リストリクター、ウェイトハンデなし!~2021年の体制を発表したGSRが掟破りのタイムアタックを敢行!~

みなさま、あけましておめでとうございます!今年もよろしくお願いします!
今年の1本目は、昨年末とてもユニークなチャレンジが行われましてそれを…。GOODSMILE RACING & TeamUKYのタイムアタックなのですが、スーパーGTで戦うGT3の車両が素の状態でどれだけのスペックがあるのかを実際に走らせて検証しようなんてことが行われたのですよ。これできそうで中々できないチャレンジです。何もかもレア。

走行一本目の慣らし走行は、一般のスポーツ走行枠を使ってますのでさぞかし走っていた方は驚いたのではないでしょうか。
結果的には、これ!という大きな結果は得られなかったようですが、それもやってみないとわからないことですので、行動に移したみなさんを尊敬します。

昨年、コロナ過で真冬に行われたスーパーGT最終戦、同じ真冬に富士スピードウェイでやってみた…というレポートをフォトグラファーでチームの公式カメラマンでもある折原弘之氏がお届けします。どうぞ!

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スーパーGT、GT300クラスに参戦する4号車、2020年をチームランキング7位で終えたGOODSMILE RACING & TeamUKYO(以下、GSR)が昨年末早々に2021年の体制を発表した。

まずエントラント代表は安藝貴範氏、監督には片山右京氏、ドライバーは谷口信輝選手、片岡龍也選手のコンビ。チーフエンジニアには河野高男氏と2012年から変わらぬオーダーで、2021シーズンの王座奪還を狙う。

そのGSRが、「シーズンを共に戦うメルセデスAMG GT3の“本当のポテンシャル”を知り、来シーズンをすっきりとした思いで迎えたい」という思いから、富士スピードウェイでタイムアタックを敢行することとなった。

本当のポテンシャル?と疑問をお持ちの方に説明しておこう。スーパーGTを走る全てのマシンは、BOP(バランスオブパフォーマンス)という考え方にのっとり、全てのマシンの性能を近づけることで、レースをよりエキサイティングにするためそのスペックを均衡に保つように決められている。

よって最初からハンデが課されるクルマもある。前年の成績等に応じそれは決定されるが、メルセデスAMG GT3に関して言えば、2020年のウェイトハンデは30kgとなった。

リストリクター(エンジンに入る空気量を規制する装置)は36パイ。本来の直径と比べれば、その差は歴然だ。

このハンディキャップは、デフォルトで課されているものだ。そしてこのハンデは、シーズン中の成績によって変動する。例えば優勝すれば、40kgのウェイトを搭載するとか、リストリクターの直径を小さくする。といった具合だ。

( SUPER GT OFFICIAL WEBSITE : https://supergt.net/

今回のチャレンジは、デフォルトの足枷を取ると、いったいどんなタイムが出るのだろう?というトライなのだ。

12月26日、2021年のカラーリングに身を包んだAMG GT3が富士スピードウェイのパドックに準備された。

設定されたタイムアタックのスケジュールは、13時からスポーツ走行で2本走り15時からタイムアタックに入るスケジュールだった。

しかし、スポーツ走行1本目にアクシデントが起こってしまう。その日は富士スピードウェイ年内最後のスポーツ走行ということもあり、走行枠いっぱいになるほどの盛況ぶり。クリアラップを取るどころか、ウォームアップ走行をするのがやっとという状況。

しかも、ドライバーのレベルもそれぞれなので、今思えばとてもGT3車両が全開で走れる状況ではなかったのかも知れない。それでも肩慣らしをするかのように、谷口選手は一般車の間を縫いながらAMG GT3を走らせていた。

ところが走行時間帯の30分枠が終わりに近づく頃、谷口選手のGT3が一般車と接触し、右リア周りに大きなダメージを受けてしまう。

マシンのダメージは深刻なもので、右リアタイヤ周辺のボディワークが壊れ、リアタイヤのアップライトも破損し、タイムアタックが微妙になるほどのダメージを負っていた。

しかし、ここからがレースメカニックの腕の見せ所。AMG GT3のフロア下に、これまで見たこともないような人数が潜り込み、15時の走行に向けて必死に作業を続ける。その甲斐あって、14時55分には作業を終え、無事タイムアタックを迎えることになった。

12月下旬にしては、気温も高く想像したよりもコースコンディションは悪くなかった。気温12度、路面温度15度のコンディションは、スーパーGT最終戦で、52号車埼玉トヨペットGB GR Supra GTがコースレコードを達成した時とほぼ同条件。誰もがコースレコードを、塗り替えると信じて疑わなかった。

コースを貸し切った時間は30分。最初の10分は、リストリクター有り。約5分の作業時間で、リストリクターを外し残り10分でアタックというシナリオだ。

クラッシュはあったものの、マシンのコンディションは上々とのことで、最初の10分で出したタイムは、最終戦で記録した自身が出したタイムとさほど変わらなかった。この事実は、最終戦に近いコンディションであることを裏付けた。リストリクターとウェイトをおろしタイムアタックに入る。

しかし、思ったほどタイムは伸びず…、コースレコードの1分34秒665には届かず、1分34秒864。数値的には最高速が8kmほど伸びて280km/hを記録。
はじき出された馬力は、30psほどのパワーアップになるとのこと。AMG GT3の公表出力が550psと言うことを考えると、10%にも満たない結果となった。

走行を終えた谷口選手に話を聞いてみると、若干渋い顔をしながらこう答えてくれた。

「今回は、リストリクターを外しウェイトを下ろすことでAMG GT3の素のポテンシャルを知るチャレンジでした。走行前は直線で290km/h出るんじゃないかとか、タイムが3秒近く上がるんじゃないか…などと話していましたが、そうはならなかったです。

36パイのリストリクターがおそらく70パイくらいにはなっているんですが、エンジンが吸い切らないんじゃないかと思います(ターボエンジンではなくNAなので…)。

ターボのブーストを上げた方が効果は高いと思います。もちろんコーナーの立ち上がりやトルク感はアップしてますし、加速のかったるさは軽減しているはず。そこがタイムアップに繋がりましたが、最高速は279km/hで止まってしまいました。

もちろん最高速は、空力性能とかも関わってくるしパワーと直結する訳ではないですけどね。激変したかって言うとそうでもなかった…と言う印象ですね」と語ってくれた。

そしてこう続けた。「AMG GT3は、GT3車両の中で一番重いし一番リストリクターが細いんです。それでもBOPが緩くならないのは、ヨーロッパのレースで成績が出ているからなんですよね。

ただ、ヨーロッパのレースは距離が長いんです。24時間とか8時間とか…。そこで勝てているのは、アベレージタイムがいいんですよ。だから、長いレースに強いわけ。ところがスーパーGTは300kmのレースですよね、アベレージが良くても予選で前に出にくいです。

しかし、今回、素の状態で、1秒ちょいタイムが上がったので、この仕様で2020年の最終戦の富士でトップタイムを出したマシンに近づいたことになります。いきなりココまで緩めて欲しいとは言いませんが、もう少しBOPを考えてくれると、2021年は自分たちも楽しいレースができるのにな…」と語った。

2021年シーズンのことはさておき、こんな面白いトライは今後も続けて行って欲しいと期待を込める楽しいタイムアタックだった。

(写真&テキスト:折原弘之、編集:大谷幸子)

折原弘之

F1からさまざまなカテゴリーのモータースポーツ、その他にもあらゆるジャンルで活躍中のフォトグラファー。
作品は、こちらのウェブで公開中。
http://www.hiroyukiorihara.com/