテナンスガレージの皆様とディスカッション。
最後には頭を下げ、「僕のワガママにお付き合いいただいてありがとう。今後もよろしくお願いします」と、感謝の言葉で今回のシェイクダウンを締めました。
仕上がり自体は7から8割程度とのことでしたが、谷口選手は満面の笑み。現地でも「カワイイ~~」を連発。ヨタハチに対する愛情が、溢れすぎてこちらまで幸せな気持ちになりました。このプロジェクトが完結したら、また報告させていただこうと思います。楽しみにしていてください。
デモンストレーション用HKS86に見るドリフトマシンのトレンド
富士スピードウェイのドリフトコースに持ち込まれた、HKSのデモンストレーション用トヨタ86から、最新ドリフト仕様のトレンドを紹介しようと思います。まず急ぎ足で、マシンの仕様を紹介したいと思います。
ベース車両は86、エンジンは2JZにボアアップキットを組んで、3.4リッター化。試作のタービンを乗せ、シングルターボで850psを発揮しています。パイプフレームにカーボンを貼り付けた車重は1t切りの900kg台。なんとパワーウェイトレシオは、限りなく1に近づいています。そしてドリフトマシンの特徴である、タイヤ切れ角はなんと60度。生粋のドリフトマシンとなっています。
コックピット内は実にシンプル。レースマシンに比べると、スイッチの類も一切なくステアリング、ペダルにタコメーターがついているだけ。特徴的なのは、サイドブレーキのレバー位置。ステアリング左サイドに、近い位置まで伸びていることでしょうか。
最近のドリフトマシンのトレンドの一つが、ハンドルの切れ角です。最近のドリフトは、なるべくドリフトアングルをつけていく傾向にあります。そのため、よりスピンしにくいようにタイヤの切れ角が必要になるのです。その結果、60度という、とんでもない切れ角になっていったとのことです。
もう一つのトレンドは、トラクションです。現在のドリフトでは、トラクションをかせぐ必要があるのです。何故ならば、ドリフト競技に「追走」というパートがあります。この追走で、ちょっとでも前走車に離されてしまうと、二度と追いつけなくなるからです。そのため、トラクションをかせぐことによって、前に進ませるということになります。簡単に言うとトラクションをかけることで、横滑りではなく斜めに滑らせるようにセットアップしているということだそうです。
トラクションをかけることで、デモンストレーションカーとして思わぬ副産物を得たそうです。それはタイヤスモークとのこと。トラクションをかけることで、地面との摩擦が強くなり、タイヤスモークもより上がるようになったそうです。タイヤスモークも、ドリフトを盛り上げる大切な要素です。デモカーには、うってつけの副産物と言えるでしょう。
コロナが落ち着き、イベントが再開されるようになれば、このトヨタ86が走る姿を見ることもできるでしょう。ドリフトマシンの迫力を、ぜひ現地で味わってほしいものです。
(写真&テキスト:折原弘之、編集:大谷幸子)
[ガズー編集部]
折原弘之
F1からさまざまなカテゴリーのモータースポーツ、その他にもあらゆるジャンルで活躍中のフォトグラファー。
作品は、こちらのウェブで公開中。
http://www.hiroyukiorihara.com/
レポーター(お)ねえさん・大谷幸子
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